MicrosoftはWindows Insider Program (WIP) を通じて、新たに実装する機能の検証やユーザーフィードバックを得ることで、Windows 10の開発を続けている。だが、WIPは個人用Microsoftアカウントが必要であり、企業ユーザーがプログラムに参加することはできなかった。この流れが変わったのは2017年2月。職場や学校のアカウントで参加できる「Windows Insider Program for Business」が開始された。企業IT担当者や独立系ソフトウェアベンダーなどが、Windows 10 Insider Previewで自社製品の動作確認など検証が必要であるとの理由からだ。
インサイダープログラムはWindows 10に留まらず、Office 365やスマートフォン向けアプリケーションでもユーザーからのフィードバックを求めている。その潮流はオンプレミスサーバーにも広がった。最近では、Windows Server 2016のインサイダープログラムが始まり、7月中旬にWindows Server Insider Preview ビルド16237がリリースされた。
インサイダープログラムはVisual Studioなどの統合開発環境にも広がっており、見方を変えればMicrosoft Azureの新機能をプレビュー版として公開するのもインサイダープログラムの一種と言える。このような流れはいつかは始まったのだろうか。思い返すのは昔のベータ版やRC (Release Candidate) 版を一般ユーザーに広く公開した手法である。
1994年12月に登場したWindows NT 3.5日本語版は日本市場での普及を図るため、パソコン雑誌の付録CD-ROMに収録された。当時はインターネットも普及しておらず、広く周知する方法の一つとしてパソコン雑誌は有用な存在だったのである。その後インターネットの普及に伴って配布方法も変化し、Windows Vistaに至る2005年から2006年の間、申し込めば誰でも参加できるCPP(カスタマープレビュープログラム)にベータ版やRC版を提供し、リリースに至った。
アジャイル開発が認知された時期を明言するのは難しいが、著名な開発者たちがまとめた「アジャイルソフトウェア開発宣言 (Manifesto for Agile Software Development)」が公開されたのは2001年の話。そこから徐々にアジャイル開発が現場や開発責任者にも広まり、MicrosoftはWaaS(Windows as a Service)を選択した。
このように現在のMicrosoftが、大半の製品やソリューションに対してインサイダープログラムを適用するのは、自然の流れと言えるのではないだろうか。例えばWIPのファーストリングは、OneDriveオンデマンドやバッテリーコントロールなど最新機能を即座に試せるという大きなメリットがある。他方で安定性を損なう部分があり、万人にお薦めするのは難しいのも確かだ。その場合はスローリングという選択肢があるものの、前述のメリットを享受できない。
そこで開発 (Development) と運用 (Operations) の混成語である「DevOps」というキーワードが現れる。アジャイル開発とDevOpsは似て非なるものだが、WIPのファーストリングのように頻繁なリリースを行う場合、現在実施中のWindows 10 July 2017 Bug Bashのように運用側のアプローチで、高い信頼性と頻繁なリリースを可能にする環境が実現可能になる。ただし、Microsoft Windows and DevicesチームにQA (Quality Assurance: 品質保証) チームが存在するのか知らないが、同様の役割を担う部署に所属する方の話は何度か耳にしてきた。
本来DevOpsは開発と運用、そして品質保証の3つがバランスよく合致することでベストプラクティスにつながっていく。だが、Windows 10リリース前からWIPに参加してきた筆者が見る限り、QA部分をさらに強化すれば、Microsoftが望むインサイダープログラムを実施できるのではないだろうか。
クラウドビジネスに注力するため、Microsoftがリストラを実施するという話は周知のとおりだが、日本国内でも人員配置の変更など多くの噂話が筆者の耳に飛び込んでくる。必然的にWindowsやOfficeは最注力分野ではなくなるものの、インサイダープログラムを推し進めるのでは、強化すべきポイントは明らかだ。プログラムの拡充をMicrosoftが望むのであれば、少しだけ舵をきるとべきだと愚見したい。
阿久津良和(Cactus)