医療機器や材料の進化、さらには「プチ整形」というキャッチーな言葉のおかげで、急速に浸透していった美容医療。「バレたら恥ずかしい」という意識から、隠れて施術を受ける……という感覚は過去のものになったと言えるのではないだろうか。

「手っ取り早く悩みを解決できる」「ずっと若々しい印象をキープできる」など、自力のケアとは比べ物にならないメリットがあることは確かではあるが、美容医療はエステとはまったく異なる。安易な施術は危険と隣り合わせであることや、デメリットもあることまでわかって施術を受けている人は、いったいどれだけいるのだろうか。身近になった今だからこそ、美容医療について正しく知っておく必要があるだろう。

そこで今回は、医師の視点からみた美容医療の現状や真実、そしてこれからについて北里大学形成外科名誉教授・塩谷信幸先生に聞いてみた。

美容医療の現状に迫る

形成外科と美容外科は手術の原因が違う

美容医療の始まりは、外科が進歩する19世紀初頭から20世紀の初めにかけて。体の機能改善の必要がなくても、ただ形を整えることを目的にした形成外科から発展した。日本に到来したのは50~60年前で、それまでは形成外科に相当する施術を耳鼻科や皮膚科、眼科で行っていた。

もともとは「患者が社会復帰をするため」という名目で外見の治療が認められていたが、しだいに形を整えるだけでなく、「美容的なニーズ」に応えられる医師の必要性が高まり、いわゆる美容整形が発展してきた。

二重にしたり鼻を高くしたりすることを美容整形と呼ぶため混乱しがちだが、形成外科と美容外科と整形外科はそれぞれの役割が全く異なる。

■整形外科……骨・関節・筋肉・じん帯・脊髄など、運動機能の回復を目的とした治療をおこなう分野

■形成外科……火傷や交通外傷、病気など、先天的・後天的な形態異常を扱う分野

■美容外科……生まれつきの容貌・容姿を美しくするために手術をおこなう分野

整形外科は骨や関節を扱う分野で、美容とはまったく関係のない分野。そもそも「美容整形」という分野は法律上なく、二重にしたり鼻を高くしたりという施術を行うのは、美容外科と形成外科だけ。

形成外科は病気や外傷を負って崩れた顔など、醜形を皮膚移植などで治す分野のことを指す。それに対して美容外科は、生まれつきの容貌や容姿を美しくするために手術などを行う分野のこと。つまり、形成外科と美容外科はやることは同じでも、手術に至る原因が違うというわけだ。