一年に一度の夢の球宴が今年もやってくる。プロ野球のスター選手が一堂に会する「マイナビオールスターゲーム2017」は、ナゴヤドームで14日午後7時から第1戦が、舞台をZOZOマリンスタジアムに移して15日午後6時から第2戦がそれぞれプレーボールを迎える。力と技を真っ向からぶつけ合うヒノキ舞台で、今年はどのような伝説が生まれるのか。注目すべき見どころを4つピックアップした。
伝説のストレート勝負再び。菅野智之vs柳田悠岐
小細工はいらない。求めるのはただひとつ。昨シーズンに続いてファン投票で選出されたセ界のエース・菅野智之(巨人)が、パ・リーグの打撃三部門でトップに立つミスターフルスイング・柳田悠岐(ソフトバンク)とのストレート一本勝負を熱望している。
ストレートへのこだわりは、実は誰よりも強い。一方で人並外れた指先の感覚を兼ね備えるゆえに、カーブやスライダー、シュート、カットファーストボール、フォークなどの多彩な変化球もまじえて相手バッターを翻弄。チームの勝利を最優先させてきた。
しかし、一年に一度の夢舞台となると話は別だ。脳裏には東海大相模高校2年の夏の思い出が、いまも鮮明に刻まれている。2006年7月21日。神宮球場で行われたオールスター第1戦。セ・リーグが2点をリードして迎えた9回表だった。
6番手としてマウンドに上がった藤川球児(阪神)が、右打席に立つカブレラ(西武)へ握りを見せる。すべてストレートで勝負するという、過去にもほとんど例がない予告投球。カブレラもフルスイングで受けて立ったが、3球連続で空振りに終わった。
続く小笠原道大(日本ハム)にもすべてストレート勝負を挑み、空振り三振に斬ってとった。投じた10球すべてが150kmを超えた。プロの一流打者が、ストレートとわかっていても打てない。目の前で繰り広げられた野球漫画のような光景にファンは酔いしれ、喝采を送った。
夢の続編を演じられる投手は、セ・リーグでは菅野しかいない。そして、いまのパ・リーグには、カブレラや小笠原からフルスイングのバトンを受け継いだ柳田がいる。トリプルスリーを達成した2015年からさらにスケールアップ。序盤の不振から一転、三冠王を狙えるほど調子をあげてきた。
昨年のオールスター第1戦の1回裏でも、両雄は対峙している。先発した菅野が投じた初球、151kmの内角高目のストレートをフルスイングするも、ボテボテの一塁ゴロに終わった。
11年もの時空を超えて、伝説の予告ストレート勝負が再現されるのか。「すべて真っすぐで勝負できれば。力勝負でファンを沸かせたい」と意気込む菅野は、前半戦最後の登板となった11日のヤクルト戦でハーラートップとなる9勝目をマーク。モードをオースルターに切り替え、柳田と対峙する瞬間を待っている。
盗塁阻止率1位か、成功率1位か。梅野隆太郎vs西川遥輝
福岡大学から2013年のドラフト4位で阪神に入団して4年目。正捕手の座を射止めた梅野隆太郎が、WBC日本代表の小林誠司(巨人)を抑えてファン投票で選出され、憧れだったオールスターの舞台に立つ。
梅野の武器は遠投120mを誇る強肩とコントロールのよさ、そして、2秒を切れば優秀と評価される二塁送球に要する時間が、平均1.9秒という素早さだ。これらが組み合わされた結果が、セ・リーグで1位となる.378の盗塁阻止率となって表れている。
今年の軌跡を振り返れば、4月4日のヤクルト戦で2年連続盗塁王の山田哲人の二盗を阻止。同14日の広島戦の初回には、先発・メッセンジャーの投球がワンバウンドする難しい状況にもかかわらず、正確なキャッチングと素早い送球で俊足の菊池涼介を二塁で楽々刺している。
高い数字をキープする盗塁阻止率の秘訣を聞かれた梅野は、「今年は『ランナーが走ってこい』と心のなかで思いながらプレーしています」と答えたことがある。そう簡単には成功させないという自信を、試合を重ねるごとに深めてきたことがわかる。
迎えるオールスター。梅野の牙城をかいくぐり、二塁を陥れる韋駄天の一番手として期待されるのが、2014年の盗塁王・西川遥輝(日本ハム)だ。もっとも、この年は43盗塁をマークする一方で盗塁死も11を数え、成功率は79.6%にとどまっていた。
そして、2015年は30盗塁、2016年も41盗塁をマークしている西川は、81.1%、89.1%と成功率を年々アップさせている。今年に至っては25盗塁で西武のルーキー・源田壮亮に1差をつけてトップに立つ一方で、失敗はわずか2回。成功率はついに大台を超えて92.6%に達している。
リードの取り方やスライディングを含めて、走塁技術がどんどん磨かれていることが数字からも伝わってくる。けがで出場を辞退したチームメイトの近藤健介に代わり、智弁和歌山高校(和歌山)から入団して7年目にして初めて選出された夢舞台。梅野がマスクをかぶり、西川が一塁走者となった状況から、盗塁の阻止率と成功率でトップを走る男同士が火花を散らしあう。
3度目の"カープ祭り"へ。最多タイの7人が臨む
昨年に続いてセ・リーグで最多、両リーグを通じては昨年がロッテ、今年はソフトバンクと並ぶ7人がオールスターに出場する広島。2位の阪神に8ゲームをつける独走で首位ターンを決めた強さと勢いを、夢の球宴でも存分に発揮してほしいとファンも望んでいるはずだ。
オールスターにおける"カープ祭り"で思い出されるのは、2014年7月18日の第1戦。この年は8人が選出され、そのうち丸佳浩が1番、菊池涼介が2番、ブラッド・エルドレッドが4番で先発。7回のダメ押しのホームランを含めて、3安打4打点と大活躍したエルドレッドがMVPを獲得した。
投げては前田健太(現ドジャース)が先発。3回を散発2安打、3奪三振で無失点に封じて敢闘選手賞に輝いている。丸も1安打、菊池は2安打1打点をマークしているが、カープ勢がさらに衝撃的な大活躍を演じた年もある。
オールドファンにはいまや懐かしい、1975年7月19日に甲子園球場で行われた第1戦の初回だった。3番に大抜擢され、王貞治(巨人)、田淵幸一(阪神)とクリーンアップを組んだ山本浩二が太田幸司(近鉄)から2ランを、6番に入った衣笠祥雄がソロを放つ。
痛快無比なドラマはまだ終わらない。2回には山本が3ランを、パ・リーグを代表するエース、山田久志(阪急)から一閃。オールスターでは20年ぶりとなる2打席連続アーチの余韻が残る3回には、衣笠もソロアーチを夜空にかけた。2人が2打席連続本塁打を放つのは、もちろん球宴史上初の快挙だった。
投げては2番手で登板した外木場義郎が3回を無失点に封じ、セカンドで先発した大下剛史も1安打をマーク。MVPは3安打5打点の山本が文句なしで獲得。セ・リーグがあげた8点のうち、山本と衣笠の2人で7点をあげてみせた。
それまではペナントレースでいいスタートを切っても「鯉の季節」まで、つまりは5月初旬には息切れし、下位に沈むパターンを繰り返していた広島だが、この年は3位で球宴へ突入。いったい何が起こっているのか、と不思議がっていたファンに、強さの原動力をこれでもかと見せつけた。
さらに勢いに乗った広島は8月になると首位に浮上し、そのまま2位以下を寄せつけずに悲願のリーグ初優勝を達成した。オールスターで躍動した赤いヘルメットが、全国区になった瞬間でもあった。
今年の球宴に臨むのは投手で岡田明丈と薮田和樹、内野手では新井貴浩、菊池、田中広輔、外野手では鈴木誠也と丸。昨年は25年ぶりにリーグを制しながら、クライマックスシリーズを勝ち抜いて臨んだ日本シリーズで日本ハムに屈した。1984年を最後に遠ざかっている日本一へ。球宴での“カープ祭り”を三度演じることが、悲願への序章となる。
豪腕と豪打による真っ向勝負。松井裕樹vs筒香嘉智
ソフトバンクに1.5ゲーム差をつけて、首位ターンを決めた楽天。開幕から好調をキープしてきたチームを支える一人が、守護神の松井裕樹となるだろう。
球団史上初の2年連続30セーブ以上をマークして臨んだ今年は、前半戦だけですでに27セーブをマーク。サファテ(ソフトバンク)とトップに並んでいるが、特筆すべきは0.22という防御率だ。40回と3分の2を投げて被本塁打はいまだゼロ。ヒット自体も19本しか打たれていない。
奪った三振数は46個。1試合(9イニング)当たりの奪三振数、いわゆる奪三振率は10.20にのぼる。抑えに回った2015年の33セーブを更新するのはもはや時間の問題で、この調子を維持していけば、同年にマークした防御率0.87をも大きく上回るだろう。
4月25日のロッテ戦では、1点リードの9回裏に対戦した打者3人をすべて三球三振で、それも空振りで奪う快投を披露。まさに難攻不落。最終回に松井がマウンドに上がっただけで対戦チームが白旗をあげそうな安定ぶりだが、ここまででひとつ、心残りがあった。
今シーズンの交流戦で対戦したい打者として、実は筒香嘉智(横浜)をあげていた。理由は単純明快。打席で発するオーラが、他の打者とは明らかに異なるからだ。しかしながら、今年の3連戦では残念ながら松井の登板機会が訪れなかった。
だからこそ、夢の球宴での対決を心待ちしているはずだ。左対左は投手が有利と言われているが、筒香は例外だ。2015年には対左腕で.370のハイアベレージをマーク。この年に首位打者を含めたトリプルスリーを達成した山田哲人(ヤクルト)の.347を大きく上回る1位となっている。
昨年は44本塁打で、打点王(110打点)とあわせて初のタイトルを獲得。打率(.322)も3位と三冠王獲得も視野に入れるまで成長した。大きく出遅れてしまった今年はようやく調子をあげてきたが、左右の投手別の打率を比べると、若干ながら対左投手のほうが上回っている。
入団当時から絶賛されてきたバットスイングの速さは、ますます凄味を増している。打順の巡り合わせや試合展開にもよるが、勝負がかかった終盤で両雄の対決が実現すれば――豪腕と豪打から真っ向から激突する光景は、夢の球宴に新たな名勝負列伝を刻むはずだ。
■筆者プロフィール: 藤江直人(ふじえ なおと)
日本代表やJリーグなどのサッカーをメインとして、各種スポーツを鋭意取材中のフリーランスのノンフィクションライター。1964年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒。スポーツ新聞記者時代は日本リーグ時代からカバーしたサッカーをはじめ、バルセロナ、アトランタの両夏季五輪、米ニューヨーク駐在員としてMLBを中心とするアメリカスポーツを幅広く取材。スポーツ雑誌編集などを経て2007年に独立し、現在に至る。Twitterのアカウントは「@GammoGooGoo」。
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