資産運用と聞くと、富裕層、土地の所有者、退職金をもらったり、まとまった遺産を相続したりした時などをイメージしますが、たとえ10万円でも、しっかり活用すれば、立派な資産活用なのです。預貯金とのバランスを取りながら、将来に向けて長い目で資産形成を考えると、最初の10万円がその第一歩になるかもしれないのです。むしろまとまった金額の退職金はこれからの老後の生活に大切な資金です。よほど資産がある場合でない限り、元本が保証される預貯金等に預けてリスクを避けたいものです。

資産活用のいろいろ

新入社員として働き始めて、やっと10万円を貯めることができたとして、さあこれをどう活用しようかと考えたと仮定します。通常の答えは貯蓄です。まずはある程度不測の事態に備えるべく、元本が守られて、いつでも自由に引き出せるお金を一定金額プールする必要があります。もちろん10万円では少ないので、その第一歩です。

一方で、語学学習や資格取得のための講習に通って自分に投資するのも立派な資産の活用です。スキルアップは早いほど効果的ですし、目前に仕事に必要な資格試験が迫っているかもしれません。投資したお金はいつか収入アップとして帰ってくるはずです。つまり投資に対するリターンです。万一の場合は一時的に親に頼れる年齢の間に、貯蓄よりも自分に投資をという考え方もなくはありません。

また、先々の人生までを見据えたライフプランニング上、失敗が許される今の時期に多少リスクをとっても投資をスタートさせるという考え方もあるかもしれません。投資は長い目で考えるもので、一時的には損失を生んでも長い目で見て、より多くの利益を獲得でき、物価上昇のリスクを回避しながら資産形成していくものです。もちろん預貯金の貯蓄の遅れは早々に取り戻す必要があります。

10万円で始める資産形成

毎年10万円余裕があるとすると、何に投資すればよいでしょうか。基本的には積立タイプの商品がお勧めです。10万円以内で購入できる単体の金融商品はありますが、資産形成は継続が重要です。ただし、財形貯蓄や積立型の定期預貯金以外は元本の保証はありません。

■ 財形貯蓄

一般財形貯蓄、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄の3タイプあります。会社が制度を導入している会社員が利用できます。一般財形貯蓄は使用用途に制限はありませんが、利息は課税されます。財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄は所定の目的に使う場合のみ非課税です。また、3タイプとも住宅取得の際には財形持家融資制度を利用することができます。

■ 積立型の定期預貯金

金融機関によっていくつかのタイプがありますが、ゆうちょ銀行の場合は月々1,000円から始められます。

■ ミリオン

原則、給与天引きで株式投資信託を買い付けていくもので、5,000円から投資できます。

■ るいとう

株式投資は銘柄にも寄りますが、最低単位の単元株の購入でも、50万円くらいは必要となるでしょう。るいとう(株式累積投資制度)の場合は、通常1万円以上からスタートできます。累積の結果、持ち株数が単元株に達すれば株主としての権利も得られます。

■ 積立型の投資信託

1万円以上から可能です。

■ 純金積立

10万円でも金は変えますが、100g程度購入しないと手数料の負担比率が大きくなります。現在の金地金の価格は1グラム5,000円ちょっとです。手数料は田中貴金属工業によると、5・10・20gは4,320円、50gは8,640円、100・200・300gは16,200円、500g・1㎏は無料となっています。それに対して純金積立は3,000円から行えます。

■ 確定拠出年金

企業型と個人型がありますが、2017年の1月より、60歳未満の人は原則として個人型確定拠出年金の加入が可能になりました。専業主婦でも年額27.6万円を限度として加入できます。

それぞれの積立商品を見てわかるように、たとえ10万円でも何に使うかなど将来の人生設計が重要となります。

100万円で始める資産形成

100万円はサラリーマンにとって、かなりまとまった金額です。しかし数回分のボーナスを合わせれば不可能な金額ではありません。ボーナスはあくまで臨時収入なので、使わずに投資してみてはいかがでしょうか。もちろんボーナスのない場合は、毎月の収入の中から節約してねん出しなければなりません。投資に限らず、いざというときの預貯金も、まずは100万円を目標にしてみましょう。頑張って一定程度の預貯金が確保できたら、同じ勢いで資金を貯めて将来のために投資も考えてみましょう。

100万円で有利な投資先といえば、非課税枠があるNISAがあります。100万円に対して3万円の配当金があった場合、20.315%の税金が差し引かれると、手取りの配当は約2.4万円になります。長い目で見ると非課税枠は大きいのです。同時に売買や管理に費用が掛かるかどうかも重要です。投資信託などは、商品によって差がありますが、購入時の手数料、信託財産留保額、運用管理費用(信託報酬)、監査費用、売買委託手数料など、直接・間接的に諸費用を負担しなければなりません。銀行はその分儲かるので、しきりに勧めますが、反対に購入者はその分ももうからないことになります。「非課税で諸費用の負担が少ない、中身がよくわかる」が最初の投資先として考えるポイントです。

※NISAとは
年間120万円までの投資金額が非課税となり、その期間は5年間となります。つまり5年間で非課税枠は一人600万円です。株式や投資信託から得られる配当金や分配金が対象です。5年後に課税口座に移すか売却するか、次年度の非課税投資枠にロールオーバーするか選べます。

1,000万円ではじめる資産形成

一般のサラリーマンが、1,000万円の資金を手に入れることは退職金や遺産相続でもしない限りめったにありません。コツコツと貯めた預貯金等であれば、使い道はすでに決まっているはずです。例えば1,000万円を相続で受け取り、緊急に使う予定のない資金であれば、元本が守られるもの、少しリスクがあるけどリターンも少し期待できるもの、リスクは大きいけどリターンもかなり期待できるもの等に分散投資してはいかがでしょうか。比率はその方のその時の状況や考え方で、リスクの高いものの比率を調整すればよいのです。老後の生活に絶対必要な資金であれば、全額元本が守られるものに預け入れればよいのです。

全国からの電話で相談を受け付ける相談業務に従事したことがありますが、亡くなった夫の退職金全額数千万円を投資信託購入させられた方の相談を受けたことがあります。高齢で投資の知識が全くないのを承知で、全額投資させられていました。あっという間に値下がりして相談されました。確たる投資先が確定するまでは、元本が保証さる1,000万円ごと、別の銀行を分け預貯金にひとまず預けてゆっくり考えましょう。

もちろん、以前から研究していた投資先があり、資金が手に入ったときに実行に移すのであれば、当然どんなリスクがあるかも熟知しているはずですので一括投資するケースも考えられます。そうでなければ、とりあえず安全な預貯金にプールし、投資先を検討し分散投資をお勧めします。

10万円も100万円、1,000万円もそれぞれに重みがあります。10万円をいかに投資するかをしっかり考えられないのであれば、100万円、1,000万円も同様でしょう。1,000万円も10万円の延長にしか過ぎないことを考えれば、自分に合った投資先を選択することができると思います。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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