ソフトバンクは7月10日、富士登山シーズンに合わせた通信サービスの強化について、プレス向けの現地見学会を実施した。今年は山頂に2カ所の「基地局」を設置することで大幅に帯域をアップするという。山頂でのLTE/3Gのサービスは、7月上旬~9月上旬の期間限定となっている。

おそらく今までで一番ハードな取材先。写真は5月に撮ったもの

ソフトバンクは2001年から毎年、山開き期間中の富士山頂に無線局を設置してきた。麓の無線局から登山ルートにアンテナを向け、登山道のエリア化を行い、あとは山小屋の協力により設置した「リピーター局」で補完する。

リピーター局はエリア拡大には有効である一方、転送能力があまり高くないため、多くの人が利用すると「バリ5なのに通話できない」(ソフトバンク モバイル技術統括 楠見氏)こともあるという。

また、富士山では日の出に合わせて「御来光渋滞」が起きる。多くの利用者が一斉に御来光の画像をメールやSNSで送ろうとすると、時間がかかってしまうのだ。

そこでソフトバンクは、富士山に6つの基地局を設置する。うち5つは無線エントランス技術による伝送路を使用し、大きく帯域を確保した (御殿場口五合目のみ有線接続の基地局を設置)。

無線エントランスは、基地局とのデータのやり取りを無線で行うもの。中央付近に無線エントランスのためのアンテナが付いている(右)。今回見たものは、すべて四角く平たい「アレイアンテナ」を使用していた

こちらは須走口五合目に設置された基地局で、麓からの信号をアレイアンテナで受け取り(左)、基地局の設備で変換して(中)、LTEアンテナから登山路に向けて発信する(右)

今回の取材範囲ではないが、御殿場口は有線接続による基地局が用意されているという(5月に撮影)

今回の基地局は、五合目が「須走口」「富士宮口」、八合目が「富士山ホテル」、山頂が吉田ルートや須走ルートの頂上に近い「山口屋」と富士宮ルートの頂上に近い「富士館」に設置。全体的に須走ルートがもっとも恩恵を受けるように思う。

しかし、富士登山者の61%が吉田ルートを使っているので、吉田口五合目に基地局があってもよいのではと感じた。なお、富士スバルライン五合目にはリピーター局が設置されており「来年以降に基地局が設置可能かどうか確認中」ということだ。

本八合目の無線設備も壁面に取り付けられている。一番上の四角いのが無線エントランスのアンテナで、その下に長い筒状のものがLTEアンテナ(比較的指向性が高いもの)で八合目から下を担当。左側は本八合目から山頂を担当するLTEアンテナ

こちらは山頂の基地局の無線エントランス用アンテナ。アンテナが白いのは「空に溶け込む」景観を配慮したもの。ここ以外のアンテナはすべて茶色っぽい色に塗られていた。これらの色に関しては環境省と協議しているそう

山頂基地局の無線設備。ここだけは屋内設備のようだ

富士山ホテルの利用者向けのノベルティグッズ。配布方法は山小屋にまかせているとのこと

余談だが、富士山には登山道以外に山小屋に物資を運ぶ「ブルドーザー道路」があり、これを使用して基地局設置のための機材を運搬したのだという。

物資輸送はブルドーザーを使用したという

富士山頂のアンテナと基地局は、9月10日の登山シーズン終了をもって撤去される予定だ。撤去の理由について質問したところ、アンテナに関しては「冬の環境に耐えられないため」、基地局は「結露の可能性がある状態で性能が維持できるかわからないため」との回答が。過酷な冬山ならでは、という感じで印象的だった。