京王線府中駅南口に直結する複合施設「ル・シーニュ」が、7月14日に開業する。このエリアにはすでに、商業施設「フォーリス・伊勢丹」と商業住居複合施設「くるる」が展開されているが、「ル・シーニュ」は商・公・医・住一体型として展開することで、それぞれを補完し合う府中の"新しい顔"として街を支えていく。
けやき並木など街に馴染んた演出を
「ル・シーニュ」はフランス語で「萌(きざ)し、予感」を意味する言葉。かつて、東京・埼玉・神奈川の一部にまたがるようにあった広大な「武蔵国」の国府が置かれた府中の歴史になぞられ、府中駅を降りて目の前に広がるファサードは、大きな門型のデザインを採用している。また、ガラスのカーテンウォールや巨大な光壁「あかり舎(あかりや)」による光の演出、けやき並木に呼応した木調の格子など、街並みに溶け込んだ歴史と伝統を感じられる新しい風景を生み出している。
「ル・シーニュ」は、地下1階から地上4階までは商業ゾーン「SHOP PODS」として物販店舗・飲食店舗・サービス店舗・クリニックなど87店舗が入居(7月14日時点)。地下2階と5階・6階部分は公共施設、また、7~15階は野村不動産の分譲住宅「プラウド」を含む住居ゾーンとなる。
店舗自体は96店舗まで出店が可能となっており、今後また新しい店舗の展開も待たれる。現在の87店舗の内、無印良品など約30店舗は元々、府中駅周辺で展開していた店舗だが、今回の「ル・シーニュ」を機に再び府中へ帰ってきた、または、新たなコンセプトにリニューアルしての運営となる。その意味で、近隣住人にとっても慣れ親しんだ店舗を楽しめる場所にもなるだろう。
府中駅南口第一地区市街地再開発組合理事長の大熊信由氏は、「一般の方から、『少し気取った食事がしたい』『心惹かれる雑貨店が市内にない』という声をいただくことがありました。その意味で、少し冒険的な店舗展開もしています。施設全体は府中の街に馴染むよう、ファミリーでの利用を考えました。その中でも、家族の財布を握るであろう女性を意識した店舗が充実しています。もちろん、オシャレを楽しみたいという男性にとっても魅力を感じてもらえるのでは、と思っています」と語る。
手軽なオシャレもちょっときどった食事処も
地下1階にはスーパーマーケット「京王ストア」が出店。1階は手軽に楽しめるファストフードや居酒屋、カフェ、スイーツなど、周辺住人や周辺企業に勤めるビジネスパーソンが便利に使える飲食店が多く入居している。4階には「府中クリニックモール」(耳鼻咽喉科、小児科、眼科、歯科、内科、整形外科、皮フ科、薬局)のほか、音楽教室や英会話教室、リラクゼーション、美容室などを展開している。
店舗展開のメインとなる2・3階には、100円ショップ「ワッツウィズ」や300円均一・バラエティ雑貨「ミカヅキモモコ」のようなデザイン性の高いプチプラ雑貨のほか、和食器・キッチン雑貨「吉祥寺菊屋」、等身大のオシャレを楽しめるレディースファッション「AMERICAN HOLIC」、趣味から競技まで幅広くランニングライフを彩るショップ「ステップスポーツ」などを展開。
また、同じ3階にはカフェ・レストランゾーン「DELI POD」がある。このエリアには今まで府中で店を展開してきたイタリアン「テラコッタ」や居酒屋「目利きの銀次」のほか、府中に初出店となる湯葉と豆腐の店「梅の花」も出店。梅の花にはお座敷の個室もあり、お祝い事の場としても利用できる。
「ル・シーニュ」が初の取り組みとなるのが、3階に展開している無印良品の一角にあるカフェレストラン「Cafe&Meal MUJI/H.I.S」。H.I.Sと無印良品が旅をテーマにして初コラボした店舗で、カフェの中にH.I.Sのカウンターや、旅をテーマにした無印良品のアイテム展示を展開。テーブルにはさりげなく旅心を刺激する本が飾られていたり、旅心を刺激するデリをそろえたりと、ちょっとワクワクした時間が過ごせるようになっている。
こうした店舗を展開することで、「ル・シーニュ」は周辺施設の「フォーリス・伊勢丹」や「くるる」と"競合"ではなく"共存"することを目指し、既存の施設にはないもの・ことを提案してくれる。
府中ライフを豊かにする公共の空間
施設の2階には、コミュニティ&イベント広場として「ギグ・コート」を設置。「GIG(ギグ)」とは英語のスラング(俗語)で、音楽やシアターなどのライブパフォーマンスを楽しんだり気に入ったりすること。施設のギグとなるさまざまな催しで、人が集まる場所=「COURT(コート)」になってほしいという想いが込められている。7月14日~16日には、24台のカメラで360度からの動画を撮影できる「府中でJUMP」を実施しており、無料で誰でも参加できる。
府中市民の新しい活動の場として、地下2階は「府中市立府中の森芸術劇場分館」を設置。「ル・シーニュ」のコンセプトに合わせた木調の空間に、全室防音機能が施された4つの音楽練習室があり、合唱、太鼓、バレエをはじめ、ヨガやリトミック等で幅広く利用できる。貸出備品は有料となる(一部無料)。
5~6階の市民活動センター「プラッツ」は、市民生活をより豊かにする開かれた施設となっている。具体的には、5階に市民活動に利用できる「作業スペース」や大小7室の「会議室」、284人の収容人数を誇るホール「バルトホール」や、「カフェラウンジ」「キッズスペース」「情報・雑誌コーナー」など、6階に「和室」や「料理教室」、「起業支援・個人有料利用コーナー」などを備えている。なお、7~15階には「プラウド府中ステーションアリーナ」があり、全138戸は即日完売したという。
「ル・シーニュ」は初年度の売上げ目標を90億円と定めている。府中の周辺を見てみると、9月29日に調布駅周辺に商業施設「トリエ京王調布」が、2018年には国分寺駅周辺に商業施設の開業が予定されている。しかし大熊氏は、「われわれはあくまでも、府中駅から3km圏内を見据えた再開発を進めている」と話す。商業的な施設としてだけではなく、府中に住む人々にとって必要なもの・こと、魅力を感じるもの・ことに応え、寄り添う空間として、「ル・シーニュ」は府中の暮らしを支えてくれることだろう。