こんにちは! 広告写真家の熊谷直夫です。明日は撮影に出掛けようと意気込んでいたのに、朝起きてみるとあいにくの雨……。そんなことがときどきありますよね。でも、雨だからといって撮影を諦める必要はありません。雨天でしか撮れないシャッターチャンスはたくさんあります。今回は雨の日の撮影術をお伝えしましょう。
白い空を避けて、濡れた地面を狙う
1枚目の写真は、オーストリアにある世界遺産のひとつシェーンブルン宮殿です。はるばるウィーンまでやって来たのに雨なんて……、と普通の観光客なら嘆くところですが、カメラマンにとって雨天は好都合な面もあります。ふだんよりも人の姿が減り、景観をしっかり撮影できるからです。それに、こうした有名な場所の晴天写真はすでに多くの人が撮影しているため、むしろ曇天ならではの、しっとりとした雰囲気の写真のほうが希少価値が高いといえます。
撮り方のポイントは、空の面積を最小限にしたこと。遊覧馬車を前景に配置しつつ、宮殿を画面いっぱいに捉えています。雨天の空は、写真に撮ると真っ白に飛んでしまい、見栄えがいいとはいえません。雨天や曇天では、白い空を極力省くようなフレーミングをおすすめします。
雨天ならではの被写体としては、「水たまり」が狙い目です。こうした荘厳な建物を目の前にするとつい建造物自体に気を取られがちですが、ちょっとだけ視点を変えることで、水たまりに映った宮殿といったう詩的な眺めが見つかります。少々季節外れの作例ではありますが、下の写真では、水たまりに生じた「水紋」と桜のコラボレーションを狙ってみました。
雨によって「濡れた地面や建物」を撮るのも効果的です。特に石畳の道や石造りの建物は、雨に濡れるとツヤっぽく輝き、晴れの日とは違った表情を見せてくれます。
雨を撮るのに最適なシャッター速度は?
雨そのものをテーマにして撮る場合は、マクロレンズを使って「雨滴」を接写するのがおすすめです。雨滴を撮るために特別な場所に出掛ける必要はありません。近所の公園でも、あるいは自宅のベランダでも構いません。雨滴がついた花や葉っぱ、石などを探し、それをクローズアップで撮れば、それだけで絵になります。
下の写真はビニール傘に付着した雨滴をスナップしたもの。このように雨滴のついた傘やガラスを通して、風景を捉えるのも面白いかもしれません。ちなみに撮影場所は当社スタジオの正面玄関です。
付着した雨滴ではなく、まさに降っている最中の雨を撮る場合は、少々難易度が高くなります。ただなんとなく雨に向けてシャッターを切っても、雨自体がブレたり、背景に溶け込んだりして、降雨らしい写真にならないことがよくあります。雨をはっきりと写すには、できるだけ暗い背景を選ぶことが重要です。シャッター速度については、1/30~1/125秒くらいの中速を選ぶと適度にブレが生じて、降っている感じが伝わりやすくなります。
さらに、雨の必需品である「傘」を撮ることで、間接的に雨らしさを表現する手もあります。下の写真は、スコットランドのエディンバラ城です。そもそも雨が多い地方であり、最初から晴天は諦めていましたが、このときはタイミングよく赤い傘を差したブロンド女性が現れ、モノトーンの風景に色と輝きを与えてくれました。