FPGAは自動運転の切り札になるのか?

さらに、自動運転時代に必要とされる半導体デバイスとしての最大のポイントは高い性能を維持しつつ、消費電力を抑える必要がある、という点にある。自動運転車の開発のみで言えば、GPUをグラフィックス以外の用途に展開し、急成長を続けるNVIDIAが先行しているイメージを受けるが、現状のGPUでは、どうしても消費電力が自動車メーカーが要求するレベルよりも高く、あくまで研究開発用途、という位置づけからの脱却が難しい。ではx86のCPUは、というと、こちらも要求性能を考えれば、現状のAtomでは力不足であるし、それ以上のプロセッサともなれば、要求される電力レベルに比べては消費電力が高い、という認識にならざるを得ない。そこでIntelが期待を寄せているのがAlteraを買収して得たFPGAとなる。

2017年1月、IntelはCES 2017の開催に合わせて、自動運転プラットフォーム「Intel Go」を発表した。これは、自動運転の「開発」に向けたプラットフォームだが、その中心的な位置づけにあるのがIntel PSG(旧Altera)のFPGA「Arria 10 GX」である。また、開発環境としても、OpenCLで回路を構築することが可能な「Intel FPGA SDK for OpenCL」とAltera時代からのFPGA開発環境の発展版「Quartus Prime」となっており、Intel Goとは名前がついているが、極端な物言いであるが、FPGAになじみの薄い人たちにもFPGAに親しみやすくしたプラットフォーム、という言い方ができるものとなっている。

車載開発向けプラットフォームとなるIntel Go。対応ハードウェアとしてはCPUが「Xeon」と「Atom」、そしてFPGAが「Arria 10 GX」となっている。また、開発プラットフォームはOpenCL対応のものとFPGA開発ツールである「Quartus Prime」となっており、FPGAが中核に据えられているといえる

FPGAのその最大の特徴は、回路構成を柔軟に切り替えることができる点。自動車で必要な回路、ネットワークで必要な回路、クラウドで必要な回路を回路規模が許せば、同じチップで描くことができる。また、消費電力もGPUやx86プロセッサに比べれば低い。ただ、それでもArria 10 GXでは実際の車載用途では消費電力が高いといわざるを得ない。Intel Goはあくまで開発向けプラットフォーム、というのは、そうした意味合いも含まれてくるためだろう。

基本的にFPGAは、その柔軟性のため、対象分野に機能を強化した製品はあるにはあるが、何か特定のことにしか使えない、ということはない。そのため、さまざまな分野に活用することができる

では、Intel Goの今後はどうなっていくのか。ビジネスとして考えれば単なる開発プラットフォームで終わらせるわけがなく、実際の車両にデバイスを載せて活用してもらう必要がある。しかし、実際に車載ECUにx86プロセッサやFPGAが搭載されて、自動運転の心臓部となる可能性があるのかと言われると、まだハードルが高いと言わざるをえないだろう。すでに2016年に車載向けAtom「Atom A3900」 を発表し、ADAS分野にも適用可能だとして、車載用途の幅広いニーズにAtomが適用できることを示しているほか、2017年2月には、産業機器/車載分野向けFPGA「Cyclone 10ファミリ」を発表し、自動運転に向けた取り組みを進めていることはアピールしているが、パフォーマンスやECUへの統合ノウハウ、冗長性など、解決するべき課題が多いはずだからだ。ただし、方向性が変わらない限り、次世代か次々世代かは分からないが、そうした本当に必要な要件をすべてクリアしたAtom AシリーズやFPGAファミリが登場する可能性はあるだろう。

Intelは、こうした取り組みのほか、自動運転アルゴリズムなどを手がけるMobileyeの買収も表明しており、さらなるソリューションの拡充にも余念がない。逆に言えば、そうした機能を統合した製品こそが同社の本命になる、ともいえるかも知れない。高速道路のような、悪路もなく、交差点もなく、信号もないような場所での自動運転は近い将来、実際に活用できる見通しはほぼ見えてきているといえるが、一般道や山道などを含めた完全自動運転は、近いようでいてまだまだ遠い状況となっている。そう考えると、どの半導体メーカーがこの競争から最終的に勝ち抜くのかも、まだ見えていない状況と言ってよいだろう。そうした意味ではIntelが最終的に同分野で勝利を得るために必要な鍵はFPGAをどれくらい有効に活用できるかにかかっているのかもしれない。

エッジノードからデータセンターまで包括したデータカンパニーを目指すのが現在のIntelの姿で、そのためにはCPUのみならず、メモリやFPGA、図には描かれていないが5Gといった技術も抑えておく必要がある。その全体包括の中の1つが自動運転であり、そこには車両におけるコンピューティング性能のみならず、ネットワークやデータセンターの能力、そして、それらをユーザーが使いやすい形に変えるユーザーインタフェース/ユーザーエクスペリエンスが含まれ、Intelは、それらを総合して提供できる数少ない半導体企業の1社となることを目指している