Intelが自動運転に注力する背景
パソコンやデータセンター向けCPUを中心にビジネスを拡大し、長年にわたって半導体業界トップに君臨するIntel(インテル)。同社は近年、「自動運転」「AI(人工知能)/機械学習(マシンラーニング)」「IoT」「5G」「VR/ゲーム・e-Sports」の5つの分野に注力している。
中でも自動運転分野には、同社のCPUだけでなく、FPGAやメモリといった他のハードウェアに加え、ソフトウェア分野も含めたトータルソリューションとして取り組むなど、注力の度合いは高い。では、なぜIntelが自動運転向けビジネスに注力する必要があるのだろうか。
ガソリンを用いた自動車の大量生産が始まってから約100年を経た現在だが、これまでの自動車の歴史の大半はメカニカルの歴史であったといえる。しかし、1960年代後半以降、世界中で排気ガスによる大気汚染が社会問題化し、さまざまな規制強化が進む中、1970年代の燃料噴射の高精度制御を皮切りに、自動車に本格的なエレクトロニクス化の波が訪れることとなる。エンジン制御を中心とするパワートレーン分野で始まったエレクトロニクス化は、徐々にボディ分野、走行安全分野、カーナビゲーション(カーナビ)のようなインフォテイメント分野へと適用範囲を拡大することとなった。「実は、2000年前後のカーナビの普及から、2000年代の携帯電話の通信網の融合により、データセンターと連携して渋滞情報などを提示することができるようになったが、この時代、そうした技術を普及させた日本は世界を牽引していた」。こう説明するのは、インテル 事業開発・政策推進ダイレクター 兼 chief・アドバンストサービス・アーキテクトの野辺継男氏だ。2010年代に入ると、携帯電話はスマートフォン(スマホ)に置き換わり、併せて情報のやり取りもクラウド化。現在では、カーナビではなく、スマホで得た情報を逆に自動車で活用する、という動きが進んできた。「これから先は、ディープラーニングなどの機械学習技術を活用することで、画像認識精度の向上や走行状況の把握による走行アルゴリズムの学習、自動運転を実現するためのレーダーやLIDARで得たデータのデータセンターでの分析といった動きがある」(同)とのことで、エレクトロニクス化の進展はとどまるところを知らない。
自動車開発の歴史の現在と未来の状況。1970年ころまではエレクトロニクスとは無縁だった自動車も、この40年で急速にエレクトロニクスとの関係を深めてきた。特にこの2010年代に入ってからは、無線通信技術の発展により、車内ではなく、車外とのデータのやり取りが増えてきている |
本格的に自動運転車が市場に登場するであろう2020年以降は、自車ではなく、他車のデータを活用して、自車が安全に走行する、といったこともクラウドを活用してグローバル規模で実現される、といのがIntelの見立てである。また、こうしたソリューションを実現するためには自動車-ネットワーク(5G)-クラウド(データセンター)といったソリューションを理解している必要があり、このすべてを理解しているのがIntelであるというのが、同社が自動運転に注力する理由の1つだ。
とはいえ、何も自動運転市場が期待できそうだから、という理由で突発的に自動車分野に参入したわけではない。実際は、10年ほど前からカーナビを中心としたインフォテイメント分野のビジネスを中心に自動車向けの知見を蓄積してきており、自動運転への注力は、そうした取り組みの延長線上という捉え方ができる。事実、インフォテイメント向けとしては、「グローバルで30車種以上、国内でも複数社での採用実績があり、今後も採用件数は増えていく見通し」(インテル 執行役員 Automotive担当の大野誠氏)という。
また、実際問題として、完全自動運転車になると、1日あたり4TBのデータが生み出されるといわれており、走行中は、センサを中心にして生み出されるそうした膨大なデータを数十ミリ秒から遅くても数百ミリ秒レベルで処理する高い演算性能が求められる。そうしたデータ爆発の状況にある自動車分野に対応できる半導体をオートモーティブで求められる高い品質を維持したまま提供できる半導体メーカーは、どの程度あるのか、と言えば、ルネサス エレクトロニクスやNXP Semiconductors(に買収されたFreescale Semiconductor含む)といったこれまでの取り組みから、この分野での知見を積み重ねてきている企業を除けば、そうした先行する企業に近い、もしくは同等かそれ以上のレベルでソリューションを提供できる半導体メーカーはかなり限られてくるといえよう。