今回のオープンハウスでは、工場見学とともに説明会も実施された。

デジタル印刷がもたらす新たな価値とは

最初に登壇したウイル・コーポレーション 代表取締役社長 兼 事業統括本部長 若林圭太郎氏は、印刷業界が置かれている環境とデジタル印刷がもたらす新たな価値について解説した。

ウイル・コーポレーション 代表取締役社長 兼 事業統括本部長 若林圭太郎氏

一般的に紙の媒体は、大量印刷したものを在庫として保管し、残ったものは破棄されるというサイクルをたどることが多いという。若林氏は「小ロットでの印刷は単価が高くなると考えられがちだが、過剰に生産されればされるほど在庫管理や廃棄にかかる費用が必要になるため、大きいロットのほうが高コストになることもある。近年は、ロットを小さくして必要な時に必要な部数だけを生産することが求められている」と、出版業界の置かれている環境の変化を伝えた。大手出版社では、フレキシブルな印刷方式に変えることで、年間1億円のコスト削減を実現したという事例もあるとのことだ。

また、企業が顧客に郵送するDMについて「科学技術が進歩し、企業は多様なチャネルで情報を発信するようになったが、的確に伝わっていないことが多い。これからは企業からの一方通行な情報発信ではなく、パーソナルな情報に合わせて趣味や嗜好に合わせた内容のDMが送られるべきであり、技術的にはすべての業界で実現されてもおかしくない段階に到達している」と述べた。

実際同社では、開くと飛び出すポップアップ型のDMやカスタムマガジンなど3年間で822の型を提案し、オリジナリティのある印刷サービスを手掛けている。

出版社のコスト削減イメージ

それらを踏まえて若林氏は、高速インクジェットを用いることで同社が提供できる3つの価値を提示した。

1つめは「スマートファクトリー&ラボラトリー」。顧客が広告宣伝などを企画する際に、同社の工場を利用して実験を行うことができるという。2つめは「幅広いロットでのフルバリアブル生産」。小ロットからメガロットまで、可変印刷を用いた柔軟性の高い印刷が可能で、「小ロットによるテストマーケティングを行い、拡張するスピード感を提供できるだろう」と若林氏は語る。そして最後に挙げたのは「タイムリーに情報を届ける」ことだ。「顧客から預かった情報をもとに、48時間以内の生産と72時間以内の納品を実現できる」と同社サービスの強みを主張した。

高速インクジェットが可能にする紙のパーソナライズ化

続いて登壇したのは、HP ページワイド・インダストリアル部門 ワールドワイド・マーケティング・ディレクターのデビッド・マーフィー氏。同社製の高速インクジェット輪転機について、その強みを紹介した。

HP ページワイド・インダストリアル部門 ワールドワイド・マーケティング・ディレクターのデビッド・マーフィー氏

まず、デビッド氏は、印刷の業界に起きている変化について指摘。「コンテンツの配信速度が加速し、不特定多数へ発信するものから個々にカスタマイズされたコンテンツをタイムリーに配信するように変化してきている」と述べた。

そのうえで、パーソナライズマーケティングを実施したベルギーのスーパーマーケット「colruyt」の事例を紹介。従来210万人の会員に対して年間5600万件郵送していたDMについて、購入履歴などから顧客をセグメント分けしてパーソナライズ化したものを5万人へ毎週郵送する方法に切り替えた。

「読まれずにゴミ箱へ捨てられることが多かったDMをパーソナライズ化することで、興味のある情報だけを手軽に読めるようになった。その結果、カード加入者が増え、客単価とクーポン利用率上昇し、売り上げ上昇を実現した」とデビッド氏は成果を語った。

colruytの事例で得られた成果

アナログ代表と考えられることの多い「紙」のコンテンツも、デジタル技術の発展とともにまだまだ進化する可能性があるといえよう。