沖縄県民から"エンダー"の呼び名で親しまれる「A&W」。正式名称は「エイアンドダブリュ」なのだが、基地で働くアメリカ人のネイティブな発音が「エンダー」と聞こえたことからそう呼ばれるようになったという(※諸説あり)。

沖縄県内に26店舗展開する米国発のハンバーガーチェーン「A&W」

沖縄1号店開業から50年以上の時を越えて今なお愛され、うちなーんちゅの胃袋をガッツリつかんだご当地バーガー。その魅力とは一体何なのか。まるで映画のセットのような店内で寛ぎながら、他では味わえないユニークな空間とメニューを紹介したい。

古き良きアメリカの世界観が広がる空間

米国で生まれ、日本国内では唯一沖縄県だけしかないハンバーガーチェーン。実はこの「エンダー」こそが、国内最古のファストフードレストランという事実をご存知だろうか?もちろん、当時の沖縄県はアメリカの施政下に置かれていたので正式には日本ではないものの、歴史的にみて国内最古のファストフードレストランというのは差し支えないだろう。

昭和38(1963)年に北中城村屋宜原(きたなかぐすくそんやぎばる)開店したA&W1号店(写真提供: A&W)

今回お邪魔したのは、昭和44(1969)年にオープンしたA&W2号店の牧港(まきみなと)店。広大な敷地に総客席数84席、パーキングスペース105台(ドライブインエリア53台を含む)を備える同店は、A&Wの中でもぜひ訪れてほしい場所だ。お子様連れにうれしい遊具エリアや、車に乗ったまま注文して食事ができるドライブインエリアがあり、創業当時の面影をそのまま残している。

A&W2号店の牧港(まきみなと)店。「A&W」にカットされている植え込みに遊び心を感じる

当初は訪れる人の全てが基地で働くアメリカ人であったといい、アメリカ本土と変わらないハンバーガーやドリンクメニュー、そしてなじみの深いドライブインスタイルが人々の心を和ませたという。今もその雰囲気は変わらず、時間帯や店舗によっては客の大半をアメリカ人が占めることもあるそうなので、運よくその場に居合わせた人は海外旅行気分を味わえるかもしれない。

ドライブレストランのスタイルが主流だった60年代(写真提供: A&W)

エンダーに来たら外せない2大看板メニュー

A&Wのフードはハンバーガーの他、サンドウィッチやホットドッグ、ご飯もののベントーミールなど幅広いメニューがそろっているため、初めて訪れた人は選ぶのに迷ってしまうかもしれない。そこでまず抑えてほしいのが、一番人気の「モッツァバーガー」(税込490円)だ。

地元の人々に愛される定番商品「モッツァバーガー」(税込490円)

ビーフ100%のジューシーなパティにベーコン、シャキシャキのレタスと2枚のトマトスライスをサンド。クリーミーな特製モッツァソースがたっぷりとかかり、肉と野菜のおいしさを引き立てている。さらに、自社工場で毎日焼き上げられる柔らかめのバンズもまた、多くの具材を邪魔しない仕事ぶりがさりげない。

「若者の食べ物」と思われがちなハンバーガーショップだが、エンダーの雰囲気は少し違う。店内を見渡すと地元の学生やサラリーマン、ご近所のマダムまで、みんながリラックスした表情を浮かべて、ボリュームたっぷりなバンズを頬張っている姿が印象的だ。アメリカ統治下の沖縄は貧しく、欧米式のレストランや料理の数々を誰もが憧れをもって眺めていたそうで、当時の憧れを今も記憶に残す高齢者のゲストが多いのも頷(うなず)ける。

独特の風味と甘みがくせになる「ルートビア」はキンキンに冷えたマグで提供

さらに、ハンバーガーと相性抜群の「ルートビア」はA&Wを代表するもうひとつのメニュー。名前といい、見た目といいアルコール飲料のようなドリンクだが、一口飲めばきっと驚くはず。「コーラよりもパンチがある」「湿布のような味」など、飲んだ人の感想は人それぞれ。正直、味の好みは分かれるものの、どちらにせよ「忘れられない味」という表現は間違っていないだろう。

レギュラーサイズのルートビアは片手で持つのが重いビックジョッキ!

個性的な味わいは、病気の友人のために考案したヘルシードリンクから派生しており、約14種類のハーブを使ったレシピは販売開始から今に至るまで変わっていない。「ルートビア」という名称ながらアルコールは含まれておらず、禁酒法時代のアメリカでは爆発的な人気を博した。

そんな伝説を持つルートビア、店内では好きなだけおかわりできるのがうれしい。カウンターで店員に注いでもらうこともできるが、ルートビアサーバーが設置された店舗ではぜひセルフで注いでみよう。上手に注ぐコツは、ビールサーバーのようにグラスを傾けながら徐々に注ぐこと。クリーミーな泡になり、黒ビールのようなビジュアルになってくれる。

自分でサーバーに注ぐ楽しさを味わえる

イートインはもちろんのこと、同店は現役のドライブインレストランとしても活躍している。ドライブインと言えば、本州などでは車で気軽に立ち入れる店舗というイメージだが、A&Wのドライブインはアメリカのそれと同じく、乗車したままの状態で注文から食事までを楽しめるのだ。