「不妊ってそもそも何?」。改めて尋ねられると、意外と答えられない人は多いのではないだろうか。そこで今回は、メルクセローノ社が開催した「"妊活"に必要な情報を考える」セミナーに参加し、徳島大学教授で、日本生殖医学会の理事長も務める苛原稔氏の講演を取材してきた。
1年間妊娠しなかったら「不妊」
はじめに苛原氏は不妊の定義について解説した。日本産婦人科学会によれば、不妊の定義は以下の通りとなっている。
不妊: 生殖年齢の男女が妊娠を希望し、ある一定期間、避妊することなく、通常の性交を継続的に行っているにも関わらず、妊娠の成立をみない場合。その一定期間については、1年というのが一般的。なお、妊娠のために医学的介入が必要な場合は期間を問わない。
「通常の夫婦生活があるカップルの初妊率は、半年で60~70%、1年で8割、2年になるとほぼ9割です」と苛原氏。近年は、子どもを希望するカップルの年齢が上昇していることもあり、"一定期間"が1年になったという。 また、「卵管が詰まる」「精子がない」など、医学的介入が必要な場合は、期間を問わず不妊と定義されるそうだ。
そして一般的に言われていることだが、女性の年齢が上がるにつれ、不妊率は高くなる。苛原氏が提示したデータによれば、
<女性の年齢と不妊率>
20~24歳: 5%
25~29歳: 9%
30~34歳: 15%
35~39歳: 30%
40~44歳: 64%
となり、妊娠したとしても、妊産婦死亡率、妊娠高血圧症候群率、周産期死亡率、ダウン症児出生率は上昇していくとのこと。さらに男性についても、40歳を超えると妊娠させる能力が下がってくるという。
3大原因は「排卵因子」「卵管因子」「男性因子」
次に、不妊症の原因にはどのようなものがあるのだろうか。苛原氏によれば、主に3つの原因に分けられる。
まず挙げられるのは「排卵因子」で、排卵に何らかの障害がある場合を指す。不妊症の25~30%がこれにあたるという。また、原因の30~35%を占める「卵管因子」は、卵管閉塞・狭窄や卵管周囲癒着、子宮内膜症などが該当。他にも女性側の原因としては、子宮の奇形や子宮筋腫など、子宮にまつわるもの、頚管に精子が侵入できないなどの頚管にまつわるものがある。
また忘れてはならないのは、不妊症の20~40%が該当する「男性因子」。苛原氏は「精子が作られない、精管が詰まっている、膀胱側に射精してしまうといった症状がみられます」と語った。さらに近年では、性的な障害によって、夫婦生活の営みを経ずに、人工授精を希望する人も増えているそうだ。
「排卵因子」の場合は排卵誘発治療、「卵管因子」の場合は通水治療・手術療法などがあるが、最近は体外受精が多いとのこと。「男性因子」の場合、一定程度の精子があれば人工授精、精管が詰まっていれば薬を使ったり手術をしたりするそうだが、最終的にはやはり体外受精になるという。
生殖補助医療でうまれる赤ちゃんは20人に1人の時代に
苛原氏が提示した日本産婦人科学会倫理委員会のデータによれば、2014年、体外受精をはじめとする生殖補助医療の治療数は39万3,745件。生殖補助医療の治療でうまれた赤ちゃんの数は4万6,017人となっている。
「現在集計中の2016年のデータでは、治療数が43万件、出生児数は5万人にのぼる見込み。1年間にうまれてくる赤ちゃんの数は約100万人なので、約20人に1人は体外受精でうまれるということになります」。生殖補助医療によってうまれた子どもの数は確実に増えているそうだ。
一方で、妊娠率が上がっているわけではないとのこと。苛原氏は「2007年のデータでは、体外受精のピークが35~36歳だったものの、2014年では40歳前後になっている。妊娠しにくい時期の体外受精が増えている」と語った。生殖補助医療が増加した結果、妊娠率の限界、出産児の異常の誘起といった課題が浮上しているほか、社会的には高額な治療費を払えないなど、経済面の問題も出てきているという。
「私たちにとって、社会に対して正しい情報を伝えることが、今一番しなければならないこと」と苛原氏。私たちも正しい知識のもとに、不妊に向き合ってみる必要があるのかもしれない。