米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、6月13-14日、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して、市場の予想通り政策金利の引き上げを決定した。2015年12月の利上げ開始以降4度目の利上げで、政策金利は1.00-1.25%となり、これまで累計で1%引き上げられたことになる。

FOMCの声明文では、労働市場が堅調であり、失業率が低下したことが指摘された。一方で、足元のインフレ率の鈍化にやや懸念が表明されつつも、中期的には目標である2%近辺で安定するとの予想が維持された。

今回注目されたのは、FOMCがバランスシートの縮小に関して、具体的な方法を発表したことだ。

FRBはリーマン・ショック直後に政策金利をほぼゼロまで引き下げ、さらなる金融緩和策として債券を購入するというQE(量的緩和)に踏み切った。これは非伝統的政策とも呼ばれる。QEは2014年10月に終了したが、FRBはその間に購入した債券を保有し続けてきた。債券を保有し続ける限り、換言すれば、バランスシートの規模を維持する限り、その代金は市中に放出されたままなので、金融緩和効果を持つとの考えが背景にある。

米国の経済は必ずしも力強いとは言えないものの、極端な景気刺激がなくとも独り立ちできるとの判断のもと、FRBは金融政策の正常化を進めつつある。その一つが利上げであり、そしてもうひとつがバランスシートの縮小だ。

ただし、保有債券の売却が債券市場に打撃を与えかねないことから、FRBは慎重に事を進めようとしている。そのため、当面は債券の売却をせず、満期償還された債券の再投資を停止することで、残高を漸減させる方針だ。

再投資の停止は、まず月間100億ドル(国債60億ドル+住宅ローン担保証券40億ドル)でスタートし、3か月ごとに100億ドルずつ上乗せされる。再投資の停止は1年後に月間500億ドルになり、その後はそのペースでの停止が続く。

現在のFRBのバランスシートは約4.5兆ドル。筆者の手元計算では、バランスシートが半減するまで4年以上かかる。リーマン・ショック前のFRBのバランスシートは1兆ドル弱だった。当時に比べて経済規模が拡大し、適正なバランスシートの規模も拡大しているとしても、正常化には相当に長い時間がかかるということだ。

今回の声明文には、「経済情勢がほぼ想定通りに進展するなら、バランスシート正常化プログラムの年内開始を想定している」とあった。まず、FRBの想定通り、米景気の堅調が続くのか、そして物価が目標である2%に接近するのか。さらには、FRBが先進国中央銀行の先頭を切ってバランスシートの縮小を開始した場合、たとえ少額でスタートするとしても、それが内外の金融市場にどのような影響を及ぼすのか。興味を持って見守りたい。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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