患部に直接塗る痛み止め薬がある!
歯が痛む場合、歯科医院や総合病院で診察をしてもらうのが普通だ。だが、歯痛は時と場合を選んでくれない。病院が閉まっている真夜中に耐えがたい痛みに悩まされるケースがその最たる例だろう。
また、かかりつけの病院から遠く離れた旅行先や出張先で痛みに襲われることもあれば、会社の繁忙期や重要プロジェクトの大詰めで歯がズキズキすることもある。こういった状況では、必ずしもすぐに医療機関を訪問できるとは限らない。
そのような緊急時に、痛みを多少なりとも和らげる方法を知っておけば、受診・治療までの当座をしのげる可能性も高まる。そこで今回は、M.I.H.O.矯正歯科クリニックの今村美穂医師に「歯が痛いときの緊急対処法」についてうかがった。
薬を使用して痛みを緩和させる
激しい歯の痛みにセルフケアで対処する際の対応策は、「薬を使う方法」と「薬を使わない方法」の2種類に大別できる。まずは前者の詳細をみていこう。
■痛み止め用の薬を飲む
病院で処方してもらう鎮痛剤(痛み止め)が手元にある場合、それを服用することで痛みが和らぐ。虫歯や親知らずなどの治療後、ズキズキと痛む歯が痛み止めの薬を服用した途端にピタリと止むことがあるが、それと同じことをするというわけだ。鎮痛剤と似たような成分を含有する市販薬も販売されている。有事に備え、体質なども考慮してどの薬を購入すればよいかを医師に予め聞いておくのもいいだろう。
■痛み止め用の薬を患部に塗布する
服用タイプの痛み止め薬がなかったり、その効き目が不十分だったりするときは、患部に直接塗るタイプの薬を使用するという選択肢もある。製品の多くは即効性が期待でき、使い方も簡単。軟膏タイプのクリームや液体状などの種類がある。
「塗り薬という点で言いますと、歯周病の痛みの際には、抗生剤としての塗り薬や注入器付きの歯肉に入れる薬を患部に直接、局所的に使用するのでよく効きます。ただし、これらの薬は歯科医院でしか手に入りません」
薬を使用せずに痛みを和らげる方法とは
自宅で痛みに襲われたならまだしも、仕事やデート、旅行の最中などのように薬がすぐに手に入らないシチュエーションで歯が痛むことも考えられる。そのような際には以下の方法を試してみるとよいという。
■患部を冷やす
歯が痛む場所を冷やすと、血行が抑制されて痛みを軽減させられる。ただし、あまり冷たくないもので長時間冷やすとかえって腫れた部分を拡大してしまうケースがある。そのため、キーンと冷えた氷をビニールの袋などに入れ、痛いくらいに患部に当てる行為を断続的に行うとよい。また、氷を口の中に含むのも効果的とのこと。
■口腔内を清潔にする
食物残渣、いわゆる食べかすが急な歯痛を引き起こしている可能性もある。食べかすが歯や神経を圧迫するためだ。食事をしてからほどなくして痛みが襲ってきた場合は、歯ブラシやデンタルフロスを用いて口腔内を清潔にしてみるとよい。
「食物残渣が虫歯の穴の中に入ったり、歯間部に埋入したりすると、その食渣が圧入して虫歯の穴や歯肉と歯の間に入り、加圧されることで神経を刺激して痛くなります。虫歯の穴が大きくなった場合や、歯と歯の間に隙間が空いているような場合などは、食事をする度に痛みが起きることになります」
スイーツをはじめとする砂糖を使った食べ物や甘いものや熱いもの、冷たいものなどが神経を刺激しやすい。そのため、歯痛があるときにこれらの食べ物を食べるのはNGだ。
患部の歯磨きを怠ると痛みが増加
口腔内を清潔にするには歯磨きが有効な手段だが、歯が痛いときはどうしても歯磨きが怖くなってしまう。どのように磨けばよいのか今村医師にポイントを伺ったところ、「食後すぐに優しく丁寧に」がポイントだという。
「強く磨いて炎症部分を刺激したり傷つけたりしないようにしてください。ですが、臨床的には『痛いから』と痛みがある場所を避けて磨いてしまう方がよくみられます。そうすると患部はますます汚れがたまり、細菌の繁殖を助けて食片圧入(食べ物が歯に挟まること)して痛みが増幅するケースが多いようです」
痛みがある部分への接触を避けたい気持ちはわかるが、その選択はさらなる痛み増加につながることを覚えておこう。
歯が痛んだら一刻も早く専門医に診てもらう
本稿で紹介した方法は痛みを抑えてくれる公算が大きいものばかりだ。ただし、当たり前ながら対症療法でしかない。痛みの根本に対して何の処置もしていないし、そもそもの歯痛の原因もわからずじまいだ。あくまでも、医療機関で適切な診察・治療を受けるまでの"つなぎ"にすぎない。
これらの一時しのぎで痛みが抑えられたからといって、歯をそのまま放置しておくのは愚の骨頂。一刻も早く専門医に診てもらうようにしよう。
※写真と本文は関係ありません
記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)
M.I.H.O.代表、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。表参道デンタルオフィス 矯正歯科。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。