TSUTAYAが主催するプロ・アマ問わずの映画コンテスト「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM」(以下TCP)。受賞作には最低でも5,000万円の製作費が用意されるという破格の"映画愛"は業界内で話題となり、毎年数多くの作品が寄せられている。3回目を迎える今年も、いよいよ応募期限が迫ってきた(WEBエントリー締め切り:6月13日/企画書など郵便物送付締め切り:6月16日必着)。

マイナビニュースでは、昨年受賞した4人に接触。受賞作の制作前に受賞の喜びや過程、そして"映画愛"を掘り下げた。第3弾は準グランプリを受賞した金井純一氏(33)。短編映画『転校生』(12年)で札幌国際短編映画祭で最優秀監督賞、最優秀国内作品賞を受賞し、劇場長編デビュー作となる『ゆるせない、逢いたい』(13年)が釜山国際映画祭に出品されるなど、国内外から高く評価されてきた。

受賞作『ファインディング・ダディー(仮)』の主人公は、中学生の娘と幸せに暮らしていたが、娘が白血病であることが発覚。骨髄移植のために血液検査を行ったが、血が繋がっていなかった! すべては愛する"娘"のため。主人公は本当の父親を探すために亡き妻の浮気調査をはじめる。

監督デビューをしたての頃にプロデューサーから言われた「三行理論」を柱に、「笑いあり、涙あり」のエンターテイメント作で勝負する金井氏。「面白くない脚本でも、演出で面白くできる」は決して大言壮語ではなく、確かな経験と自信から発せられた言葉だった。僕らを金で釣ってくれ――。

"映画人・金井"の魂の叫びを届ける。

予算が足りなくなることの弊害

金井純一氏

――準グランプリの受賞、おめでとうございます。率直なお気持ちは?

今後、撮影することになると思いますので、次の仕事が決まっているというのはすごくうれしい(笑)。

――最終審査のプレゼンでは、静止画の説明から、登場人物が生演技を披露するというサプライズ演出でした。

企画には自信がありましたが、やっぱりどう伝えるかが重要ではないかと考えました。映像だとお金がかかる。でも、スチールだけだとプレゼンとして弱い。そこで、スチールで説明した後に、登場人物の生演技を見せるのが面白いかなと思って。結婚式のプロフィールムービーって、感動するじゃないですか? 新郎新婦を目の前にしながら、2人の過去をスチールで振り返っていくと自然と心に残りますよね。

今回お願いしたのは、私立恵比寿中学の舞台にも出演されている役者さんの2人。舞台のメイキングの編集をしていて記憶に残っていたので、『ファインディング・ダディー(仮)』のイメージキャストとしてピッタリかと思い、連絡させていただきました。

静止画プレゼン後の生演技

――最終審査での生演技。責任重大ですね。

そうですね。ただ、普段から舞台をやられているので、そこに不安はありませんでした。やっぱり、映像畑の役者だったら緊張するだろうなと。場なれしている人が受けてくれて安心していましたが、僕自身は緊張していました(笑)。

――アニメーション制作会社・スタジオ地図の齋藤優一郎さんが審査員を務められていましたが、かなり長めのアドバイスがありましたね。

齋藤さんはアニメのプロデューサーで、作っているものはエンタメで共通しているのですが、めちゃくちゃ熱が入ったお言葉をいただけてビックリしました。アドバイスをいただけて、ありがたかったです。

――すでに映画を何本も撮られている中、今回のTCPに懸けていたと聞きました。どのような思いだったんですか?

今まで何本かオリジナルを撮ってきたんですが、予算が全然足りなくて。オリジナルだからこそ、「表現できること」を追求したいんです。脚本を削ったり、撮影日数を短縮したりして費用を捻出しているわけですが、お金がないとできないこともあるんですよね。制作体制や希望のキャストとか。決して爆破シーンをやりたいとかではないんですけど(笑)、ちょっと足りないと思う場面が何度もあったので今回応募してみました。

――過去作品はギリギリのやりくりだったわけですね。

そうですね。お客さんにしてみれば、鑑賞料金は同じなので、多かろうが少なかろうが関係ないと思うんですが、いつも「観る価値のある映画」を作らないといけないと思っているので。予算を言い訳にしないようにはしていて、毎回全力で作ってきました。でも、宣伝にもお金は掛かるわけで、自分の力では届かない領域もあると思います。まずは、良い映画を作ること。それに加えて、しっかりと宣伝して伝えていかないと、世の中に広まっていかないんじゃないかと。

映写スタッフ時代に感じたギャップ

――もともと、映写スタッフを5年間やられていたと聞きました。

その時も自主映画を作っていて、作りたいものを作る側であると同時に、それを届ける側でもありました。お客さんの反応を見ると、そのギャップを感じるわけですよ。自分が作りたいものがある中、ヒットしている作品はこれなのか、とか。映画館はお客さんが入ってくれることで成り立っているわけで、僕のバイト代もお客さんのおかげでいただけている。お客さんは少ないけれども好きな映画、お客さんがめちゃくちゃ入っているけど、そこまで好みじゃない映画。いろんな作品がありました。届けたいものを作って、たくさんのお客さんに見てもらえる。当たり前ですけど、それがベストですよね。

――ビジネスとして映画を作るとなると、映画に対する考え方も変わってくるものでしょうか。

仮に僕が天才監督で、毎作品お客さんの度肝を抜いていたらたぶん変わらないと思いますが、残念ながらそういうタイプではありません(笑)。

映画の面白味は、自分でストーリーを生み出せること。ゼロから作っていって、たくさんの人に観てもらえる。でも、作る上ではたくさんの人が関わってくるので、いろいろな人を引っ張っていく必要があります。自分一人の力、少なくとも僕一人では絶対にできない。そういう責任で考えを変えなきゃいけない時もありますが、自分一人でできないからこそ楽しいんですよね。

みんなの力を乗せて、お客さんに届けたい。それが「良い映画」と評価されて、ヒットへと結びつくのが自分の目標です。自主映画を作っていた僕を知ってくれている人は、「なんでそんなことになっちゃったの?」と思われるかもしれませんが……そういうことじゃないんですよね。自主映画はアマチュア。ビジネスとして成立させながら、「良い映画」を作る。それがプロの監督だと思います。