出版取次の最大手である日本出版販売(日販)が、ブックディレクション事業を行う新ブランド「YOURS BOOK STORE」を立ち上げた。「人と本をつないでいく」をコンセプトに、本のある空間づくりや選書などを行い、企業ライブラリーの制作や、ブックホテルなど様々な事業を手掛ける。

出版市場が年々縮小し、業界の仕組みは大きく変わりつつある。昨年、出版取次第4位の栗田出版販売ですら経営破たんしたように、取次を取り巻く状況は非常に厳しい。アマゾンや大手書店に押され、街の書店は非常に減少している。書店がつぶれては、取次はそもそも本を卸すことが出来ず、売り上げが下がる。さらに追い打ちをかけるように、一部出版社はすでに取次を介さない直接取引をはじめている。「取次の存在意義」が問われかねない厳しい時代を生き抜くため、例えば近年ではトーハンが介護事業をはじめるなど、取次各社は事業の多角化を図っている。

日販のYOURS BOOK STOREでは、持ち前の流通販売網や、日販グループ各社との連携を生かし、商品調達から物流、企画、システム構築までオール・イン・ワンで行う。企画・コンセプトメイク・選書・イベント運営・空間プロデュースといった、本にまつわる様々な領域の事業を手掛けていく。つい最近完成して話題となったファーストリテーリングの新社屋にある図書室「READING ROOM」も、この「YOURS BOOK STORE」が手掛けたもの。「CREATIVITY」をテーマに2,000冊以上の書籍をセレクトし、外国の図書館のような空間をつくりあげた。

ファストリの「READING ROOM」。外国の図書館のような仕上がり

2018年には、新潟県南魚沼市のホテル型複合施設「里山十帖」を手がける自遊人と共同で、国内良書2万冊を蔵書したブックホテル「箱根本箱」をオープンする。一見、本とあまり関係がないように見えるホテル事業だが、日販がこれに取り組む背景には、昔の駅前の本屋のように気軽に本が手に取れ、本と生活が密着した心地よい空間で、「暮らす」ように滞在しながら本を読む楽しさ、本と向き合う楽しさを存分に味わってほしいとの思いがある。客室以外にコワーキングスペース、ショップ、カフェなどがあり、宿泊客以外も本に囲まれてゆっくりと過ごすことができるという。

ホテル「箱根本箱」

事業の多角化を進めている日販だが、原点には紙の本の存在がある。YOURS BOOK STORE事業の担当者は、「本のもつ力はいまだ衰えることはなく、いまも新しい本や本のあり方、本のある場所は生まれつづけている。YOURS BOOK STOREは、日販が出版流通を通じて繋いできたカルチャーの火を絶やすことなく、人と本をつないでいく場所や企画をつくっていく」と話している。