Appleの開発者カンファレンス「WWDC 2017」において、App Storeで販売されている優れたアプリを表彰する「Apple Design Award(ADA)」が発表された。前身の「Human Interface Design Excellence Awards」から数えて22年目となる同アワードでは、ゲーム部門とあわせ、計12タイトルが栄誉に輝いた。

ADA受賞者に授与されるキューブ型のトロフィー

筆者は現地で、アワードを受賞したいくつかのデベロッパに話を伺うことができた。彼らの功績を讃えつつ、選出されたアプリを紹介していこう。

Kitchen Stories - おいしい料理の無料レシピ動画&クックブック

最初は、レシピ動画を集めたアプリ「Kitchen Stories - おいしい料理の無料レシピ動画&クックブック」だ。ベテランシェフによる動画は3分程度にまとめられ、手順の写真も収録され、材料は作る人数分に応じて量を教えてくれる。アプリは殆ど全てがSwiftで書かれ、iOS、tvOS、watchOS 3に対応。3D Touchに触感フィードバック、iPadでのマルチタスク、ピクチャ・イン・ピクチャでの再生に、tvOSのダークモードなど最新の機能に対応する。動画もプロによる撮影が行われていて、画質も良い。キッチンでiPadの大きな画面を見ながら、調理するというのに最適だ。アプリを提供するAJNS New Mediaはドイツのデベロッパーで、創業者は女性二人。所有していた車を売り払って、創業するための資金に充てたという。現在ユーザーは1,400万人を超えており、ソーシャル機能を使って、世界中の人々とレシピを共有できるのも特徴となっている。今後は、料理するのにインスピレーションを得たり、どんな食材を選んだらいいのかなど、調理するためのあらゆる行為をうまく捉えられるようなプラットフォーム作りをしたいとのことだ。

取材に応じてくれたのはAJNS New Mediaのマネージングディレクター・Mengting Gao氏(左)

Things 3

続いて、ToDoアプリの「Things 3」。こちらもドイツのデベロッパー、Cultured Codeによるものだ。ADAの受賞者、ヨーロッパ勢では、特にドイツが強いというイメージがあるのだが、今年は2社が選出されている。実は、このThings 3、2009年にもADAを獲得している。その時のバージョンからユーザーインターフェースを一新。Appleの最新テクノロジーにも対応し、今回の受賞と相成った。デバイス間での同期、クイックスケジューリング、検索、リマインダーなどの機能を装備。デバイス間の同期は、iCloudでなく、同社提供のクラウドサービス「Things Cloud」経由で行う。洗練されたユーザーインターフェースに加え、シンプルさ、Appleが好みそうな操作体系が受賞の決め手となったのではないかと、同社のCEO・Werner Jainek氏は分析している。macOS、iOS、watchOS向けに作られたアプリは3D Touchやクイックアクション、Apple Watchのコンプリケーションに、MacBook ProのTouch Barなどの機能に対応する。

Things 3のiOS版

Cultured CodeのCEO・Werner Jainek氏

Lake: De-Stress Therapy with Art Coloring Pages

スロベニアのLake d.o.oが提供する「Lake: De-Stress Therapy with Art Coloring Pages」は、塗り絵アプリ。塗り絵と言っても、決して子供向けというわけではなく、年齢問わず楽しめるようになっている。自分のギャラリーを作って他のユーザーと共有することも可能。下絵はInstagramで作品を発表している作家によるもので、アプリ内でのユーザーの利用があると、それに応じてインセンティブが発生するとのことで、二週間に一人くらいのペースで新しい作家の作品が追加されている。Apple Pencilを使って様々な表現が可能で、非常に細やかなブラシストロークを実現する。iPad ProとApple Pencilのレスポンスの速さを活かした仕上がりが高く評価されたのであろう。アプリはSwiftで書かれており、Dynamic Type、3D Touch、クイックアクション、クイックルックやHandoff、Spotlight検索などに対応している。

取材に応じてくれたのはLake d.o.oの創業者・Goran Ivašić氏(左)

Severed

カナダのDrinkBox Studiosによる「Severed」は、片腕の戦士・サーシャが家族を探し出すために、悪夢のような世界を彷徨う、ダンジョンアクションゲームだ。剣を持ったサーシャが砂漠で目を覚ますと片腕は無く、家族もいなくなっているという設定で、敵キャラの四肢をスワイプで次々と切断していく(「Severed」の意味は「断ち切る」)、ちょっと猟奇的なテイストでゲームは進む。横長の画面で展開されるというところが気になったので、聞いてみるとやはり、映画を観ている感覚でプレイできるようにしたかったと、創業者のGraham Smith氏。ナビゲーションのシステムやコンバットシーンが好評のようで、グラフィクスAPIであるMetalに最適化されている。このあたりが選出のポイントになったのではないかとも。3D TouchやPeek & Popに対応し、ReplayKitでプレイ動画の作成やクラウド上でのデータセーブも可。iMessage Appの提供も行っている。日本語を含む、12カ国語に対応。iOS版の他に、PS VITA版も提供中だ。

DrinkBox Studiosの創業者・Graham Smith氏

Mushroom 11

最後に紹介するのは、米国のデベロッパー、Untameによるゲーム「Mushroom 11」だ。個人的には、今回取り上げた中でも、一番の注目タイトルである。アクション戦術系のプラットフォームゲームに物理パズルをミックスしたような独特の構造になっていて、プレイヤーはタイトルにもなっている「マッシュルーム」というアメーバ状の有機体を制御して、人類が滅んだ世界でクリーチャーとの戦いを繰り広げる。デモではApple Pencilを使ったプレイを披露してくれたが、マルチタッチジェスチャー、3D Touchに対応しているので、指を使ったプレイでも、とてもユニークな体験ができる。サウンドトラックには、UKテクノの雄、FUTURE SOUND OF LONDONがオリジナルのトラックを提供。ダークな世界観にマッチした楽曲を楽しめるのも特徴の一つだ。彼らは二年前の東京ゲームショウで、ゲーム系媒体が主催した「メディアアワード」のインディー部門で大賞を受賞している。ということもあって、日本に対する思い入れも強く、本作も急ピッチで日本語対応を進めているとのことだった。

Untameのアートディレクター・Simon Kono氏(左)とゲームデザイナー・Itay Keren氏

時間の都合で話を伺うことはできなかったが、ADAでは他に、「Blackbox」「Splitter Critters」「Old Man’s Journey」「Bear」「elk-旅の通貨換算ツール」「Enlight」「AirMail 3」の7本が選ばれている。

AirMail 3のiOS版

アワードは、デザイン性、ユーザビリティ、革新性、そして最新のテクノロジーを採用したアプリが選出の対象となる。これらの条件を満たしていることはもちろんだが、やはりそれぞれ、これはという驚きがどこかにあるアプリが選ばれているという印象だ。英語圏のデベロッパーが必ずしも有利ということではなく、それより多くの言語に対応しているアプリの方が高く評価される傾向にあるようだ。この辺りは、WWDCが国際色豊かなイベントであるということを象徴しているように思われる。また、巨大な資本と人員を投入できなくとも、アイディア次第でチャンスは掴める。今回は特に、個人経営、インディペンデントなデベロッパーの健闘が目立った。良質な製品・サービスを提供できれば、僥倖に授かれるというのがApp Storeでのアプリ販売であることを改めて知らしめるのも、ADAが担っている役割の一つなのだ。