船に乗って夜の海に繰り出し、工場の夜景を眺める。そんな一風変わった夜景クルーズがあることをご存じだろうか? 近年、テレビの特集や写真集の発売など密かに注目を集めている"工場夜景"。その魅了を探るべく、この6月で10周年を迎え、リニューアルしたばかりの横浜「工場夜景ジャングル・クルーズ」に参加してきた。
「工場夜景」とは?
そもそも「『工場夜景』って……ナニ?」そう思っている方も多いはず。その名の通り、"工場の夜景"のことなのだが、もともとは2004年に巻き起こった"廃墟ブーム"が発端。このブームをきっかけに、団地や公園、秘境といった今まで鑑賞対象ではなかったものに注目が集まるようになり、全国各地に点在する工場も"見て楽しむ"ものとして愛でられるようになったのだ。
今や全国各地で工場の夜景を船から楽しむクルーズが運航されているのだが、この「工場夜景ジャングル・クルーズ」は、2008年に国内で初めて運航した工場夜景クルーズの元祖。クルーズの発案者であり、夜景評論家の丸々もとお氏は「運航当初、工場の昼の景観は認知されつつありましたが、夜の景観を楽しむという人はほとんどいませんでした。数ある夜景の中でも工場夜景は"ただ美しいだけでは片づけられない美しさ"があります。その魅力を多くの人に届けたいと思って始めました」と語る。
工場夜景は秘密保持の関係により、陸からは近くで見ることができないのだが、海からは30mまで近づくことが許可されている。その点でも、丸々氏は「工場夜景を海から楽しんでほしい」とのこと。近年、テレビ番組の特集や写真集の発売など、着々とファンを増えつつある工場夜景。その魅力に迫るべく、いざ船に乗り込んだ。
夜の横浜港から出航
空がうっすらと暗くなり始めた19時(出航時間は季節によって異なる)。赤レンガ倉庫の奥手にある船着場「ピア赤レンガ桟橋」から、クルーザー「OCEAN BLEU」に乗って夜の海へ。船内は広々としており、しかもかなりゴージャス。
船の出航と同時に、ナビゲーターによる工場夜景の魅力解説がスタートする。10周年リニューアルでは、このナビゲーションがパワーアップし、より深くマニアックな解説が聞けるようになった。これから向かう京浜運河沿いの「京浜工業地帯」について、昭和電工や東亜石油など工場ごとに詳細な見どころを聞かせてくれる。
続いては、大型スクリーンの映像で工場夜景を紹介。これもリニューアルによって加わったコンテンツで、京浜工業地帯はもちろん、全国の有名な工業地帯について、工場夜景の歴史について……などなど、内容は工場夜景の魅力がみっちり。「早く本物を見てみたい!」と期待高まる映像となっていた。
ついに"工場夜景"がお目見え
出航してから約15分、最初の夜景スポット「扇島パワーステーション」に到着するというので2階のオープンデッキに移動。すると、目の前に圧巻の工場夜景が!
入り組んだパイプや高々とした煙突など、普段あまり見かけない造形物がキラキラと輝いているとあって、なんだか"近未来"のような雰囲気。なるほど、"ただ美しいだけでは片づけられない美しさ"というのが、よく理解できる。筆者の近未来という表現以外にも、他の参加者たちからは「宇宙みたい」「人体に見える」「パイプが血管のよう」など、壮大かつ不可思議なワードが飛び交っていた。
丸々氏は「他の夜景ではなかなか聞かれないような感想が聞けるのが、この工場夜景の特徴でもあります。特に女性は"脈打つ血管"のように情熱的な印象を受ける人が多いようで、それに惹かれてリピートする方も多いんですよ」とのこと。武骨なイメージの工場とあって男性が多いように思えるが、意外にも参加者は女性が7割を占めるという。今、そんな工場に魅せられた"工場萌え女子"が増えているのだ。
その後もクルーズでは次々と工場を巡っていく。東扇島オイルターミナル、川崎天然ガス発電、東芝京浜事業所など計13のスポットを観ることができた。いずれも約30mまで近くに寄れるとあって、作業音や独特な匂いも体感でき、それらがまた夜景の迫力を際立たせるように感じられた。夜の海風が心地よい夏、ひと味違う夜景の魅力に触れてみては?
「工場夜景ジャングル・クルーズ」の出航日は、土日曜日・祝日。出航時間は夕刻(季節によって時間が異なる)。出航場所は、横浜・ピア赤レンガ桟橋(神奈川県横浜市中区新港1-1先)。料金は大人税込4,600円。運航時間は約90分となっている(事前に要予約)。