国土交通省は5月15日、福岡空港運営権売却(運営委託)の募集要項を発表した。これに伴い、地元企業連合を含む応募者による2019年からの空港運営権争奪戦は、いよいよ佳境に入ることとなった。現時点におけるポイントと課題を整理してみたい。
高めに設定された「応募最低価格」
福岡空港の運営権をめぐっては、3月24日に国が公表した福岡空港特定運営事業等実施方針において応募最低価格が示されている。2019年から30年間の運営権対価は当初運営移管時に支払う一時金が200億円、各年均等に支払う分割金が47億円×30年で1,410億円、単純合計で1,610億円とされた。これに空港ビル株式の購入450億円を加え、2,060億円以上の提案が求められている。
現在の空港事業が生み出すキャッシュフローは、地元地権者への地代は国が支払う前提で70億円前後とみられていたため、「運営権獲得に必要な対価は1,500億円程度が基本になるのではないか」と言われていたことからするとかなり高めに設定された。また、国は現在進めている誘導路、滑走路の増設による福岡空港の将来の発着数の増加に伴う収益増価額の50%相当を国に支払うことを義務付けた。「国の努力に誰もが等しく見返りを払え」ということか。これが、30年間総額で約300億円強と見込まれている。
つまり、総額では最低約2,400億円となったわけで、国が「福岡空港は、対航空会社においても対応札者においても、売り手市場」と考えていることがはっきり分かる方針と言える。
他方、空港容量の拡大を便数増・旅客増につなげ、どうやって空港収益を拡大していくかは新運営権者の腕の見せどころであり、コンセッション事業参入の成果となるものだ。国が将来の発着増加分に対して一律の使用料を設定し賦課するよりも、増える分をどのように入札価格に反映させるかは入札者に全て任せる方がいいとの意見もある。今後、福岡方式が機械的に同じような形で他空港運営権への課金スキームに反映されることには、再度の議論が必要と思われる。
福岡の募集要項は入札価格重視
上記に関連し、提示された募集要項で注目される点がいくつか見られる。そのひとつが、運営権対価への評価配点が仙台空港や高松空港よりも増加していることだ。仙台空港では一次審査10%・二次審査12%、高松空港では一次審査10%・二次審査20%だったが、福岡空港では一次審査30%・二次審査30%だった。
仙台空港の審査においては最も入札価格が低かった東急グループが、二次交通の整備やターミナル拡張、商業地域改革などの空港運営方針で最も高い評価点を得て優先運営権者となった。しかし、「勝者の倍近い入札価額を提示しても勝てないのはいかがなものか」との意見が、財務省周辺から出された経緯がある。
一方、その後に行われた羽田空港国際線隣接地区でのホテル建設事業においては、土地貸付料応札価格に50%の比重を配点したところ、競合他社の3~4倍の値付け(50年間単純合計1,300億円超)提案をした住友不動産が最下位だった事業計画の評価をひっくり返して選定され、「時間をかけて企画提案を作る意味がない」との声も出された。
このような事情を背景に、また今後の北海道7空港一括運営委託を控え、今回の採点基準がどうなるか注目されていたが、結果的に中間値となる30%となった。元をたどれば、1社入札だった関空・伊丹の運営権においてもほぼ同水準の配点がなされており、入札価格のスケールが大きい(回収額の多寡が国家財政に与える影響が大きい)空港でのメルクマールとなりそうだ。
他方、空港運営権委託事例が続く中で応募者各社の経験や知見が増え、提案内容が精緻(せいち)化すると、各審査項目で競合相手に圧倒的な差をつけることが難しくなってくる。しかし、今回の福岡では仙台・高松事例と比べ、周辺事業や職員の取り扱いなどの項目の配点が下がった上、空港収支に直結する旅客数・貨物量目標、着陸料設定方法、エアライン誘致提案への配点も下がった現実もある。
当局としては、これら経済面の空港運営要素においては独創的なアイデアが提案される可能性は薄いと判断したのだろうか。このような前提条件下では、例えば「着陸料を大きく値下げしてエアラインの継続就航・新規誘致を促進する一方、空港収益を賄う柱として国内線を含む旅客施設使用料を設定・増額する」といった、ドラスチックな課金体系の変更は提案しにくいだろう。
一方で、入札価格以外に重視される点として新たに二次提案の配点項目が加えられたものに、「福岡県の空港将来構想への協力」がある。やや抽象的に聞こえるが、要は福岡空港と北九州空港との連携(役割分担)と相互補完をどのように実現するかを示せ、という課題である。
福岡県の構想では、北九州空港の位置付けにおいて「空港運用時間、発着枠において福岡空港の制限を超える部分で活用」「LCCや貨物機の誘致」等、福岡空港の補完機能をどう充実させるかについて例示している。これは、「言うは易く行うは難し」の典型例とも考えられ、各社が頭を悩ますところとなるだろう。
なぜ悩ましいのか? それは、将来構想を言葉(姿勢)でなぞるだけでは、理想を具体化するような解決を導き出すのが難しいからだ。