「現在の実力が素直に表れた」。トヨタ自動車の豊田章男社長は、営業利益で前期比3割減となった2017年3月期決算をこう評した。今期も減益の予想だが、研究開発に過去最高規模となる1兆500億円を投じる計画とするなど、トヨタからは、自動車業界が大転換期を迎える中での危機感が強くにじむ。もうすぐ9年目を迎える章男社長体制のトヨタは変わるのか。

決算説明会に登壇したトヨタの豊田章男社長

自動車産業は未知の領域に?

「クルマそのものはもちろん、未来の自動車産業も従来とは全く違った世界になるかも知れない」。章男社長が2017年3月期決算発表の場で語ったのは、自動車産業全体がパラダイムシフトを迎える中で、トヨタが変わろうとする決意だった。

また、「今回の決算は、目先の利益確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくというトヨタの意思が表れたもの」として、今期の研究開発費を前期比1%増の1兆500億円と過去最高水準を継続すると説明した。

研究開発投資は4年連続で1兆円を超えることになる。2017年3月期(前期)連結決算の純利益が前期比20.8%減の1兆8311億円であったのに対し、2018年3月期(今期)の業績予想では純利益がさらに18%減って1兆5000億円となる見通しと、2年連続の減益となる予想だが、研究費は積み増す格好だ。

2年連続の減益予想には、トヨタが為替レートを1ドル=105円と保守的に見積もったことが影響している。トヨタの場合、為替が1円振れると損益に400億円の動きが出るからだ。

それでも、今期は1兆500億円を研究開発費に、1兆3000億円を設備投資をつぎ込むというトヨタの姿勢を見ると、2017年6月で就任後9年目を迎える章男社長は、自動車業界の大転換期に危機感をもって臨む決意を強くにじませたものといえる。

賢いクルマのつくり方を追求

決算発表で章男社長は、トヨタの“もっといいクルマづくり”の原点が「コンパクトカー」にあると断言。2016年に導入したカンパニー制の中でも、トヨタコンパクトカーカンパニーにおいて、ダイハツ工業も巻き込み、良品廉価と安全・快適の追求を進めることで、トヨタのクルマづくりを変えることも強調した。

トヨタのカンパニー制は、2017年4月に製品軸で7カンパニーから9カンパニーに整備されたが、コンパクトカーをベースに、「もっといいクルマづくり」に「賢いつくり方」を加えて、カンパニー同士が競争・切磋琢磨していく方向をとることになる。「大きい会社になり過ぎたトヨタ」が変わる試金石ともなろう。