SF映画として余計なものは極力削ぎ落とし、洗練されたアプローチをした『メッセージ』(5月19日公開)。メガホンをとったのは『ブレードランナー 2049』(10月27日公開)も待機中のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だ。来日した監督にインタビューし、「すべてを見せない」という演出の美学に迫った。

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

『メッセージ』は第89回アカデミー賞で8部門にノミネートされた話題作。ある日、巨大な球体型宇宙船が突然地球上に降り立ち、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が、知的生命体とコンタクトを取っていく。

本作で特筆すべき点は、広大な宇宙のロマンと、小宇宙のようなヒロインの半生をリンクさせた点だ。観終わった後、実は非常に繊細でパーソナルな映画だったことに驚嘆する。

ミニマリズムを追求した宇宙船のデザインも粋だが、ヴィルヌーヴ監督の「"ばかうけ"からインスパイアされた」というジョークを飛ばせる懐の深さも素晴らしい!

――以前からSFというジャンルは好きだったのですか?

SFについて語ろうと思うと、自分の子ども時代にさかのぼることになる。僕はカナダの小さな街で生まれ育った。冬が長かったので、よく家でSF作品などに触れていたんだ。小説を読むと現実逃避できたし、自分の周りの世界を理解する手立てにもなったよ。

――SF映画の中でも特にどういう作風のものが好きですか?

僕が惹かれるSF映画は戦争ものやハイテクものではなく、もっと実存主義的な未知な世界を模索するようなタイプの映画だ。

スタンリー・キューブリック監督作『2001年宇宙の旅』(68)を観た時、強い恐怖心を感じことをよく覚えている。その時の恐怖心は、自分が触れたり、理解したりできない1つのアート作品であったところから感じたものだろう。僕は美しいまでの恐怖心にすっかりハマってしまい、SF映画好きになったんだ。

エイミー・アダムス演じる主人公の言語学者・ルイーズ

――SF映画を撮る上で、どんなことを心がけていますか?

なるべくミステリーを保持するよう、すべてを描かないように努めている。『メッセージ』の美術についても、デザイン、画コンテ、撮影という段階を踏んでいく中で「船内をもっと見せてください」というリクエストがたくさん入ったが、僕は頑なにそれを拒否したんだ。

――見せないことでイマジネーションが広がるということでしょうか?

そうだね。「操縦するのが操縦桿なのかボタンなのか、どちらかを見せたい」とスタッフから言われたけど、その辺はミステリーに留めておいた方がいいと思った。

たとえばスピルバーグ監督の『未知との遭遇』は大好きな映画だけど、あのラストシーンで、宇宙船に入り、船内を見せてしまうのは間違いだと思った。あの映画から学んだことは、時には見せない方がよりパワフルな印象を与えるということだ。

実は『2001年宇宙の旅』でも、キューブリック監督はエイリアンのデザインまでしていたらしいけど、監督はそれを登場させなかった。それは本当に英断だったと思う。

――ヴィルヌーヴ監督は宇宙人の存在について信じていますか?

もちろん信じている。この広い宇宙で人類だけが存在しているのは、人類のナルシシズムとしても良くない考えだ。実存主義的な観点から言って、人類しか存在してないということはありえない。何らかの地球外生命体はいてほしいし、いるかもしれないという可能性こそが美しいと思う。

――待機中の『ブレードランナー 2049』も楽しみです。

現在、ポストプロダクションを一生懸命やっている。ちょうど音楽やVFXをつけている段階だ。アーティスティックな視点から見てもすごくチャレンジングな作品になった。

何といっても大好きな『ブレードランナー』(82)の続編だから、その世界観を自分なりに咀嚼し、自分ならではのものにしなければいけないから。ワクワクするし、怖い体験でもあったよ。

■プロフィール
ドゥニ・ヴィルヌーヴ
1967年10月3日生まれ、カナダ出身の映画監督で脚本家。『渦』(00)、『静かなる叫び』(09)で注目される。『灼熱の魂』(10)は第83回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネート。続いて『プリズナーズ』(13)、『複製された男』(13)、『ボーダーライン』(15)を監督。『ブレードランナー 2049』が10月27日に全国公開予定