妊娠に気付いた時は、多くの場合、すでに数週間が経っているもの。その間にお酒を飲んでしまい、冷や汗をかいている人は意外と多いのではないだろうか。また、毎朝飲んでいたコーヒーも、胎児に影響がありそうな気がして心配になるかもしれない。それらはおなかの赤ちゃんによくないものなのだろうか。また、どの程度なら飲んでも大丈夫なのだろうか。順天堂大学医学部附属練馬病院産婦人科長の荻島大貴先生にうかがった。
お酒は妊娠に気付いた時点でストップ!
「妊娠中・授乳中のお酒はNG」というのは、すでに一般常識となっている。しかし、妊娠に気付いていなければいつも通り飲み会に参加してしまうだろうし、その後に「しまった! 」と思うかもしれない。荻島先生は、「お酒は妊娠が分かった時点でやめればいいです」と言う。危険なのは、妊娠中にも関わらず、お酒を飲み続けてしまうことだそうだ。
"妊娠初期はアルコールの影響を受けない"ということではなく、もちろん"初期は飲んでも問題ない"という意味ではない。お酒に限らず、赤ちゃんの身体がつくられる「器官形成期」までの間に、赤ちゃんに多大な影響を及ぼすほどの何かしらがあったとしたら、妊娠は自然に中断されてしまう。もしかしたら、妊娠に気付く前にそういったことが起こっているかもしれない。まずは、妊娠した時点でお酒をやめることが大切だ。
お酒を飲み続けるとこんな危険も
では実際、お酒は赤ちゃんにどんな悪影響があるのだろうか。荻島先生は、「お酒は本当によくありません。『胎児性アルコール症候群』になり、奇形・知能障害・発達障害や、胎児死亡の危険があることが明らかになっています」と言う。
文献によると、お酒(エタノール)は胎盤を容易に通過しやすく、赤ちゃんはダイレクトに影響を受けてしまうという。胎児性アルコール症候群の赤ちゃんを出産した人の常飲量は、日本酒で1日に2~3合以上とのことだが、「時々飲んでいた」という人でもうまれた子どもの行動異常が多数あったとのこと。また、授乳中の飲酒でも、赤ちゃんに外見の異常などが現れたという報告があるそうだ(「Binkiewicz A, et al:Pseudo-Cushing syndrome caused by alcohol in breast milk. J Pediatr93:965-967,1978」より)。
コーヒーは3杯まで
妊婦さんとは言え、「コーヒーは欠かせない! 」という人もいるだろう。大人の飲みものだけに、お酒同様、カフェインの影響も心配になるかもしれない。荻島先生は、「『コーヒーは1日に3杯まで』と言われています」と話す。
これには医学的根拠もある。2005年に発表された報告によると、コーヒーを飲む人と全く飲まない人を比較したところ、飲む量が多い人ほど胎児死亡率が高くなっているという。具体的には、「1日に1/2~3杯で1.03倍、4~7杯で1.33倍、8杯以上で1.59倍」とのことだ。また、いずれの妊娠週数でも、4杯以上は高くなっている(「Bech BH,Nohr EA,Vaeth M,Henriksen TB, Olsen J :Coffee and fetal death:a cohort study with prospective data. Am J Epidemiol,162(10):983-990,2005」より)。このような結果から、コーヒーを飲まない人とほとんど差のなかった「3杯まで」が通説となったようだ。
お酒もコーヒーも、まずは妊娠が分かった時点で調整することで、赤ちゃんへの影響を抑えることができるようだ。しかし、それまで習慣的に飲んでいたのに急にやめるとなるとストレスになってしまう人もいるだろう。妊娠中はもちろん、妊娠を考えたら禁酒することが大切になる。将来に出会う赤ちゃんのために、妊娠前から少しずつ生活を変えてみるのもひとつの手かもしれない。
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監修者プロフィール: 荻島 大貴
1994年順天堂大学医学部卒業、2000年同大学大学院卒業。現職 順天堂大学医学部付属練馬病院 産科婦人科診療科長・先任准教授。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医・指導医・評議委員、日本がん治療認定機構がん治療認定医、日本周産期・新生児学会周産期専門医、母体保護法指定医。練馬区を中心として城西地区の婦人科がんの診療と周産期医療を行っている。
筆者プロフィール: 木口 マリ
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスにつづったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。