温泉が多い岩手県花巻市の中でも、大沢温泉は宮沢賢治ゆかりの宿として知られている。花巻市は「わんこ蕎麦」発祥の地。賢治愛用の蕎麦屋もあるが、B級グルメの世界では、復活した10段ソフトクリームを出す食堂が話題になっている。温泉やB級グルメを満喫し、宮沢賢治に思いを馳せるのに最適な、南花巻温泉峡・大沢温泉の魅力を紹介しよう。
ソフトは箸で! マルカンはナポリカツも絶品
10段ソフトクリームは、知る人ぞ知る花巻市の名物。マルカン百貨店の閉店により、惜しまれつつ閉鎖された大食堂が、地元住民を中心とした熱い要望により2017年2月に復活し、また食べられるようになり話題沸騰中だ。一度閉店しても復活する程の人気なので、平日でも大行列必至だが、一度食べれば花巻最大の思い出になるに違いないので、時間を割いて並ぶ価値がある。
10段以上のソフトクリームを展開しているお店は他にもあるものの、その形状ゆえに倒壊の可能性は高まり、ある意味、倒壊が名物になっているところも多いだろう。その点、マルカンビル大食堂の10段ソフトはしっかりと冷えて固まっており、箸で食べる人がいるほどである。倒壊とは無縁のソフトクリームとしては、日本一の段数と言える。これだけの大きさで税込180円なのだから、リピーターが続出するのも当然だ。
いくらジャンボサイズとは言え、ソフトクリームだけでは食事にならない。昼食にオススメなのが、もうひとつの名物「ナポリカツ」だ。その名の通り、「ナポリタン」と「トンカツ」がコラボしたメニューで、サラダまで添えられた豪華版。ボリュームも満点だが、これが税込780円なのだから、まさに激安価格だ。
●information
マルカンビル大食堂
住所: 岩手県花巻市上町6-2
アクセス: JR東北本線 花巻駅下車、徒歩15分
さすがわんこ蕎麦発祥の地
花巻市での昼食はマルカンビル大食堂がイチオシだが、毎週水曜日は定休日。旅行の日程が水曜日に当たってしまった場合に備えて、蕎麦の名店も紹介しよう。もちろん、マルカンの希望メニューが売り切れの場合や、大行列で断念する際にも利用可能だ。
わんこ蕎麦発祥の店(今は通常の蕎麦メニューのみ)や、地元の英雄・宮沢賢治愛用の蕎麦屋もあるが、一番のオススメは今回紹介する温泉宿、大沢温泉の食事処「やはぎ」。宿泊や日帰り入浴の際はもちろん、食事だけの利用も、フロントに一言断ればOKだ。
大沢温泉の食事処「やはぎ」は、何を食べてもおいしいと口コミでも評判の店。中でも、特にオススメなのが「もりそば」だ。十割蕎麦自体が絶品の上に、薬味が充実しているのがうれしい。辛味大根で山形風の味にしたり、紅葉おろしで出雲蕎麦風の味を楽しめたりと、日本各地の絶品そばを思い出してしまう。食事利用者は、数種類の漬物を自由にいただけるのもありがたい。
●information
大沢温泉 食事処「やはぎ」
住所: 岩手県花巻市湯口字大沢181
アクセス: JR東北本線 花巻駅から新鉛温泉行きバス約30分、大沢温泉下車すぐ
3タイプの宿泊棟を選べる宮沢賢治ゆかりの温泉宿
大沢温泉は、南花巻温泉峡を代表する老舗旅館。3つの宿泊施設の集合体になっており、近代的な高級旅館「山水閣」、茅葺き屋根の古風な秘湯「菊水館」、自炊湯治場の「湯治屋」がある。菊水館と湯治屋が、あまりにも安いので、山水閣が高級旅館の位置付けになるが、宿泊料は1万円台とリーズナブル。今回は、山水閣を中心に紹介しよう。
大沢温泉は日帰り入浴でも、山水閣、菊水館、湯治屋の浴場を利用できる湯めぐりの宿だが、山水閣の新館浴場は山水閣宿泊者専用。コンクリート打ちっ放しの近代的な露天風呂付き大浴場の他、無料の貸切家族風呂も3つある。日帰り入浴の人気も高い大沢温泉だが、このエリアはいつも静寂が保たれており、快適に温泉三昧できる。
大沢温泉「山水閣」は料理も素晴らしい。ただし、料理の内容は宿泊プランによって異なるので、自分と同行者の好みに応じた宿泊プランを適切に選択するのが大切だ。客室は川側と駐車場側があり、川側の方が多少高いが、部屋から清流を眺められる魅力は大きい。極力川側の客室を予約したい。
大沢温泉「山水閣」はイチオシの温泉旅館だが、宿泊料は1万円台半ばと実にリーズナブル。特別な記念日プランでも2万円しないのだから、まさに破格値だ。何か記念日を設定して、記念日プランで宿泊するのも一法。アメニティーのグレードアップや、食事にスパークリング・ワインが付く他、普段お世話になっている人に、メッセージ入りのケーキを贈ることもできる。せっかくの旅行なので、ここでしかできない特別な体験を楽しんでいただきたい。
●information
大沢温泉 山水閣
住所: 岩手県花巻市湯口字大沢181
アクセス: JR東北本線 花巻駅から新鉛温泉行きバス約30分、大沢温泉下車すぐ
「下ノ畑二居リマス 賢治」
花巻の温泉を満喫したら、郷土の偉人・宮沢賢治の史跡めぐりをしよう。宮沢賢治が生まれ育った花巻市には、宮沢賢治記念館もあるが、もっと具体的にその足跡をたどってみてはいかがだろうか。そのシンボル的な存在が、羅須地人協会だ。
羅須とは英語の「ラスティック」の意味で、素朴で飾り気のない賢治らしい言葉だ。賢治が教えていた花巻農業高校内に移築されているので、10人以上の団体は事前に届け出が必要。授業の邪魔にならないように見学したい。「下ノ畑二居リマス 賢治」と書かれた黒板があり、本当に賢治がいるような気がする場所だ。
●information
羅須地人協会
住所: 岩手県花巻市葛1-68
アクセス: JR東北本線 花巻空港駅下車、徒歩約20分
イギリス海岸で宮沢賢治を想う
花巻市の宮沢賢治史跡の中でも、特に不思議な場所がイギリス海岸だ。北上川の河原を「海岸」と名付ける、賢治独自のイマジネーションに圧倒される観光スポットだ。
確かに、多少変わった河原だが、特別海岸を思わせるものはない。それもそのはずで、実は現在は川の中に水没しているのだ。宮沢賢治の命日である9月21日に出現させるべく、毎年ダムの放流調整をしているが、過去10年間で3回しか出現に成功していない。しかし、宮沢賢治に思いを馳せるのには最適な場所なので、ぜひ訪れておきたい。
●information
イギリス海岸
住所: 岩手県花巻市下小舟渡
アクセス: JR東北本線 花巻駅から車で5分
復活した10段ソフトクリームなどのB級グルメや温泉を満喫し、宮沢賢治の足跡を辿る大沢温泉の魅力、いかがだっただろうか。今回は大沢温泉を中心に紹介したが、南花巻温泉峡では鉛温泉藤三旅館や山の神温泉優香苑もオススメだ。
また、宮沢賢治の足跡を辿る旅としては、盛岡市の光原社も必見。光原社は代表作『注文の多い料理店』の出版元だが、その後に民藝店になり、今は観光名所になっている。宮沢賢治関連の展示もあるので、あわせて楽しんでいただければと思う。
筆者プロフィール: 藤田聡
温泉研究家、オールアバウト「温泉」「紅葉スポット」ガイド。温泉旅行検定試験で2年連続日本一になり、検定協会から「温泉旅行博士」の称号を授与される。温泉地を中心に周辺観光地の取材・撮影を行い、海外旅行にも決して負けない、国内旅行の奥深い魅力をメディアで発信中。紅葉や一本桜、夜景や四季の花などの絶景スポットにも精通している。