木村拓哉と草なぎ剛のSMAP解散後初ドラマや、ネットで熱狂的な支持を集めた『カルテット』(TBS系)の余韻も残る中、春ドラマがスタート。新年度のスタートにふさわしい豪華キャストが集結した作品が多く、早くもさまざまな話題が飛び交っている。

初回視聴率は、『緊急取調室』(テレビ朝日系)が17.9%、『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)が14.5%、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系、以下『CRISIS』に略)が13.9%、『小さな巨人』(TBS系)が13.7%と、上位4本を刑事ドラマが独占した(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

しかし、録画やネット視聴の多い現状ではこの数字はあてにならず、そもそもドラマの面白さと視聴率は別問題。春ドラマで本当に面白くて、今後期待できるのはどの作品なのか? 今期もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、春ドラマの傾向とおすすめ作品を挙げていく。

春ドラマの主な傾向は、[1]事件解決ドラマが乱発 [2]助演俳優に豪華ラインナップ [3]ますます加速するコミカル演出 の3つ。

『CRISIS』

傾向[1] 事件解決ドラマが乱発

『貴族探偵』(フジテレビ系)、『CRISIS』、『警視庁捜査一課9係』(テレビ朝日系)、『警視庁・捜査一課長』、『緊急取調室』、『4号警備』(NHK)、『犯罪症候群』(フジテレビ系)、『小さな巨人』、『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(フジテレビ系)。

これらはすべて事件解決モノであり、20~23時台に放送されている春ドラマ全18作中9本。ちょうど半数を占めるだけに、「かぶった」という印象もある。

2014年春に7本の事件解決モノが放送されて以降、3年間は各期2~4本程度で推移していただけに、この春の増え方は異様だ。もともとテレビ朝日は7割程度が事件解決モノであり、今期も4本中3本を占めている。TBSは3本中1本、日本テレビは3本中0本、NHKは2本中1本とバランスが取れているだけに、フジテレビの5本中4本が際立っている。つまり、『CRISIS』制作の関西テレビ、『犯罪症候群』制作の東海テレビを含めたフジテレビ系列が「この春は事件解決モノで勝負しよう」と考えたからこその事件解決モノ乱発なのだ。

各局が事件解決モノを選ぶ最大の理由は、他ジャンルよりもリアルタイム視聴の比率が高いこと。安定した視聴率を稼げる上に、『相棒』(テレビ朝日系)のようなヒットシリーズに成長する可能性を秘めるだけに、苦境が続くフジテレビが活路を見い出したくなる気持ちも理解できる。

ただ、「多すぎれば飽きられる」のは当然である上に、「必ず悪人が登場し、殺人事件が起きる」事件解決モノが苦手な人も多く、「さまざまなジャンルの作品を見たい」というニーズも強い。それだけに、ここまで偏ってしまうのは今回限りのほうがいいかもしれない。

『貴族探偵』

傾向[2] 助演俳優に豪華ラインナップ

「事件解決モノが多い」ということは、主演が刑事でも探偵でも、チームを組む助演たちが必然的に多数キャスティングされる。今期は特にベテラン・中堅の顔ぶれが豪華だ。

その最たるところは、生瀬勝久、井川遥、仲間由紀恵、滝藤賢一、中山美穂、松重豊の『貴族探偵』、田中哲司、大杉漣、小日向文世、でんでん、鈴木浩介の『緊急取調室』、香川照之、安田顕、手塚とおる、池田鉄洋、春風亭昇太、吉田羊、三田佳子、桂文枝の『小さな巨人』の3本。いずれも、主演を引き立てつつ強烈な存在感を放つ助演たちが、作品の質をワンランク上げている。

若手助演では、戸田恵梨香、市原隼人、小池徹平、三浦貴大、玉森裕太、門脇麦の『リバース』(TBS系)にも注目。珍しく内気で冴えない男性を演じる主演・藤原竜也とのコントラストをどう見せていくのか。事実上の演技合戦が繰り広げられている。

その他にも、『CRISIS』の西島秀俊、野間口徹、『母になる』(日本テレビ系)の小池栄子、『釣りバカ日誌』(テレビ東京系)の西田敏行、吹越満、『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(NHK)の倍賞美津子、江波杏子、『犯罪症候群』の渡部篤郎、『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)の柄本明など、インパクト十分の助演が目立つ。

誤解を恐れずに言えば、今期は主演よりも助演に注目したほうが、それぞれの作品を楽しめるような気さえするのだ。

『人は見た目が100パーセント』

傾向[3] ますます加速するコミカル演出

近年、「家に帰ったあとに重いドラマは見たくない」という声が増えていることを受けて、各局ともにコメディ作を増やし、シリアスな作品でも息抜きとなるシーンを必ず入れている。

今期はさらにその傾向が加速。全編にわたって喜劇舞台のような『貴族探偵』と、ブルゾンちえみを抜てきした『人は見た目が100パーセント』(フジテレビ系)は、これまで以上に思い切ったコミカルな演出が見られる。

また、「誘拐された子どもとの再会」という重いテーマの『母になる』ですら笑いのパートが盛り込まれ、『CRISIS』も主人公がバーで女性を口説くシーン、『小さな巨人』も主人公が家庭で軽く扱われるシーンがあった。刑務所が舞台の『女囚セブン』(テレビ朝日系)、怪物をめぐる物語の『フランケンシュタインの恋』も、予想を上回るコミカル演出にネットでも驚きの声があがっている。

ちなみに、今期コメディパートがまったくないのは『犯罪症候群』だけ。東海テレビ制作の同枠は『火の粉』『真昼の悪魔』でもシリアスかつダークな世界観を作り上げたこともあり、徐々に熱狂的なファンをつかみつつある。

仕事、趣味、家庭、SNSなどで何かと忙しく、疲弊しがちな現代人にとって、「1時間ずっと重いドラマを見るのはキツイ」のかもしれない。しかし、「コメディパートで集中力が切れる」というデメリットがあり、それが「終盤のカタルシスを小さなものにしてしまう」という事実もある。

制作サイドは、「作品の世界観を壊さないレベルでコメディパートを入れよう」としているが、大半の作品で否定的な声があがっているように、そのさじ加減はいまだ不安定だ。


これらの傾向を踏まえつつ、今クールのおすすめは、『ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~』(NHK)と『CRISIS』。どちらも演出の質が高く、前者は美しくノスタルジック、後者は軽快でダイナミック。その映像を見るだけでも価値がある。

その他のおすすめは、テーマに既視感こそあるが、母子の心情を連ドラらしく一歩ずつ描いた『母になる』、日曜21時の視聴者が求める「熱い男たちの物語」に徹した『小さな巨人』、遊びの域を超えた自由な演出が楽しい『人は見た目が100パーセント』。

ここまで今期は、脚本よりも演出に特筆すべきところのある作品が多く、「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないところ。TVerや各局のオンデマンドなどで、ぜひチェックしてほしい。

おすすめ5作

No.1 ツバキ文具店~鎌倉代書屋物語~(NHK 金曜22時)
No.2 CRISIS 公安機動捜査隊特捜班(フジテレビ系 火曜21時)
No.3 母になる(日本テレビ系 水曜22時)
No.4 小さな巨人(TBS系 日曜21時)
No.5 人は見た目が100パーセント(フジテレビ系 木曜22時)

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。