フランス大統領選挙の投票日が迫ってきた。4月23日の第1回投票で過半数の支持を得た候補が大統領に選出される。どの候補も過半数を得られない場合は、上位2名の候補による第2回投票(決選投票)が5月7日に実施される。6月11日と18日には議会選挙が行われる予定だ。

今回、世論調査では候補者全11人中の上位でも30%弱の支持率にとどまっており、第2回投票に進むのはほぼ確実な状況だ。

大統領選挙戦の序盤戦をリードしたのは、中道右派、共和党のフィヨン元首相だったが、身内への公金給与不正給付の疑惑によって失速した。代わって、改革派の「前進! 」を主宰するマクロン前経済相と、極右、国民戦線(FN)のルペン党首が接戦を演じている。さらに、極左、左翼党のメランション共同党首が支持を伸ばしてきた。その結果、大統領選挙は、マクロン氏とルペン氏を軸に、フィヨン氏とメランション氏が絡む4つ巴の様相を呈している。

なお、人気が低迷するオランド大統領の後継者、社会党の元閣僚アモン氏は大きく出遅れている。

最大の注目は、国民戦線のルペン党首がどれだけ有権者から支持されるかだろう。ルペン氏は、フランスの国家主権を最重要視しており、「FREXIT(フランスのユーロ圏離脱)」に関する国民投票を実施すると公約している。また、ユーロ通貨を放棄して独自通貨(新フラン?)の採用を主張している。

昨年の英国民投票や米大統領選挙で明らかになった、各国のポピュリズムや反グローバリズムの動きが一段と強まるのか、それとも今年3月のオランダ総選挙での自由党の躓(つまず)きが示唆したように、そうした動きにいったんブレーキがかかるのか、大いに注目されるところだ。

投票日の約2週間前の世論調査結果を基にすれば、ルペン氏とマクロン氏が第2回投票に進み、そこでマクロン氏が大差で勝利して大統領に当選するというのが妥当なシナリオだろう。したがって、それが実現するのであれば、金融市場はそれほど反応しないかもしれない。ただし、大統領選挙という不確実性が消滅することは安心感をもたらす可能性がある。マクロン氏の代わりにフィヨン氏が決選投票に進むケースでも、ルペン氏が勝利する可能性は低い。

仮に、第2回投票でルペン氏が勝利して大統領になるのであれば、「FREXIT」が強く懸念され、金融市場は大きく動揺しそうだ。ユーロ圏崩壊との観測が一気に高まるかもしれない。リスクオフから一時的にせよ全面的な円高が進行する可能性もありそうだ。

第1回投票でルペン氏が予想以上の票を獲得すれば、その段階で第2回投票におけるルペン氏勝利が意識されるかもしれない。

一方で、市場が最も好感するシナリオは、第1回投票でルペン氏が敗退するケースだろう。可能性は低いが、もしそうなれば「FREXIT」の懸念は消えるだろう。第2回投票に進むのがマクロン氏とフィヨン氏であれば、国民にとっては重要な選択だろうが、金融市場にとってはどちらが勝っても大きな影響はないのではないか。

左翼党のメランション氏の健闘は、選挙のかく乱要因となりそうだ。最新の世論調査では4位に甘んじているが、万が一、第1回投票で2位以内に食い込むようなことがあれば、そして第2回投票の相手がルペン氏になるならば、有権者は極右と極左という究極の選択を迫られることになる。

メランション氏は条件付きでユーロ圏残留を主張しているため、金融市場からみればルペン氏より好まれるかもしれない。しかし、ユーロ圏第2の大国で極左政権が誕生すれば、その影響は計り知れないだろう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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