日々の仕事に疲れた時、ふと旅に出たくなってしまう。そんな経験は誰だってある。そうだ、できれば都会を離れて島にでも行ってみたい。「島に行ってうまい料理とうまい酒が飲みたいんだよぉー! 」そう叫んでみたところで、なかなか気軽に行けるものでもない。そんな時には下北沢「第三新生丸」で八丈島へGO! ん? シモキタから船が出るの??
音楽と演劇の街・下北沢で八丈島料理を
下北沢駅南口改札を出て三軒茶屋方面に徒歩3分ほど歩くと、2本の道がひとつに交わるあたりにある路地を右折して更に数十秒。あったあった、隠れ家的居酒屋「第三新生丸」。八丈島の郷土料理が食べられると聞いて早速お邪魔してみた。それにしてもこの店名、完全に船のお名前ですよね?
「もともと私が八丈島の出身で、親父が漁師をやっていたので、島の料理を下北沢に来るお客さんに食べさせてあげたいなと思って始めたんです。店名の「第三新生丸」は親父の船をそのまま取って付けたんですよ」。
そう教えてくれたご主人の浅沼一秋さんは以前、下北沢の人気店「にしんば」で店長として働いていた経験をお持ちで、その後独立して「第三新生丸」を開店。4年前に現在の場所に移転してご夫婦でお店をやっている。「どうせやるなら普通の居酒屋じゃつまらないなと」いうことで、八丈島の郷土料理を中心としたお店にしたのだとか。音楽と演劇の街・下北沢に本格的な島料理を食べられるお店があったなんて、知らなかった人も多いのでは?
さて、気になるのはお料理。すみません。正直、八丈島に行ったことがないので知識が皆無なんですが……オススメ料理ってなんですか?
「八丈島スタイルのお寿司「島ずし」と刺身の3点盛り、それと明日葉の天ぷらがセットになった「八丈島セット」(税込3,650円)が2~3人で来店される方にはオススメです」。
「八丈島セット」っていう名前からして完全にお任せして良さそう。今日はひとりだけど思い切って頼んじゃおう。早速お願いします!
魚は八丈島からはもちろん全国各地から季節の魚を仕入れており、この日は八丈島からトビウオ、クロムツ、その他ブリやホタルイカなどがオススメメニューに入っていた。また、築地あたりで仕入れると高額なカサゴを専属の釣り師の方から仕入れるなど、独自の仕入れルートを使うことで安価で提供できているとのこと。普段はなかなか手が出ない魚も第三新生丸なら気軽に食べることができそうだ。
魚料理のみならず! 常時100種類のメニュー全て手作り
料理を待つ間、メニューを眺めてみると、ん? 「十勝牛サーロインステーキ」!? 「プロシュート&クリームチーズ」!? よく見たらピザからやきそば、カレーに餃子まであるじゃん! 実は家族連れでいらっしゃるお客さんもいるため、魚料理だけじゃなく豊富なメニューを取りそろえているんだとか。その数なんと100種類、しかも全部手作り。ピザも生地から作っているなんて、「第三新生丸」という店名からは想像もつかない。
「やっぱり下北沢のお客さんは舌が肥えているし、適当なものは出せないからね。手作りでちゃんとしたものを出しているつもりです」。長年下北沢住民の胃袋を満足させてきたご主人、さすがです。
八丈島の焼酎も取りそろえているのもお酒飲みにはたまらない。ちなみに、メニュー裏に書かれた歌詞は「しょめ節」という八丈島の民謡。流人として八丈島に流されていった人が島の人々の情けに触れたことで「情けのある島」「情け島」と呼ばれるようになったという言い伝えがあるらしい。
そんな歴史を感じながら焼酎「情け島」で酔ってみるのもオツなもの。その名もズバリの「島流し」なんていう焼酎もある。ご主人いわく、「35度あるから、あんまり飲むと流されますよ(笑)」とのこと。仕事でとちって自主的に島流しされたい夜には絶対これだね。ボトルキープもOK!
「音楽をやりたい若い人たちに門戸を広げたい」
訪れるお客さんの年齢層は40代から50代くらいが中心だが、若いカップルも多いそう。また、八丈島出身の方もいれば、八丈島に旅行に行って食べた料理が忘れられず、ネットで検索して遠くからこの店にやって来る人もいるらしい。
更に下北沢という場所柄、映画・テレビ関係者、俳優、ライヴや練習帰りにやってくるバンドマンが来ることも少なくない。そう言えば、お店の中にキーボードが置いてある。もともとプロのシンガーとして活動していた奥さまが、月に1回店内でお仲間と一緒にライブを開催しているんだとか。
「人前で音楽をやりたい若い人たちに門戸を広げたいと思っているんです。おいしいものを食べて飲んで、音楽を楽しんでもらえると思うので、お客さんを集めてライブをやってみたいという人がいたら、ご相談ください」とのこと。お店のメニューの情報と合わせてライブの情報もTwitterやブログで発信しているので要チェックだ。
2~3人でお酒を飲みながら楽しみたい「八丈島セット」
さて、いよいよ「八丈島セット」を実食。島ずし6貫、明日葉の天ぷら6枚、お刺身の3点盛り。今日の刺身はブリ、トビウオ、カツオ、島ずしはクロムツで作ってもらった。刺身の内容も、島ずしに使う魚もその時々で違うとのこと。
ジャーン! うわー豪華。今日はひとりで独占させてもらおう。いただきます!
まずは、島ずしを一口。白身にしては濃厚なクロムツのまったりとした味わいとからしの辛み(八丈島ではわさびがとれないのでからしが使われている)があいまって、旨味が口中に広がっていく。うまいっ! これは6貫くらい一気に食べてしまいそう。
しかし待て待て、焦らずとも八丈島はここにある。今度は明日葉を一口。「サクッサクッ」と音が届けられないのが悔しくなるくらい、パリッとした揚がり具合。されど、明日葉自体はとてもふんわりした柔らかい食感という、素材を生かすご主人の料理の腕前が感じられた瞬間。爽やかな香りが鼻孔をくすぐって、これはめちゃくちゃビールに合うってば!
しかし、筆者は今日に限って、この後の仕事のため飲酒できず……。いやマジで明日葉でビール飲みてえ~。続いてお刺身3点盛りへ。まずは醤油の上に乗せられた「島とうがらし」を箸でつついてひと舐め。こ、これは辛い! かじっちゃったら火を噴きそう。
「辛いでしょ? ツンツンして辛さを調節しながら食べてみてください」。
奥さまのアドバイス通り、島とうがらしをツンツンしながらまずは天然ブリをいただきます。うわ~うっとりしちゃうほど脂乗ってるよ。今は一番おいしい季節なんだそうだ。どうりでめちゃくちゃ美味。ちなみに、わさび用の小皿もあるので、とうがらしの辛みが苦手な人も大丈夫。
続いて、なかなか食べる機会がないトビウオへ。ブリとは全く個性の違う淡泊な味で、こちらの方が島とうがらしと相性がいい気がする。さらに、カツオも身が締まっていて、ほどよい脂の乗り具合で食べ応えあり。まずはビールを飲みながら明日葉を、そして旬の刺身に舌鼓をうちつつ島の焼酎を飲み、島ずしを頬張る。下北の街でそんな幸せが待っていたなんて!
「正直、お刺身だけをとっても他ではこの金額では食べられないと思いますよ。かなりの赤字メニューですからね」とのこと。1組1セット、5セット限定というのもうなずける。
2~3人くらいでシェアして食べるとちょうどいいくらいの量なので、最初に八丈島セットを頼んでから他のメニューを追加してみるといいかも。また、お酒が好きな人には絶対飲みながら食べることをオススメしたい。きっと幸せ倍増なはず。しかし……なんで俺は今日に限ってお酒が飲めないんだ~! 島流しもんだよホント。
「八丈島セット」の他にも、なめろうやくさやといったオススメメニューもあり。また、豊富な手作りメニューがそろっているので、老若男女問わず、魚が苦手な人でもきっと満足できるはず。グルメ激戦区・下北沢に来た際は、ちょっとした小旅行気分で訪れてみてほしい。
●information
第三新生丸
住所: 東京都世田谷区北沢2-15-6 B1F
営業時間: 17:00~24:00(ラストオーダー23:00)
定休日: 火曜日
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