いまや全国を席巻している名古屋発祥の喫茶店チェーン「コメダ珈琲店」(以下「コメダ」)。店舗数は740軒を突破し(2017年3月現在)、北は北海道から南は鹿児島まで、勢力を拡大している。お得なモーニングサービスやくつろげる空間づくりで、日本中の人々を魅了しているコメダだが、実はもう一つ、とっておきの秘密兵器がある。地元・名古屋以外ではほとんど知られていない「甘味喫茶 おかげ庵」(以下「おかげ庵」)だ。

現在、名古屋市内に6店舗、愛知県内に1店舗、そして2017年1月には関東1号店となる「あざみ野ガーデンズ店」(神奈川県横浜市)をオープン。コメダと比べると、店舗数はその比ではないが、かなりのポテンシャルを秘めた店なのだ。

コメダ名物、シロノワールもおかげ庵オリジナルの抹茶バージョンに。濃厚抹茶ソフトクリームと黒蜜もおかげ庵専用。良質な材料を使っていることもあり、料金は、コメダのシロノワールよりも150円高い750円

炊き立てを握ったおにぎり、自分で焼くおだんご……メニューのこだわりがすごい!

おかげ庵はその名前の通り、甘味=和のスイーツが充実している喫茶店。あんみつやぜんざい、桜餅やよもぎ大福などの季節の菓子が楽しめる。ドリンクは、コメダと同じブレンドコーヒーもあるが、抹茶やほうじ茶シェイク、きなこオーレなど、やはり和テイストのものがラインナップされている。

「ダブル甘味セット」(780円)。写真はあんみつ+宇治氷を組み合わせたもの

コメダの代名詞と言うべきモーニングサービスも、おなじみのトースト+ゆで玉子(+小倉あんも選べる)のほか、おにぎり・みそ汁・本わらびもちのセット、お茶の子(和菓子)のセット、合わせて3種類から選ぶことができる。食事メニューはコメダにないものばかりで、うどんやそば、雑煮、雑炊、そして名古屋らしい鉄板皿を使ったスパゲティーなどがある。

これらのメニューには、さまざまなこだわりが秘められている。例えば、モーニングサービスのおにぎりは、店舗で炊いたご飯を、注文が入ってから手で握り、提供している。手作りならではの、ほどよく空気が入ったふわふわな食感は、"おふくろの味"を思い起こさせてくれるだろう。

ドリンクを頼むと無料で付いてくるモーニングサービスの「おにぎりセット」。写真のドリンク「お抹茶」は470円

また、コメダの定番「シロノワール」のソフトクリームも、"甘味喫茶"を意識した抹茶味に。抹茶は、日本一の生産量を誇る、愛知県西尾市のトップメーカーから取り寄せたものを使用している。抹茶の風味を生かすため、ソフトクリームは乳脂肪分を高めにし、上品な香りとほのかな苦味がしっかり感じられる味わいに仕上げている。

席に運ばれてくる焼き台で、焼き加減を調整できる「焼ける楽しさ」メニューも名物。おだんごや五平餅、いそべ餅、焼き大福があり、焼き立てを堪能できる。おだんごにつける醤油は、名古屋ならではのたまり醤油を使っていて、香ばしさとほの甘さを引き出してくれる。

「おだんご」(570円)は、醤油、きなこ、あんこの中からトッピングを選ぶことができる

わらび餅には国産本わらび粉を、ホットドリンク用の砂糖にはコクと深みのある黒糖を採用。加えてレトロスパゲティー(名古屋ではいわゆる"鉄板ナポリタン"と呼ばれるメニュー)と、香味あんかけスパゲティーでは、麺を使い分けている。名古屋名物のあんかけソースは、粘度やこしょうの量を調整することで、全体のバランスを整えているという。

「香味あんかけスパゲティー」(760円)は、名古屋名物・あんかけスパ+鉄板スパの合わせ技

コメダよりもさらにゆったりとした空間で"和のくつろぎ"を

店舗デザインは「和のくつろぎ」をコンセプトとし、ゆったりとくつろげる空間作りを図っている。

おかげ庵上飯田店の店内。初期の店舗はコメダ同様ログハウス調だったが、この上飯田店から、より落ち着きのあるオリジナルの空間デザインに

コメダと比較すると、テーブルは、幅がやや広く、天板も木目が目立たないモダンなつくり。角の下側が面取りしてあるため、足などがぶつかりにくくなっている。さらに、イス型のソファは、4本の脚を長めにしているので、足を後ろに引きやすい。店内は、客やスタッフが行き来しても気にならない距離を保てるよう、通路幅を広くとっている。

ソファは一見コメダの色違いのようだが、脚が長く、かかとがあたらない設計に。テーブルはコメダに比べて天板の幅がやや広く、よく見ると、角の下側が面取りしてある

器の多くは、焼き物の産地・瀬戸の工房の手作り品なので、一点一点、微妙に風合いが異なるのも風流だ。言われなければ分からない、細部に至るまでの気配り。客が自然とリラックスできてしまうのも、うなずける。

苦難の歴史を乗り越え、いよいよブレイク間近!?

「日常の延長であるコメダよりも、少しぜいたくなくつろぎを提供できるお店を」という創業者の思いから作られたおかげ庵。しかし、魅力的なメニュー・空間を実現した現在に至るまで、長く苦しい道のりがあったことはあまり知られていない。

「忘れもしません。1号店(茶屋ヶ坂店・名古屋市千種区)でモーニングサービスを始めた初日のお客さまは、たったの2人。創業者と2人で頭を抱えました」。そう語るのは、18年前のオープン間もなくから、おかげ庵と共に歩んできたマーケティング部・部長の杉野正貴さんだ。

オープン当初、モーニングにつけていた抹茶パン風味のころんぱん、モーニングのテストメニューの1つだった稲荷寿司も、定番化には至らなかった。現在は奏功しているメニューへのこだわりも空回り、ご飯の炊きたてを重視しすぎるあまり、おにぎり茶漬、雑炊などのメニューが提供できない事態になったこともあるという。

そんな苦闘の歴史を乗り越え、好調に転じるきっかけとなったのは、3年前に始めたモーニングのおにぎりセットだったそうだ。「お客さまの利用動機がぐっと広がり、おかげ庵の存在価値を認めていただけるようになりました」と杉野さん。今ではモーニング全体の35%を、おにぎりが占めているという。

今後は、名古屋を中心とした中京圏よりも、コメダの店舗が少ない他地域の方が出店の可能性が高いという同店。横浜の新店舗は、かつてないほど好調とのことで、全国展開にも弾みがつくだろう。

コメダが"ありそうでなかったフルサービス(セルフサービスではない)の喫茶チェーン"として成功したのと同様、おかげ庵が"ありそうでほとんどない"甘味喫茶チェーンとして伸びる可能性は多いにアリ! と見た。次世代を担う"第2のコメダ"は、やはりコメダから生まれることになるのかもしれない。

おかげ庵上飯田店(名古屋市北区)。2年前にオープンした名古屋市内では最新の店舗

●information
おかげ庵 上飯田店
住所: 愛知県名古屋市北区織部町1-1
営業時間: 7時~22時半
定休日: 無休(年末年始は休業あり)

※記事中の情報・価格は2017年3月取材時のもの。価格は全て税込。メニュー価格は店舗により一部異なる。

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。