個人間無料送金アプリを提供するKyashは4月5日、「Kyash」リリースに合わせ、メガバンク3行の代表が登壇するパネルディスカッション「送金革命がもたらすマネーの未来」を開催した。このレポートではディスカッションの様子をお伝えする。
ディスカッションのモデレーターは『Card Wave』編集長の岩崎純氏、パネラーは三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 藤井達人氏、三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部 田村浩気氏、みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 辻和幸氏、Kyash 代表取締役 鷹取真一氏。
パネルディスカッション「送金革命がもたらすマネーの未来」。写真左からモデレーターで『Card Wave』編集長の岩崎純氏、パネラーのKyash 代表取締役 鷹取真一氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 藤井達人氏、三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部 田村浩気氏、みずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 辻和幸氏 |
キャッシュレス化における銀行の役割
――キャッシュレス化は送金の領域にも及んでいます。当初はこれまで銀行が担ってきた送金業務にフィンテックベンチャーが食い込むことで、銀行とベンチャーがぶつかってしまうのではないかと言われていました。しかし、実際はそうではなく、銀行とベンチャーが共にキャッシュレスを推進していくという流れになっています。メガバンクはフィンテックのくくりの中でどのようなことをやっているのでしょうか?
三菱東京UFJ銀行 藤井氏「今までの銀行のビジネスモデルにおけるキャッシュレスの取り組みでは、ATMやクレジットカード・デビットカードなどをやってきました。最近は銀行アプリを使った個人間送金も行っており、MUFG同士の即時送金が24/365(24時間365日)で可能になっています。スピードは速くないですが、キャッシュレスという側面だけではなくユーザーの利便性を意識した取り組みを進めているところです。くわえて、ブロックチェーン(ビットコインなどのように、複数のコンピューターでインターネット上の金融取引の記録を互いに共有し、検証し合いながら正しい記録を鎖のようにつないで蓄積する仕組み)を使って、新しいデジタル通貨を作るという取り組みも行っています。また、フィンテックベンチャーと組んでオープンイノベーションも沢山実施していますし、ユーザーのニーズに合わせた開発に自社でも取り組んでいるという状況です」
三井住友銀行 田村氏「キャッシュレスという点でいうと、当行ではVisaデビット利用の推進、ATMの利便性向上、アプリ上の送金機能改善などを実施してきました。銀行はもともと『どう便利にするか』という金融システムの技術は高く、銀行内だけでできるものもあります。しかし、現代のニーズに合わせた使いやすいものという視点や、若者やスマホユーザーの利便性などを考えた場合、新しい技術を持つベンチャーと手を組む必要があると考えています」
みずほ銀行 辻氏「みずほもJCBデビットの発行や、元々あった『みずほダイレクト』アプリのリバイズなど、ユーザーの使いやすさとキャッシュレスを推進していこうとしています。加えて、ブロックチェーンや銀行のAPI(他のアプリケーションソフトに対し、コンピュータープログラムの機能や管理するデータなどの一部を利用できるように提供するインターフェイス)の実証実験もすすめています。そういった銀行の技術を、テクノロジーを使って細かくPDCAをまわすベンチャーの技術と融合させ、キャッシュレスを推奨していきたいです」
――金融機関、サービス提供側には『テクノロジーを使ってPDCAをまわす』というメリットが見えやすいですが、一般コンシューマにはどのようなメリットがありますか?
みずほ銀行 辻氏「キャッシュレス化はユーザに一番大きなインパクトを与えるでしょう。日本ではまだ現金が主流ですが、2020年東京オリンピックには海外からたくさん人が来ます。そのときに、ドルから円に両替して現金で買い物しかできない世の中は、個人的には恥ずかしいと思います。ですから、Kyashのようなベンチャーと一緒に、細かいPDCAをどんどん回してサービスを改善し展開することで、電子マネーを含めたキャッシュレス化をすすめていきたいですね」
ベンチャーができること
――銀行は巨大な顧客基盤を持っています。店舗で対面による客との接点もあり、ネットバンキングもある。一方、基盤がなく、チャネルもこれからつくるベンチャーは、対コンシューマに何ができると思いますか?
Kyash 鷹取氏「前職の銀行時代には『銀行の公共性の高さ』を感じました。しかし、公共性ゆえ、『このようなサービスがいいのではないか』『ユーザーのためになるのではないか』ということを細かくやるにはハードルがあります。少人数ベンチャーなら、仮説検証を素早く回して、ユーザーのためになると分かれば事業化することができます。人数が増えても高速で検証を回せ、ユーザーが求めていることを見つけられるのがベンチャーではないでしょうか」
――今後、銀行としてのビジネスモデルはどのように変わっていくと思いますか?
三菱東京UFJ銀行 藤井氏「銀行にはいろいろな業務がありますが、ビジネスモデル自体をトランスフォームしないといけない段階に来ています。データを元に予兆検知をしてマーケティングをするなど、銀行もお客様とデジタルの世界で接点を持つことが重要だと考えています。ベンチャーの良さはユーザーのストレスやフリクション(摩擦・不和)になっているポイントをうまくいなし、新しく使いやすいユーザーエクスペリエンスをスピード感を持って細かく改善して提供していく点です。そういう特徴をもつベンチャーと是非協業したいと考えています。しかし、外部の企業とのデータ連係は難しい面もあるので、銀行自身もビジネスを考えていかないといけません。一緒にやる側面もあるし、自分でやる必要もあるでしょう。今は過渡期で、どちらに仕組みを寄せるかは、色々試していく上で決まると思います。ただ、今後は支店といったリアルの起点よりも、デジタル・バーチャル起点のビジネスに軸足が置かれるのではないでしょうか」