小説家・石田衣良による作品『北斗 ある殺人者の回心』が25日よりWOWOWで『連続ドラマW 北斗 -ある殺人者の回心-』として放送される。一人の孤独な少年が殺人者となり、法廷で自分と向き合っていく同作は、石田本人が「暗くて重くて大変すぎる」と語り、「書くのが辛かった」と振り返る作品。オーディションで主役に選ばれた中山優馬が、撮影のために約12kgの減量に挑んだことも話題となった。

今回は、主演の中山、原作の石田、そしてメガホンをとった瀧本智行監督の3人が、それぞれの視点から作品を振り返る。

■中山優馬
1994年生まれ、大阪府出身。2008年4月、NHK連続テレビドラマ『バッテリー』でドラマ初出演にして初主演を務める。2012年には、初のソロシングル「Missing Piece」をリリース。舞台、音楽、映画、ドラマと多彩な活躍を見せ、2017年は舞台『それいゆ』、『ABKAI 2017』、『にんじん』を控える。2018年2月には映画『曇天に笑う』の公開が控えている

■石田衣良
1960年生まれ、東京都出身。成蹊大学卒業後、広告制作会社に就職。その後、コピーライターとして独立し、1997年『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール読物推理小説新人賞を受賞。現代感覚の表現に優れた作家として、そのオリジナリティが高く評価される。以降、数々の代表作を手掛け、2003年の『4TEEN』で第129回直木賞を受賞する。

■瀧本智行
1966年生まれ、京都府出身。2005年『樹の海』で監督デビューし第25回藤本新人賞受賞。監督作品に『犯人に告ぐ』(07)、『イキガミ』(08)、『脳男』(13)、『連続ドラマW 私という運命について』(14)、『グラスホッパー』(15)などがある。

大変すぎる原作に、監督が惚れ込んだ

――『北斗』映像化の話を聞いた時、どのように思いましたか?

石田:正直、こんなに大変な原作に、手を上げてくださって大丈夫なのかなというのはありましたね(笑)。いくつか映像化の企画もあったのですが、これは大変すぎるという感じで止まっていたので。瀧本監督が惚れ込んでくれたのは嬉しいけど、「大丈夫なのかなあ」というのが感想です。

石田衣良

中山:僕は絶対にやりたいと思いました。こんなに深い役どころをできるのは一生に一度だなと思ったので。びびってましたけど、絶対に勝ち取りたいと思いました。

――瀧本監督は、どのようにドラマ化していこうか、構想があったのでしょうか。

瀧本:僕はもう、手を抜かないぞと思いました。暗くて辛い話なんですけど、そのまんまぶつけたいというか。実は『北斗』映像化については、WOWOWさんで企画を3回落とされて、プロデューサーが粘ってくれてここにこぎつけるまでに、4年間かかってるんです。

それほど原作に惚れ込んでいたのですが、僕が原作から受けた衝撃をそのまま観客に持ってもらえたらと思い、変に技を使わずに真っ向勝負しようというのが今回のテーマでした。十数年間やっていると、余分なものがついてるんですよね。そういうのを全部取っ払おうと思いました。

中山優馬の硬質感が魅力に

――実際に全5話完成して観られたと思いますが、中山さんの印象はいかがでしたか?

石田:一番良いなと思ったのは、硬質感。それでいてとても立ち姿が綺麗だったから、人間としての質感が北斗にぴったりの役者さんじゃないかなと思いますね。圧倒的な憑依っぷりなので、僕も自分で書いたものなんですけど、胸をギュッと締め付けられる感じで観ました。アイドルだと、男性や大人の方が偏見を持つこともあるかもしれないけど、すごく有望で、力のある俳優さんです。

瀧本:オーディションが2回あったんですけど、だいたい、最初にわかるんですよね。色々やってはいただくんですが、会議室に入ってきた瞬間に「これだ」みたいな感じはあって。役者ってやっぱり大切なのは目の力だと思うんですが、優馬くんにはそれがあった。理屈じゃないし、皆さんも多分わかると思います。この人でした。

中山:本当に嬉しいです。この役がやらせてもらえるというのは、マネージャーにさらっと聞かされたんですよ。「明日のスケジュールがこれで、あ、それと『北斗』決まりました」みたいな感じで(笑)。「えっ!? なんて!!」と聞き返したら「決まりました」と言われて、「ああ、わかった」と言ったんだけど、そこからぶるぶるぶるって身震いがしてきた感覚は覚えてます。

『連続ドラマW 北斗 -ある殺人者の回心-』(松尾スズキ)

瀧本:優馬くんは、オーディションの時に、台本を自分でバインダーにまとめて持ってきていたんですよね。「台本を全部読んでこい」と言って、最後の法廷の長台詞を言うのが最終オーディションだったんですけど。

石田:そんな大変なことやるんですか!?

瀧本:オーディションの時に、優馬くんがその台本をバラバラバラって落としてしまって(笑)。それを冷静に、マイペースに綴じなおしていました。

中山:緊張が隠しきれてない(笑)。手元がおぼつかなかったですね。

瀧本:緊張してるんだなとは思ったんですけど、その後慌てずに、ゆっくり拾っていたので、度胸のある人だなあと思いました。実際撮影に入ると、すごく愚直というのかな。作品に対して正直でまっすぐで、あまり器用ではない。そこが優れた俳優だと思いました。