一口に共働きといっても、それぞれがイメージする段階には違いがあるでしょう。夫の扶養家族の範疇で、パートで働いているケースでも、自分たちは共働きだと考える方もいれば、双方対等にバリバリと働いてこそ共働きと考える人もいるでしょう。共働きの程度がどの段階かで、住宅ローンの考え方も変わってきます。今回は「借り入れ」についてですので、夫婦それぞれが独立して生計を立てるだけの収入があるケースを対象に考えたいと思います。

共働き夫婦の住宅ローン、どんなケースがある?

住宅ローンをどう組めばよいかという問題を解決するには、どのように住宅ローンを組めば、その後の生活が円滑にいくか、あるいは何か問題が起きたときに対処しやすいかを考えることから始まります。夫婦でそれぞれ独立して生計を立てるだけの収入があれば、よほど高価なものでなく、一般的なレベルの住まいを取得するのであれば、住宅ローンという負債を負うことによる、万一の場合のリスクは少なさそうですが、本当にそうでしょうか。

住宅ローンは負債です。その負債についての互いの立ち位置は権利関係です。そのために問題となるのは、債務者が死亡したり、離婚になったりする場合です。離婚の場合にトラブルにならないようにと考えるということは、離婚を想定しているのではなく、互いの正当な権利を尊重する方法を考えるということなのです。

【ケース1 別々に借り入れる】
このケースはあまりないと思いますが、会社から借り入れする場合などが考えられます。

【ケース2 ペアローン】
夫婦それぞれが主たる債務者として、それぞれローンを組みます。その場合、互いに相手の連帯保証人となります。住宅ローン控除がそれぞれ使えるメリットがありますが、配偶者が死亡しても自分のローンは残ります。手続きと手数料も2契約分となります。

【ケース3 一人のみがローンを組む】
片方の収入が少なかったり不安定だったりする場合は、単独でも借りられる範囲で組むのが無難です。その場合ローン債務者の方が資金を拠出した比率が高くなりますが、共働きである以上、実際の返済はローンを借り入れない配偶者も寄与していますので、夫婦で資産は公平に寄与分に応じて形成していくことが大切です。

また反対に片方が、長年コツコツためた預貯金や贈与の特例等を利用して親などから贈与を受け、多額の頭金を用意できるケースもあります。頭金、ローン借入額ともに2000万円として、50%ずつの持ち分とした場合、頭金を拠出した側は、ローンの返済分、余分に貯蓄できなければなりません。共働きの夫婦である以上、資産形成も公平になされることこのケースの重要なポイントなのです。

【ケース4 収入合算(連帯債務) 】
住宅ローン控除がそれぞれに適用されますが、団体信用生命保険は債務者だけとなり、連帯債務者は補償されないデメリットがあります。フラット35の場合は収入合算すると連帯債務者となる必要があり、夫婦で団体信用生命保険に加入できる「デュエット」の制度があります。

【ケース5 収入合算(連帯保証)】
団体信用生命保険の加入は契約者のみですので、連帯保証人が死亡しても残債は返済されません。

【ケース6 一人が単独で住まいを取得】
土地などがどちらかの親の所有であったり、夫婦どちらかの単独所有であったり場合などは、権利関係をすっきりさせるために単独の所有とした方が、離婚の際などに面倒がありません。余裕がある場合は優良な投資物件を購入したり、貯蓄に回したりして資産形成を考える方法もあります。

各用語の意味と住宅ローンの関係

債務者と保証人…債務者とは住宅ローンを借り入れた人のことで、保証人とはその債務者を保証する人のことです。債務者が返済不能になったときに、債務者に代わって返済義務を負います。大切な点は債務者が返済できないときですので、保証人は債権者に、まずは債務者に請求するように言い渡すことができます(「催告の抗弁権」)。住宅ローンは保証人を立てずに保証会社を利用することがほとんどでしょう。

連帯保証人…保証人との違いは、債務者が返済できないときに限らず、債権者の請求があったときは返済の義務がある点です。返済能力はあってもなかなか支払わない債務者に対して、債権者は連帯保証人に請求することができ、債務者とほぼ同じ扱いです。「催告の抗弁権」は連帯保証人には無いのです。1日でも返済が遅れれば、請求される場合があります。しかし若干下記の連帯債務者と異なるのは、債務が滞って初めて債権者から請求される点です。上記ケース⑤にあるように連帯保証人が死亡しても残債は弁済されません。

連帯債務者…連帯保証人同様に「催告の抗弁権」はありません。連帯保証人と異なるのは、債務者と同等の債務を負う点です。連帯債務者は、借り入れた金額全額に対して返済の義務を負います。現実は支払いが滞ってからで、連帯保証人と変わりがないようですが、理論的には債権者はどちらにも同等に請求できるのです。したがって住宅ローン控除の対象となります。フラット35の場合は、「収入合算」する場合の合算者は連帯債務者になる必要があります。また、共有名義にする場合、共有者は連帯債務者になることができます。注意が必要な点は、連帯債務者を保護する保険等が万全でないことです。フラット35の場合は「デュエット」を利用すれば、どちらかに万一の場合には残債全額が弁済されます。

担保提供者…夫婦どちらかの所有の土地に共同で住まいを建築する場合、土地の所有者は建物の建築に伴う住宅ローンに担保提供しなければならないケース(フラット35など)があります。親から土地を相続した、親の土地を使用貸借する、親が住む土地の一部を使用貸借するなどのケースはよくあります。土地を担保提供する側のリスクをどう取り扱うかも重要なポイントです。

夫婦共働きは大変な分、上手に資産形成すれば、先々何があっても比較的対処しやすくなります。その点をプラスに考え人生を楽しむには、互いの寄与分を尊重し、感謝し、実際の資産形成に反映されることが大切です。寄与分は後になればなるほどわかりにくくなります。夫婦間で水臭い感じもしますが、資産形成は励みにもなり、互いの寄与分を認めていれば、その都度反映させられると思います。同じ共働きでも収入や年齢、資産状況などによってローンの組み方は違うでしょうが、違わないのは公平な資産形成その点です。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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