間もなく到来する桜シーズン、多くの人が花見に出かけると思う。毎年、同じ花見スポットという人も多いかもしれないが、今年は古都・京都へ花見に出かけてみてはいかがだろうか。古寺社の境内や、紅殻格子(べんがらごうし)の家々が建ち並ぶ古都の景色の中に咲く桜の風情は、ひと味もふた味も違う。今回は、京都の桜の名所7カ所の見所と鑑賞のポイントを案内しよう。

醍醐寺の広大な境内には、約1,000本の桜が植えられており、3月中旬頃から1カ月にわたって、様々な種類の桜が咲く

醍醐寺 - 太閤秀吉も楽しんだ"醍醐の花見"

京都の桜の名所巡り、最初は豊臣秀吉が"醍醐(だいご)の花見"を開いた場所として知られる醍醐寺を訪れてみよう。天下を統一し、人生の最晩年を迎えた秀吉は、慶長3(1598)年3月、ここ醍醐寺で女房女中衆など、約1,300人を従えて盛大な花見の会"醍醐の花見"を催した。

派手好きな性格だった秀吉は、北野大茶会(1587年)や、吉野山の花見(1594年)など、人生の節目節目で様々なイベントを行ってきたが、"醍醐の花見"は、その規模の大きさからも、一代の英雄の最後を飾るにふさわしいイベントとして語られている。この花見から半年後の8月18日に秀吉は62年の生涯を終えるのだ。

"醍醐の花見"に先駆けて、醍醐寺の境内には、畿内から集めた桜、およそ700本が植えられたが、現在、醍醐寺の本坊にあたる「三宝院」には、その桜の子孫のうちの一本とされる、樹齢160年以上の「太閣しだれ桜」が見事に花を咲かせる。

三宝院の「太閣しだれ桜」。奥村土牛(とぎゅう)の作品『醍醐』に描かれたことから、「土牛の桜」とも(2016年3月29日撮影)

ちなみに、醍醐寺の境内は、醍醐山の麓に広がる「下醍醐」と、山上に広がる「上醍醐」に大きく分かれるが、秀吉が花見を行ったのは、上醍醐に向かう途中の「槍山(やりやま)」という場所だ。ここから山下に咲く桜を一望し、花見を楽しんだのだ。

槍山の「醍醐の花見」の立て看板。この山腹の平地に「花見御殿」を建て、山下に咲く桜を一望し、花見を楽しんだという

なお、上醍醐を目指して更に山道を登っていけば、醍醐寺創建にまつわる伝説にも登場する湧き水「醍醐水」を飲むことができ、頂上付近には、宇治方面の景色を一望できる場所もある。

●information
醍醐寺
住所: 京都府京都市伏見区醍醐東大路町22
アクセス: 2017年3月25日~4月9日まで、地下鉄「醍醐駅」から醍醐寺への直通バス(醍醐コミュニティバス)を約10分間隔で運行

哲学の道 - 桜のトンネルをくぐってそぞろ歩き

京都で桜の花を眺めながらの散歩を楽しむなら、「哲学の道」がイチオシだ。哲学の道は、かの有名な南禅寺や晩秋の紅葉の名所である永観堂の北東に位置する熊野若王子(くまのにゃくおうじ)神社前から銀閣寺前まで、琵琶湖疏水の流れに沿って約1.8km続く、石畳の散歩道だ。その風光明媚な周囲の景観などから、京都を代表する散歩道と言っても差し支えないだろう。

春先の「哲学の道」は桜のトンネルのようだ(2010年4月2日撮影)

一風変わった名前は、かつて京都大学で教鞭(きょうべん)をとった哲学者の西田幾多郎(きたろう)博士が、思索に耽(ふけ)りながら散歩していたことに由来するという。哲学の道沿いには、延々と桜が植えられており、春先にこの道を歩くと、あたかも"桜のトンネル"をくぐり抜けるかのようだ。途中、土産物屋や小さなギャラリー、甘味処などに立ち寄りながら、ゆったり小一時間の散歩を楽しもう。

●information
熊野若王子神社
住所: 京都府左京区若王子町2
アクセス: 京都市バス「南禅寺・永観堂道」下車、徒歩5分

京都府立植物園 - 様々な種類の桜を楽しめる穴場スポット

桜の季節の京都はどこも混み合うが、穴場としてオススメなのが京都府立植物園だ。植物園だけに桜の種類も多く、3月下旬から4月下旬にかけて、130品種、およそ450本の桜が次々と花を咲かせる。また、植物園のすぐ西側を鴨川が流れているが、堤防には桜が植えられており、ここも春先はとても気持ちの良い散歩道になる。

京都府立植物園は、どちらかというと地元の人に人気の穴場(2016年3月31日撮影)

植物園から鴨川べりを1kmほど上流に向かって歩いていくと、上賀茂神社に到着する。上賀茂神社の境内には、「御所桜」と名付けられた孝明天皇(在位: 1846~1867年)から下賜された樹を神社の社家(神職)が奉納したという見事な枝垂れ桜などが花を咲かせる。

上賀茂神社の「御所桜」(2016年3月31日撮影)

●information
京都府立植物園
住所:京都府京都市左京区下鴨半木町
アクセス:地下鉄「北山駅」下車、3番出口すぐ

平野神社 - 京都随一の桜の名所の「桜花祭」

京都の桜の名所として絶対に外せないのが、都で古くから桜の名所として知られる平野神社だ。境内におよそ400本、60種類の桜が植えられており、3月中旬頃から長期間、花を楽しむことができ、夜桜のライトアップも行われる。

平野神社「桜花祭」で時代装束に身を包む人々(2016年4月10日撮影)

また、境内には同神社発祥で早咲きであることから、「この桜が咲くと京都の花見が始まる」と言われる「魁(さきがけ)」と名付けられた枝垂れ桜があるほか、毎年4月10日には「桜花祭」が催され、時代衣装に身を包んだ人々の行列が、街を練り歩くのも見逃せない。

平野神社では茶店で「開運桜湯」と平野名物の「桜花餅」のセット(税込500円)をいただいた。塩漬けされた桜の花びらの優しい味わいが、歩き疲れた身体を癒やしてくれるようだ。

「開運桜湯」と平野名物の「桜花餅」のセット(税込500円)

●information
平野神社
住所: 京都府京都市北区平野宮本町1
アクセス: 京都市バス「衣笠校前」下車、北へ徒歩3分/京福電鉄北野線「北野白梅町駅」下車、北へ徒歩10分

続いては、夜桜のライトアップも楽しめる桜絶景のスポットも紹介しよう。