国連が定める「国際女性デー」である3月8日、Apple 表参道にて「いつでも誰でも学べるアプリケーション開発:女性もプログラミングを!」が開催されました。誰でも簡単にプログラミングの基礎を学べるiPhoneアプリ「codebelle(コードベル)」を開発・提供する株式会社Manabelle(マナベル)の代表取締役 小林コトミさんをお迎えし、トークが行われました。

コードベルは、特に若い女性が家事や育児の隙間時間を使って学ぶことを想定して作られた、プログラミングの基礎を学ぶためのアプリ。昨年はApp Storeの「今年のベストApp10選」にも選ばれ、注目を集めました。プログラミングというとなんだかよく分からない難しい世界のものと思う人も多いかもしれませんが、なぜ小林さんはそれを女性に勉強してもらおうと考えたのでしょうか。イベントでは、まずその経緯からお話が始まりました。

Manabelle(マナベル)のCEO 小林コトミさん

仕事が全てじゃない人生を求め、退職から再就職

もともとITエンジニアとして企業に勤めバリバリ働いていたという小林さん。ご自身を「仕事大好き人間」と仰るほどでしたが、結婚後「自分の幸せを仕事以外にも見つけたい」と考えて退職します。その後、出産を経てお子さんが1歳の時に再就職を試みますが、ここで大きな壁にぶつかります。

「過去に転職した時はすぐに次の職場が見つかった経験があったので、簡単に再就職できると考えていたのですが、通勤時間の短い地元(湘南エリア)で、時間通りに終われる事務職という条件に絞って探したところ、こんなに大変なんだと思うほど苦労しました。50社受けて全て落ちてしまいました」(小林さん)

そこで、少し方向を変えてみることに。地元には大手企業は少なく、中小企業になると事務職がカバーする仕事の範囲が広がり、Web関連の業務が含まれることもあります。

「Webページの作成やフォームの設置ができるなど、プログラミングのスキルをアピールしたところ、一発で採用されました。もともと簿記2級を持っていましたが、事務のスキルだけでなくプラスアルファがあることが、強みになると思いました」(小林さん)

小林さんの再就職先は、人材派遣・人材紹介サービスを立ち上げようと新たに事業を始めたところで、小林さんはそのサービス全てのWebサイトを構築しました。

未来の選択肢のために価値ある学びを提供したいと考え、マナベルを起業

自身の経験から、同じ立場の人のための起業へ

人材派遣サービスを通して実際の利用者と関わるうちに、小林さんは自身と同じ境遇にいる女性が非常に多いことに驚いたといいます。結婚・出産を機に一度離職し、都心までは通えないので地元で再就職したい、けれど事務職の求人は狭き門……。

「それなら、プログラミングを学ぶことでスキルアップになり、就職支援にもなるのではないかと。でも、いざやろうとしてもそうしたサービスを提供している会社がなかったんです。だったら自分で起業してしまおう、と考えました」(小林さん)

一方で、ご自身がエンジニア時代に長時間労働で悩まされた経験などから、その仕事を人に勧めて良いのかと悩む面もあったそうです。しかし、最近はエンジニアが会社に常駐せずに働くケースも増えているというアドバイスを受け、今なら在宅ワークを希望する人にはむしろ向いていると判断し、コードベルの開発に乗り出しました。

女性の再就職や在宅ワークを支援したいと考え、マナベルを起業

ママ友の声から「チャット形式」のレッスンを開発

コードベルが教えてくれるのは「Swift(スイフト)」というプログラミング言語。プログラミングとは、「このボタンがタップされたら○○の画面を出す」など、PCやスマホに対する作業指示を組み合わせ、何らかの機能を提供する「プログラム」を作る作業のことです。毎日使っているiPhoneのアプリもプログラムの一種で、誰かの手でプログラミングされたもの。そして、その作業に使うのがプログラミング言語(=PCやスマホに通じる言葉)です。

プログラミング言語は何種類も存在していて、使用目的や機器に合わせて使い分けられています。その中でSwiftは、iPhoneやMac用のアプリを作るための言語。だからSwiftを学べばiPhoneアプリを作ることも可能です……将来的には。

イベントでは実際にコードベルの画面を表示しながら、開発者の久保田裕さんが使い方の解説を行いました。ちなみに、マナベルは決まったオフィスがなく、全員が在宅勤務。だからコードベルも久保田さんがご自宅でプログラミングした"自宅出産"アプリです。

Manabelle(マナベル)のCTO 久保田裕さん

大きな特徴は「1レッスン3分で終了」と「チャット形式の文章」という、育児中の女性にも使いやすいように作られた構成です。

「子供が保育園に行くまでは座って15分の時間を取ることも難しいという経験から、1レッスン3分、隙間時間を利用して少しずつ学んでいけるスタイルにしました。また、ママ友たちに普段使っているアプリを見せてもらうと、LINEやiMessageなどのチャットを使っている人が多かったんです。だったらこの形式の方がすんなり受け入れられるのでは、と考えました」(小林さん)

長い文章+例題という形式で作っていたものをリリース直前にチャット形式に変更

ボタンを押すとフキダシを一つずつ表示。生徒側も自動的に表示されるので、自分で文章を入力する必要はありません

実際にアプリをリリースしてみると、主婦層だけでなく将来プログラミングを学びたい高校生や、小学校のプログラミング教育必修化を前にどんなものか知っておきたいという親など、幅広いユーザーから反響があったそうです。

プログラミングを学ぶと何が変わるのか

コードベルの開発コンセプトは、先のお話しのようにスキルアップによる就職支援もひとつですが、それだけではないと小林さんは語ります。

「特に育児中の女性は、家の中で社会に取り残されているのではないかと不安になる傾向があります。その気持ちを少しでも和らげて、昨日とは違う今日の"私"を知ってほしい。3分でも、少し学べた、スキルアップできたという自己肯定感を高めたい。だから短時間で、くじけずに、学べる環境を支援したいという意識があります」(小林さん)

iPhoneが生活に密着したものになった現在、アプリの開発にも生活を見つめる視点が必須になっています。使い勝手やデザインなどの面でも、女性の立場で考えられる人材が求められています。だからこそ、「ぜひ女性の皆さんにプログラミングに参入してほしい」と小林さんは言います。

プログラミングは計画的に物事を考える力を身につけることにも役立ちます

今回は国際女性デーにちなんだイベントだったため、女性目線のお話が中心になりましたが、小林さんはマナベルの企業目的として「女性に限らず、いろいろな人がいろいろな働き方をできる時代に向けて、その準備をしていきたい」と語りました。