樫尾俊雄記念財団は、東京都・世田谷区の「樫尾俊雄発明記念館」において、カシオ計算機が手がけた歴代の関数電卓や電子辞書、デジタル英会話学習機、ゲーム電卓を展示する特別展示「学びと遊びの電卓・電子辞書展」を開催する。期間は2017年3月21日~同年5月10日。入場・見学は無料だが、Webサイトからの予約が必要だ。

今回、特別展示に先駆けてプレス向けの説明会があったので、その内容を紹介しよう。

教育市場のニーズに応え続けてきた歴史

樫尾俊雄発明記念館は、成城学園前の閑静な住宅街の中にある。カシオ計算機を創業した樫尾四兄弟の次男であり発明家でもあった、カシオ計算機の先代会長、故・樫尾俊雄氏を記念して、その自宅を改装して歴代のカシオ製品を中心に展示する施設だ。

成城学園前の閑静な住宅街のど真ん中にある豪邸が記念館として利用されている

まず、カシオ計算機の太田伸司執行役員・CES事業部長が「学びに役立つ製品開発へのカシオのアプローチ」と題して、関数電卓や電子辞書の開発にまつわるエピソードを紹介した。

カシオといえば「G-SHOCK」に代表される腕時計や、「QV-10」を始祖とするデジタルカメラ「EXILIM」の数々を思い出すことも多いだろう。だが、社名に「計算機」が付いているように、世界初の小型電気式計算機「14-A」や、小型電卓「カシオミニ」など、計算機や電卓に縁の深い会社だ。

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ビジネスではもちろんのこと、電卓は学生が学習する上でも重要なツールとして役に立ち続けてきた。日本は複雑な演算も自力で行うことが尊ばれる社会だが、大量の計算を素早く正確に行うには、電卓は欠かせないツールなのだ。

特に、三角関数などの特殊計算機能を備えた「関数電卓」は、理系の学部に在籍/卒業した人にはお馴染みかつ、欠かせないツールだ。カシオ計算機では、1974年にパーソナル関数電卓の1号機である「fx-10」を発売後、40年以上にわたって改良を加えてきた。最新機種ではグラフの作成・表示機能なども備えるなど、非常に強力なツールとなっている。

カシオ初の関数電卓は1972年、電子辞書も1981年の登場と、非常に長い歴史を持っている

現在は世界の100カ国以上で関数電卓を販売している。その規模は、スタンダード関数電卓シリーズで年間2,500万台以上を売り上げ、この10年で数量が約1.5倍に拡大しているという、カシオとしては有力な成長市場なのだ。こうした成長の裏には、世界16エリアで各国の学習内容や授業に対応した専用モデルを52モデル(カラーバリエーション含む)も用意し、教育要綱への適合や言語対応を続けているといった強みがある。

事細かな多モデル展開が可能なのは、以下のような要素が大きい。

  • カシオ計算機が得意とする低消費電力フラッシュLSI技術などのハードウェア
  • 低速クロックでも高速演算が可能な計算アルゴリズム
  • 機能を組み合わせるだけの数分でROMデータを完成できる、徹底的にモジュール化が進んだ機種展開ツールといったソフトウェア技術、
  • 各国の教育省や協力教師との間に築いたネットワークとサポート体制
  • 教材制作も可能な学販活動

蓄積してきた技術とノウハウが、カシオの関数電卓を支える資産

ただし、多くの人にとって関数電卓というのは縁遠い存在であり、実際にどのような活用法があるのかピンとこない、という人も多いだろう。これについては、長野県総合教育センターの教科教育部主任指導主事である新井仁氏が解説した。

新井氏がいうには、グラフ関数電卓なら出力を解析する際に、Excelのような表計算形式のフォームでデータを入力し、グラフを容易に作成できる。また、グラフの変更も手作業よりはるかに高速なので、座標平面上の点を見て直線的な関数と曲線グラフを検討するのもたやすい。こうした、データに対する多面的な見方を育成するときに、関数電卓は効率的なのだ。

最新のグラフ関数電卓「fx-CG20」であれば、表計算形式で大量のデータ入力も効率よく行える。グラフ化も非常に簡単だ

また、漸化式のような、PCの計算ソフトでも簡単に表記するのが難しい式であっても、関数電卓では比較的簡単に入力できる。面倒な計算は計算機にまかせ、理論的な面に集中して考察できるようになる。より高度な数学に展開してくツールとして、関数電卓を活用してほしいということだった。

前述したように、日本では計算を自力でやることが尊ばれ、試験などに計算機を使うのが認められにくい傾向がある。一方、海外では理論を理解していることが重要であり、計算は機械任せにするほうが効率がいいとされることが多い。日本でも計算の正確さだけでなく、理論の理解を促すためのツールとして関数電卓が広く使われるようになれば、数学の面白さに目覚める学生が増えるのではないだろうか。