順天堂大学はこのほど、災害関連体験と心的外傷後ストレス反応(PTSR: posttraumatic stress response)との間に因果関係があることを明らかにした。同結果は、福島原発所員の3年間の追跡調査から分析したもの。
調査は、同大学大学院医学研究科・公衆衛生学講座の野田愛准教授、谷川武教授らの研究グループが実施したもの。同研究では、発電所員1,417名(第一原発: 1,053名、第二原発: 707名)を対象とし、2011年から2014年までの災害関連体験と心的外傷後ストレス反応(PTSR)の長期的変化との関連について分析した。
まず、災害2~3カ月後(2011年)に福島原発所員に対して実施した自己記入式アンケート調査をもとに、対象者を二群に分けた。ひとつの群は、「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」など災害関連体験を経験した所員で、もうひとつの群はそれらを経験しなかった所員とした。
その結果、「惨事ストレス」「被災者体験」「差別・中傷」を経験した所員の心的外傷後ストレスのリスクは、いずれも時間とともに徐々に低下する傾向があったという。しかし、経験していない所員に比べると、3年経過してもなお、心的外傷後ストレスのリスクが持続することが認められたとしている。
特に、「差別・中傷」といった社会批判を受けた所員は他の項目より影響が顕著だった。心的外傷後ストレスのリスクは、受けていない所員に比べ、2011年時点では約6倍、2014年時点でも約3倍となっている。
また、同僚を失った「悲嘆体験」経験がある所員は、時間に関係なく心的外傷後ストレス反応のリスクが持続している。経験のない所員に比べて、2011年時点で約2倍、2014年時点においても回復していない。
以上の結果から、「惨事ストレス」「悲嘆体験」「被災者体験」「差別・中傷」といった災害関連体験は長期間持続し、心的外傷後ストレス反応に強い影響を及ぼすことが考えられるという。
メンタルヘルスの不調を訴える所員に対しては、災害後4~12カ月の間、精神科医や臨床心理士が、継続的に治療や心理カウンセリングを提供してきた。しかし今回の結果では、彼らが受けた災害関連体験(特に差別・中傷などの社会批判)よる心的外傷後ストレス反応は長期間持続しており、今までの支援では不足していることがわかった。
所員のメンタルヘルスを良好に保つためには、組織的な介入策など広範囲にわたる長期的な支援が必要であることが考えられる。これらは、原発事故だけでなく、多くの災害等における支援者や被災者のメンタルヘルス対策を考える上でも重要であるとのこと。