ドラゴン2とファルコン・ヘヴィ

今回、スペースXが発表した計画では、どちらもまだ開発中の宇宙船「ドラゴン2」と、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」が使用される。

ドラゴン2は、スペースXが運用中の無人補給船「ドラゴン」をもとに開発中の宇宙船で、最大7人が搭乗でき、パラシュートを使わず、ロケットを逆噴射しながら着陸できる能力をもつなど、先進的な設計もふんだんに取り入れられている。

無人のドラゴンは、地球と国際宇宙ステーションとの物資輸送で使われており、すでに11機が打ち上げられ、そのうち10機が地球への帰還にも成功している(もう1機は現在もまだ宇宙にいる)。つまり地球から打ち上げられ、宇宙を飛び、地球に帰ってくる能力については折り紙つきである。

ドラゴン2は、まず国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送に使うことを第一として、開発費の多くがNASAから提供されている。ただ、耐熱システムなどはあらかじめ月や火星への飛行にも耐えられるように設計されており、2016年には、2018年に無人のドラゴン2を火星に打ち上げ、着陸させる試験を行うと発表されている(その後計画の見直しにより、現在は2020年に実施予定)。

今回の月世界旅行でも、通信装置などの改良が必要になるのみで、基本的には国際宇宙ステーションへ飛行する機体と変わらないという。

ただ、ドラゴン2の開発は当初の予定より遅れており、以前は2016年に無人での試験飛行を行い、2017年から国際宇宙ステーションへの有人飛行を行う予定だったものの、現在では有人飛行は2018年、もしくは2019年にずれ込む可能性も指摘されている。

ドラゴン2の想像図 (C) SpaceX

2016年に行われた、側面のスラスターで空中に静止する試験 (C) SpaceX

一方、そのドラゴン2を打ち上げるファルコン・ヘヴィは、既存の「ファルコン9」ロケットをもとに開発中のロケットで、ファルコン9の第1段を3基束ねたような格好をしており、現在運用中のロケットの2倍近い、強大な打ち上げ能力をもつ。そのおかげで有人のドラゴン2を月まで、無人であれば火星へも打ち上げられる。

ただ、ドラゴン2同様にこちらも開発が遅れており、初飛行は当初の予定から数年遅れ、現在は今年夏ごろに設定されている。

ファルコン・ヘヴィの想像図。ファルコン9を3基束ねたような姿をしている (C) SpaceX

開発が進むファルコン・ヘヴィ (C) SpaceX

つまり、今回発表された月世界旅行で使う宇宙船もロケットも、まだ完成しておらず、一度も実際に飛行したことがない。2018年という時期に間に合わせるためには、今後の開発や試験が順調に進むことが必要不可欠となる。しかし、開発に遅れはつきものであり、また実際に宇宙飛行を始めれば新たな問題も出てくるかもしれない。その中で、月への飛行に耐えられるだけの信頼性を築き上げるには、2018年末までの残り2年弱という期間はやや短い。

もっとも、スペースXの開発や打ち上げ計画は遅延することが常態化しているため、数年単位の遅れは十分ありえる。逆に言えば、2018年という時間にこだわりさえしなければ、宇宙船とロケットを完成させ、月へ向けて打ち上げることは不可能ではないだろう。