2017年4月1日から「目黒雅叙園」の名称が変わる。結婚式場としてのイメージが強い同施設だが、新たに「ホテル雅叙園東京」として、宿泊事業を強化すると発表。新たな歴史を歩むことを決めた同施設の狙いとは?
婚礼の雅叙園から、宿泊の雅叙園へ
目黒雅叙園は、1928年に「芝浦雅叙園」として創業。1931年に現在ある目黒に移転するとともに、「目黒雅叙園」に名称を変更した。創業以降、日本初の総合結婚式場として展開し、これまでに22万組以上が挙式利用をしている。現在でも、売上の半数以上が婚礼事業だという。しかし今回、86年ぶりに施設名称を変更し、新たにホテルとしてリブランディングを進めると発表した。
その背景として、2020年の東京五輪や政府が推し進める観光施策により、訪日外国人数が増加傾向にあることや、一時期の爆買いブームも落ち着きをみせ、宿泊費、飲食費、交通費などの「コト消費」のニーズが高まっていることがあるという。
これを受け、同社も"婚礼"事業が中心の"目黒"雅叙園から、"ホテル"事業に力を入れた"東京"の雅叙園へと新たな舵を切ることを決定した。
「和敬清心」の新エグゼクティブフロア
今回のリブランドに伴い、宿泊施設を大きくリニューアルした。従来は6階23室のみだった客室に加え、7階24室をリニューアル、8階13室をリノベーションし、全60室を有するホテルとして、運営を強化する。客室は3月1日から運営を開始した。
今回新オープンした7Fと8Fの客室フロアは、豪華絢爛なメインフロアとは打って変わり、「和敬清心」をテーマに落ち着いた空間イメージとなっている。茶道のわびさびに代表される精神性や、自然への思いなどをコンセプトに、客室自体を和室、そこに通じる廊下とEVホールを茶庭に見立ててたインテリアを施した。チェックイン時には、抹茶や煎茶といったウェルカムドリンクで宿泊者をもてなす。
また、8階「エグゼクティブラウンジ -桜花-」では、ティータイムやカクテルタイム、バータイムなど、時間帯に応じて異なったサービスを実施。今回のリニューアルで大きな目玉となるのは、同ラウンジで提供する朝食だ。「1日の最初の食事である朝食は、栄養素のバランスを考えた内容が好ましい」との考えから、契約農家から取り寄せた新鮮な野菜などの食材をふんだんに使ったメニューを提供する。
また、食べ合わせによるフードシナジー(相乗効果)を考慮。例えば、アボカドとトマトのサラダは、トマトのリコピンとアボカドの脂質を一緒に取ることで、リコピンの吸収力がアップする効果を狙っている。これらの栄養面を強調したメニューで、他社との差別化を図る。
同フロアには、「エグゼクティブラウンジ -桜花-」のほか、プライベートパーティーやカンファレンスルームとしても利用可能な「プライベート ダイニング -紫翠 SHISUI- 」や、「ライブラリーラウンジ -椿 TSUBAKI-」といった施設も併設。客室は、80~120平米の全室スイート仕様となり、1室1泊あたりの価格帯は18万円から。冠婚葬祭の家族利用や、企業の宴会利用を狙っている。
3つの「文化」を伝える雅叙園
ホテル雅叙園東京は、リブランドに際し、従来からの強みである「ハード(建物)」「食」「文化(婚礼)」の3本柱を強化していく考えだ。
「百段階段」は、国の登録有形文化財に指定されており、各部屋の天井や欄間に描かれた作品は、美術館の貯蔵作品にも劣らない価値を持つ。その空間で食事や宴会を行える同施設は、その豪華絢爛さから「昭和の竜宮城」とも呼ばれているという。スタジオジブリの長編アニメ映画「千と千尋の神隠し」の油屋のモデルになったとも言われ、海外からも高い人気を誇る。
また、飲食事業では、和食はもちろん、婚礼事業で培ったイタリアンや中華といった分野でも強みがある。さらなる強化のため、朝食の新メニューのほか、クラブラウンジ、イタリアン料理、パティスリーなど、複数レストランのリニューアルを発表。また、飲料顧問にエグゼクティブソムリエの石田博氏を迎えるなど、サービス向上に勤める。さらに、併設するオフィスビルのアルコタワーでも4月21日から、健康食をコンセプトにしたカフェの運営を開始する。
同社の1番の強みである婚礼事業では、和婚や着物といった、日本特有の伝統文化を強調したプランを用意することで、国内外の「コト消費」を狙う。ブライダルサロンを昨年リニューアルしたことで、数年間低迷していた婚礼数もV字回復を果たしている。また、訪日外国人向けのブライダルプランも用意し、新たな消費も狙う。
同社の本中野社長は、「今回のリブランドにより、3つの"文化"を発信していくことで、2020年以降も愛される、個性的な施設を作り上げたい」と述べた。婚礼施設としてのイメージが強い同社だが、歴史のある有形資産を上手に活用しながら、老舗ブランドを再構築することで、複合施設として展開。今後は、婚礼事業に加え、訪日外国人やファミリー層の利用増加を狙う。