有料座席指定列車「S-TRAIN」でデビューする西武鉄道の新型通勤車両40000系は、同社の30000系に続く「スマイルトレイン」シリーズの車両となる。「人にやさしい、みんなと共に進む電車」をコンセプトに、通勤・通学利用者や車いす・ベビーカー利用者、子供たちからシニア世代まで心地良い時間を過ごせるように工夫された。
2月13日に行われた内覧会では、車両公開に先立ち40000系の概要説明が行われた。西武鉄道車両部車両課長、山下和彦氏は40000系導入の経緯を「黄色い電車2000系の廃車計画にもとづき、代替車両として製作が計画されました。好評をいただいた30000系の基本的な考え方を今回も踏襲し、20代男女の若手社員6名と車両専門の3名によるプロジェクトチームを結成し、40000系のデザイン・設計を行いました」と説明。鉄道に詳しくない社員をチームに加えることで、既存の車両デザインからの脱却を図ったという。
「パートナーゾーン」に大人から子供まで楽しめる工夫も
40000系の2016年度製作導入編成は40001編成・40002編成の2編成あり、内覧会では40002編成が公開された。10両固定編成で、1号車から「40102(Tc1)」「40202(M1)」「40302(M2)」「40402(T1)」「40502(M3)」「40602(T2)」「40702(T3)」「40802(M5)」「40902(M6)」「40002(Tc2)」。パンタグラフは2・5・8号車に設置された。車体寸法は長さ20,000mm(先頭車20,270mm)、幅2,808mm(車側灯除く)、高さ4,115mm(パンタグラフ折りたたみ高さ)。地下鉄への乗入れに対応したストレート車体で、前面に貫通扉を備える。丸みを帯びた先頭形状とすることで、やわらかいイメージの先進的なデザインを表現した。
外観カラーは西武グループのコーポレートカラーをグラデーションで表現し、沿線の風景や自然を感じさせる「山の緑と空の青」をイメージした。車外から車内設備の位置がわかりやすいピクトグラムを組み合わせることで、機能的かつリズムを与えるデザインとなっている。「パートナーゾーン」(10号車)の窓は従来より大きく、窓周りのカラーも異なり、外観における特徴に。2016年度製作導入編成は西武鉄道初のロング・クロスシート転換車両となるため、車体前面・側面に「LONG / CROSS」の標記も加えられた。
車内の座席は連結部付近を除き、ロングシート・クロスシートに転換可能。クロスシートは足踏みペダルで手動転換できるため、向かい合わせにして4人席として使用することもできる。クロスシート2座席につき1カ所ずつ電源コンセントを配置したほか、連結部付近のロングシートも肘掛の下に電源コンセントを配置した。シートの柄は日本人になじみのある桜がモチーフ。透明ガラスを用いた袖仕切りや貫通扉にもこの柄をあしらい、親しみのある空間を演出している。
「S-TRAIN」で着席サービスを行う際、10両合計の座席定員は440名(クロスシート344席・ロングシート96席)。「パートナーゾーン」を設置した10号車は定員30名、1号車は定員38名、中間車の2~9号車は定員42~48名となっている。通常時はロングシートで使用され、立席も含めた定員は10両合計で1,298名。ドア間の座席はおもに6人掛けとなる。吊り革は優先席を除き、座席に合わせた青系の配色となった。
2016年度製作導入編成では、中吊り広告の設定をなくし、代わって広告用デジタルサイネージ「Smile ビジョン」を設置したことも特徴となっている。ドア間の座席の上部に17インチディスプレイを横に2面並べ、クロスシートでも見やすい位置で広告やニュース・天気予報などの情報を提供する予定。内覧会では2017年度の広告商品設定として、広告貸切列車「Smile JACK!」として販売を行うことも明らかにされた。ドア上に設置された情報表示装置の左画面も「Smile ビジョン」となり、右画面では行先・停車駅・駅設備案内・ドア開方向・運行情報などが表示される。
10号車(西武線上り列車の先頭車)に設置された「パートナーゾーン」では、大人も子供も安心して車窓を楽しめるように、大型化された窓に角丸四角形の手すりを配置した。その横に腰当も設置している。中央部には軽く腰掛けられる簡易座席を置き、その横に車いす固定設備も用意。「パートナーゾーン」を通じて、子供たちや車いす・ベビーカー利用者など幅広い世代に電車に乗る楽しみを提供するとしている。
車内においてはその他、各車両に空気清浄器(プラズマクラスター)を設置し、「SEIBU FREE Wi-Fi」のアクセスポイントも搭載する。「S-TRAIN」では西武秩父~元町・中華街間をはじめとする長距離区間の運行も予定されることから、4号車にバリアフリー対応トイレを設置(おむつ交換シートも用意)した。このトイレに関して、「10両編成で1カ所は少ないイメージがあるかと思いますが、通勤車両という基本的な使い方も考慮した結果、この車両では1カ所ということになりました」と山下氏は説明していた。
40000系の主要諸元の中で、使用区間について「山口線を除く全線(東京地下鉄有楽町線・副都心線、東急東横線、横浜高速みなとみらい線含む)」と紹介されている。設計最高運転速度は120km/h、加速度は3.3km/h/s、減速度は常用ブレーキ3.5km/h/s、非常ブレーキ4.5km/h/s。列車情報装置S-TIMはATO(自動列車運転装置)機能を備え、加速走行やブレーキトルクを編成一括管理制御する「列車の統合制御」を行うという。運転台の表示パネルは直通運転に対応し、走行する路線に合わせて情報が自動で切り替わる。
内覧会では、運転台の表示パネルのうち1カ所に「有料種別設定」とあり、土休日の「S-TRAIN」運行区間である西武秩父~元町・中華街間、平日の「S-TRAIN」運行区間を含む西武秩父~豊洲間に加え、西武球場前~元町・中華街間、西武球場前~豊洲間、西武新宿~拝島間の表示もあった。なお、池袋線系統(西武有楽町線・池袋線・西武秩父線など)だけでなく新宿線系統(新宿線・拝島線など)でも「S-TRAIN」のような有料座席指定列車を導入する可能性があるか、西武鉄道に問い合わせたところ、「新宿線・拝島線で40000系を活用した有料列車の運行は予定しておりません」とのことだった。
西武鉄道会長の後藤高志氏「着座式の指定列車は時代の要請に沿ったもの」
今回の内覧会では、車両公開の後に西武鉄道取締役会長、後藤高志氏が挨拶した。「この40000系はさまざまな新しいアイデアを満載しており、『あれも、これも、かなう。西武鉄道』のコーポレートメッセージを体現した新型車両です。"最も進化した通勤車両"と自負しています。3月25日から、土日休日は西武秩父から横浜・みなとみらいまで、平日は所沢から豊洲まで直通運転を行う『S-TRAIN』として運行されます」と語った。
関東エリアでは、今後も「S-TRAIN」のような着席サービスを提供する有料列車の導入が続く。「いまは通勤電車の快適性が強く求められており、座りながら通勤できる着座式の指定列車は時代の要請に沿ったものと考えています。これに徹底的にこだわることによって、西武鉄道沿線のお客様へ、さらに快適な通勤ライフを実現できると思います」と後藤氏。挨拶の中で「2018年度には四半世紀ぶりとなる新型特急車両も導入します。西武鉄道は次の100年に向け、スピード感をもって走り始めています」とも述べた。