VRアーティスト、せきぐちあいみ氏の個展「Daydream Reality」が、東京・秋葉原で開催された。会場はドスパラ秋葉原本店の5階。通常はドスパラで販売しているVR関連デバイスやPCを体験できるバーチャルリアリティ体験施設「ドスパラVRパラダイス」として運営されている場所だ。
せきぐちあいみ氏はタレント活動に加え、YouTuberとして3Dペンアート動画(3Doodler公認アーティスト)などを動画投稿しているVRアーティストとしても活躍中。VRアートを制作する際にはHTCの「VIVE」を使用し、VIVE専用アプリ「Tilt Brush」でVRデバイスで楽しめるアート作品を描いている。
今回開かれるVR個展「Daydream Reality」は、2016年11月にクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で募集開始したプロジェクトが達成し、実現したもの。目標金額500,000円だったところ、最終的には145人が支援し、達成率348%となる1,744,000円が集まった。開催期間は2017年2月11日~13日までの3日間だが、支援者多数のため、来場できるのは支援者のみとなっている。
日本文化をVRで表現
個展「Daydream Reality」では、せきぐちあいみ氏が過去に制作した作品および、個展のために描き下ろした新作をVRヘッドマウントディスプレイで鑑賞できる。
会場は、作品の鑑賞をメインとしたコーナーと、作品の世界に入り込める体験型コーナーの2つに分かれている。鑑賞コーナーでは、「風神雷神」や「地獄」など、日本の文化をテーマにした6作品を360度で鑑賞が可能。使用デバイスは一体型VRヘッドマウントディスプレイ「IDEALENS K2」(Idealens Technology製)で、CPUやOS、バッテリを内蔵するためスマホやケーブルを装着する必要がなく、単体で手軽にコンテンツを楽しめるのが特徴だ。
描かれたイラストの中を歩く
会場内に3カ所設けられた体験型コーナーでは、HTCの「VIVE」で4種類のコンテンツを視聴可能。ここで体験できるコンテンツは「TOKOYO」「NEBUTA」「illumination」「UKIYO」の4作品。いずれも広い空間を描き切った大作だ。一人あたりの体験時間は約30分~40分と、作品に没頭するのに十分な長さとなっている。
VR体験がもっと多くの人に広まって欲しい
せきぐちあいみ氏は、「仮想空間に立体的に別世界を作るVRアートの面白さを伝えたい」という希望から、今回のVR個展をクラウドファンディングで企画した。もともとイラストや美術分野の出身というわけではなく、YouTuberの活動からVRで絵が描ける取材をしたことがきっかけで、VRの面白さに目覚めたという。
自宅にはHTV VIVEに加えOculus RiftやGear VRなど、スマートフォン装着型も含め8つのVRヘッドマウントディスプレイを所持。コンテンツの制作にかかる時間は、1作品あたり15時間ほど。完成した作品には「こうすればよかった」という悔いも残ることもあるが、その気持ちを残しつつも他人に作品を披露することが大事だと考えているという。
ナカバヤシ製の3Dアートペンで制作したお城。制作には約20時間ほどかかったという |
VRアートとして制作したものを、3Dプリンタで出力できないかと試したアイテムのひとつ。立体(四角形)を組み合わせたピアス |
個展の開催が実現し、「自分が妄想した仮想現実の世界に、自分以外の人が入ってくることが嬉しい。幸福を感じる」と語るせきぐちあいみ氏。今後は食べられるVRアートや触れるVRアートなど、、五感と連動するVRアート作品も展示したいという。今回の個展では、作品と紐付けているわけではないが、会場内にアロマディフューザーが用意され、初日の11日は「ゆず」の香りを漂わせていた。
「(作品では)現実ではあり得ない夢のような空間や、地獄のようなひどい空間を作り上げた。仮想空間の中で刺激を受けたことで、現実世界へ戻った後、何か感じるところがあると嬉しい。体験した人の新たな変化につながっていければ」(せきぐちあいみ氏)。
コンテンツを体験してみたところ、どの作品でも空間の果てを感じさせない構造で、別世界にいるように感じられた。特に浮世絵をテーマにした「UKIYO」は、額縁で飾られた一枚の絵の中に入り込むことができる。「奥行きを2次元で表現する日本画とVRは非常に相性が良い」とせきぐちあいみ氏が語るとおり、遠くから見ると普通の一枚の絵なのだが、実際に絵の中へ動いてみると、波の合間に仕掛けがしてあったり、波しぶきが細かい飛沫まで描かれていたりと、VRならではの体験が楽しめた。
また、会場入口に展示されていたメイキング映像も印象的だった。何もない場所からコントローラで作品が描き出されていく様子はまるでダンスを踊っているようでもあり、描いている最中の本人の楽しさや高揚感が伝わってくるような作品だった。今後ライブパフォーマンスを主体としたイベントの開催にも期待したい。