「今月は買い物をしすぎてしまって、家賃が払えないかもしれない」。一人暮らしをしている社会人や学生の方のなかには、そんな状況に陥ったことがある方もいるのではないでしょうか。実際、家賃を滞納してしまったら、即退去しなければならないのでしょうか。
もし家賃を滞納したら、実際にはどうなるの?
家賃を数日間滞納してしまったとしても、「うっかりしていて支払いを忘れていた」という方も多いため、まず家主か管理会社から電話で支払いについての確認の連絡があることが多いようです。ただ、「少しぐらい支払いが遅れてもよいだろう」と考え、毎月のように滞納が続くと、保証人や勤務先に連絡が行って、家庭生活やビジネスにも支障が生じる場合があります。ただ実際に、退去にしなければならない状態に至るまでには、いくつかのプロセスを経ることが多いです。一般的な家賃催促の流れをご紹介しましょう。
一般的な家賃催促の流れ1、家主か管理会社から電話で催促多くの方が家賃は「振り込み」もしくは、「口座引き落とし」にしていると思います。期日までに家賃の支払いができなかった場合、まずは家主か管理会社から支払い忘れの可能性を考慮して、支払いの確認をする電話などの連絡があります。口座残高が少なく家賃が引き落とされなかった等であれば、すぐに対応しましょう。
何度か家賃の支払いが遅れているようならば、家主や管理会社から電話で面談の申し入れがあり、支払い確約書(期日までに家賃を支払うと確約する証明書)にサインを求められる場合もあります。
2、内容証明郵便で督促の文書が届く電話連絡後も支払いがないようであれば、家主か管理会社から未払い家賃の支払い督促と支払いがない場合の賃貸契約解除の通知が内容証明郵便で届きます。
具体的には「滞納賃料を7日に以内に支払ってください。7日以内に支払いがない場合は、賃貸契約を解除します」等の文面です。内容証明郵便というのは、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、証明する郵便のことです。つまり、「家主や管理会社が督促状を出した」という事実を証明するものです。
のちに裁判になったときにも、督促の有無、内容等について争いが生じることを防ぎたいという考えから、多くの家主や管理会社が内容証明郵便を利用します。1週間程度の滞納であれば普通郵便や配達証明郵便の場合もありますが、内容証明郵便で督促状が届いた場合は、危機感を持って対応すべきでしょう。
3、連帯保証人へ連絡2でも家賃の支払いが行われない場合は、同様の内容の催促状が保証人にも届くことになります。
4、明け渡し訴訟家賃の支払い督促と賃貸契約解除の通知を送付しても、期間内に支払いがない場合は、訴訟をおこされる可能性が高くなります。
5、強制退去裁判所の判決に基づき、賃借人等が賃料を支払い、退去・撤去しない場合は、強制執行手続きを進められることになります。
家賃保証会社を利用している場合は取り立てが厳しくなりがち近年、アパート、マンションなどの賃貸借契約を結ぶ際、親やきょうだいに連帯保証人になってもらうのではなく、家賃保証会社を利用している方もいると思います。そうした場合、家賃を滞納した場合は、家賃保証会社から家賃催促の連絡がきます。貸主や管理会社による支払い催促・督促と比べ、家賃保証会社のほうが取り立ては、一般的に厳しいようです。
なぜなら、借主が滞納すると、保証会社は家賃滞納時の代位弁済(立替払い)をせねばならず、その回収が遅れれば、会社の業績に直結するからです。なかには強引な取り立て、いわゆる「追い出し」行為をする悪質な企業が増え、少し前に社会問題となりました。最近も下記のような事件がおきました。
「家賃滞納を理由に無断でアパートに新たな鍵を取り付けて追い出されたとして、東京都の40代男性が山口県岩国市の家賃保証会社『ラインファクトリー』に330万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(戸室壮太郎裁判官)は13日、同社に対して55万円の支払いを命じた。同社は男性の家財も処分しており、戸室裁判官は「窃盗罪や器物損壊罪にあたる不法行為で、男性の精神的苦痛は重大だ」と指摘した。損害賠償は処分された家財の損害を30万円と算定し、ホームレス状態を強いられた慰謝料を20万円などとした。」(日本経済新聞2016年4月13日)
国土交通省の調査でも、家賃の支払いが遅れたときの強硬な催促のほか、勝手に鍵を交換して部屋に入れなくされた、違約金として高額のお金を請求された、無断で部屋のなかに入って持ち物を処分された、強制的に退去させられたなどの相談が多数寄せられていることがわかりました。いくら家賃を滞納していたとしても、何の予告もなしにこうした鍵交換や強制退去させることは法律違反と言えそうです。
家賃支払いに関する規約を読み直そうこれまでご紹介してきたように、家賃を数日〜1カ月程度滞納した場合でも、予告もなしに「強制退去」を求められることはないようです。明け渡す必要があるかどうかは、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたと言える程度の不払いがあったかどうかによるとされているからです。ただ、一般的に3か月程度以上の滞納があれば、信頼関係が破壊されたと認められます。
ただこれは目安にすぎず、ご自身の賃貸契約時に交わした規約や契約書をよく読み返してみる必要があります。契約書には、「○カ月間、賃料の支払いに滞納があった場合は即時契約解除」、「賃料に不履行があった場合には即時契約解除」という表記がある場合があるはずです。また、これから賃貸物件を借りるという場合は、家賃支払いに関する規約にしっかりと目を通しておくことが重要になります。通常であれば「貸主等が無理やり退去させられるのか」については、訴訟手続きが必要となるため「NO」と言えますが、「無催告解除の特約」がある場合は信頼関係が破壊されていると言えない場合は無催告解除できないというのが判例であるものの、無催告解除の特約が無効というわけではないので注意が必要です。
どうしても……という場合は、滞納前に管理会社等に相談を多くの家主は、たとえ家賃滞納があったとしても円満解決を望んでいます。明け渡しのための裁判は手間と時間、そしてなにより多額の費用がかかり、家主にとっても、入居者にとっても良いことはないからです。ですから、もし滞納してしまったとしたら、できるだけ早めに家賃を支払う努力をしましょう。
もし、今月は家賃の支払いが遅れそうという場合は、まずは管理会社等に電話で相談しておくとよいでしょう。また、うっかりしていて、銀行口座の残金が少なく、家賃が引き落としできなかった場合は、すぐに連絡して家賃を振り込むようにしましょう。
また、転職したから給与がまだ支払われない、ケガをして病院に入院したのですぐ振り込みに行けないといった、一時的な理由がある場合も、理由を伝え「期日までに家賃が払えないため、○日までに入金します」と、できるだけ早く家主か管理会社に連絡をしましょう。放っておくと、悪意があるととられ、早い段階で法的措置に踏み切られる可能性もあります。
また、家賃保証会社を利用している場合、家賃滞納の過去があると同じ家賃保証会社を利用できない場合があります。「全国賃貸保証業協会」(LICC)に所属している一部の家賃保証会社では、信用情報の共有を行っています。つまり、代位弁済の残高があると他の保証会社での審査に落ちてしまう可能性があります。
これから部屋を探すという方は、これらのことを念頭に置き、きちんと収支を計算のうえ、余裕を持って家賃が支払えるような物件探しをしたいですね。
※上記の流れはあくまで一般的なもののため、管理会社やオーナーさんによって対応はまちまちですので、ご了承ください。
《執筆》ペンダコ
《監修》千歳紘史(ちとせこうし)
日本最大級の不動産ポータルサイトのウェブサービス開発を担当。その後独立し、不動産に関するウェブマーケティングを支援する株式会社理想ラボを設立。また、住生活に関する様々な事業を展開するiYell株式会社の執行役員でもあり、お部屋探しや引越しなど「住まい」に関わる数々の知識を活かして、同社が運営する住宅情報マガジン「すみかる」の編集長も務める。
株式会社理想ラボ http://riso-labo.com/
iYell株式会社 https://iyell.co.jp/
住宅情報マガジン“すみかる” http://sumikaru.iyell.jp/
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