人気アニメ「ルパン三世」シリーズの中でも、ハードボイルドな展開とスリリングなアクション描写で異彩を放った『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(2014年)から3年。今回は剣の達人・石川五ェ門の若かりしころを描いた『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』が2月4日から公開される。

本作でメガホンを取るのは、『次元大介の墓標』に引き続き小池健監督。手描きを重視した描写による迫力に満ちた作風で知られ、『REDLINE』(2010年)など数々のアニメ作品を世に送り出してきた。今作では、一味になる前夜のルパンたちの微妙な関係性はもちろんのこと、テレビシリーズでは見ることができない荒々しさ・激しさをもった五ェ門が、"バミューダの亡霊"と呼ばれる強敵・ホークと繰り広げる死闘が最大の見どころに。接近戦ならではの緊張感、そして斬る・斬られる"痛み"の描写の息を呑むようなリアリティは、小池作品の中でさらに鋭さを増している。

小池監督を直撃した今回のインタビューでは、作品成り立ちの経緯からキャラクターの誕生まで、作品の根幹を成すアイデアがいかにして生まれたのかについて質問をぶつけた。話の中では、ボツになったタイトルやカットとなった幻のエンディングなど、作品からははみ出てしまった貴重な要素が明らかにされた。

小池健(こいけたけし)。1968年1月26日生まれ。山形県出身。アニメーター・監督。監督作に『REDLINE』(2010年)、『LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標』(2014年)など。石井克人監督作品『PARTY7』(2000年)、『茶の味』(2004年)のアニメーションパートも手掛けている

――『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』の始動はいつからだったのでしょうか?

前作『次元大介の墓標』が公開されたすぐ後ですね。公開して反響がよかったというのがあり、浄園(祐)プロデューサーの方から「どうですか?」と話をいただきました。僕も興味があったので、是非にということで進めることになりました。

――企画に際して、浄園プロデューサーからはどんなリクエストがあったのでしょう。

「LUPIN THE IIIRD」シリーズは、出会って間もないルパンたちの話です。前作からの時代背景はそのまま、さらにこのシリーズでテーマの一つにしていた「ルパンたちが強敵と対峙する」話であるところは前回から踏襲しています。

――『次元大介の墓標』から今作の公開までに、「ルパン三世」としては2015年10月から2016年3月に新テレビシリーズの放送がありました。こちらは作る上で意識をされましたか?

僕自身は意識していませんでした。テレビシリーズは現代劇なので、時代感が違うという意識があったので。今回は、細かく言うと『次元大介の墓標』から1か月後くらいの時間経過っていう感じですかね。

――今作では構想として、「ここは入れたい」といった最初に浮かんだシーンなどはあったのでしょうか。

五ェ門がメインなので、殺陣シーンをどんなふうに見せるとそこに五ェ門らしさを効果的に入れることができるのか、というところはやってみたかった部分ですね。

――劇中では五ェ門の"己との闘い"も多く描かれています。それほど長尺ではない作品では物語の構成上、敵とのバトルパートとのバランスも難しいのではないかと想像するのですが、あえてここまで描いた意図はあったのでしょうか。

みなさんが知っている五ェ門のイメージは、「剣術に長けていて、運動神経が人並み外れて優れている人」ということだと思います。五ェ門をメインで描くとすると、まずそこははずせません。ではどの部分を成長させると五ェ門のドラマが作りやすいかと考えた時に、やはりメンタル面の成長が一番わかりやすい。そこで、時代的に未熟な若かりし五ェ門を置いて、そこから高みに上っていくという話に組み立てています。

――五ェ門が成長していく姿を描くにあたって、演出面で気をつけたところはありましたか。

前半の五ェ門はまだおごり高く、ニヒルな表情を浮かべたり、直情的に動く面も見られるキャラクターです。鉄竜会とのやり取りでも、会話の中で「自分のほうが上だ」という意識が見えます。ですが、その言い回しや佇まいが五ェ門らしくないとお客さんに受け入れられないかなと思ったので、そのバランスにはかなり注意しながら作りました。

――脚本の高橋悠也さんとは最初どのような話をされていたのでしょうか。

初めに続編を作ろうという話になって、「じゃあ誰を主役にしようか」という流れになりました。前作を見た方からは、前回出ていなかった五ェ門が見たいという反響がありましたし、僕自身五ェ門を作りたいというのがあったので、そこでまず五ェ門をメインにするというのが決まりました。

――「五ェ門メインの作品を作ろう」ではなくて、最初は「続編を作ろう」という話だったんですね。

そうなんです。「シリーズの続編を作ってくれ」という話になって、メインを誰にするかというところから五ェ門に絞り込みました。そこからコンセプトデザイン出しの発注で石井克人さんに「五ェ門を主役に作りたいんだけど、もう一回参加してくれないか」と打診したら、すぐさまメモでホークが五ェ門の刀を手で掴んでいる描写のカットが届いたんです。そのホークをスタジオのみんなも気に入ったため、「ホークによって五ェ門が変えられていく」というアイデアを高橋君に振って、話を組み立ててもらったという流れになります。

――イメージイラストから発想する作り方は珍しい気がするのですが、これはよくある手法なのでしょうか。

よくあるかどうかはわかりませんけど、僕は石井さんとやっていることが多いので、そういう流れが多いですね。

――冒頭のホークの和やかなシーンが逆に不気味に映りますね。

殺し屋のホークというキャラクターをどうやって無敵に見せられるか、そして前回とは違った、今回は穏やかな感じの印象に見えるキャラクターにしたいという狙いがあったので、二面性を出すためにギャップを表現したシーンになりますね。

――劇中では、五ェ門もすごく斬っているけど、彼自身もすごく斬られています。これは紙一重で避けるといった演出方法もあったと思うのですが。

「LUPIN THE IIIRD」シリーズに登場するのは、命のやりとりをしているキャラクターたちです。なので、やはりやられるときはきっちりとやられなきゃいけない。紙一重でかわすというよりも、ちゃんと自分でもダメージを負って、死の恐怖を味わいながら戦うという緊張感を表現したいので、五ェ門自身も体が傷つけられて……というところを描いています。

――殺陣シーンではタイトル通り、"血煙"舞うシーンが見どころになっています。

一回一回に自分の体が斬られていく痛みをどう表現したらいいだろうと思った時に、断面だけ見せるとグロくなってしまうので、もっと幻想的な雰囲気も出したいなという願望もあったんですね。加えてタイトルがうまい具合に"血煙の"というワードがあったので、その雰囲気を画面に落とし込みました。

――ではこれは構想の時点からあったタイトルだったのでしょうか。

決まったのは制作の途中ですね。宣伝部の方と意見を出しあって作っていた部分だったので。実は最初「試し切り」というタイトルだったんですよ。

――最後まで見ていくと、ルパンたちの3人一組ではない、2+1くらいの絶妙な距離感に納得がいく印象を受けました。この現在の関係性という「答え」に向けて作品を作っていくのはオリジナルで作るよりも難しいのではと思うのですが。

難しさもありますけど、「まだ敵か味方かわからない」という初めに作ったスタンスが今回ははっきりしていたので作りにくくはありませんでした。もちろん初めは敵という感じではあるんだけど、ルパンはオールマイティーでありながら、自分はブレーンとして仕事を進めるのが得意というか好きなので、五ェ門を仲間に入れたいと思っているわけですよね。仲間まではいかなくても、一緒に組みたいと思っている。その一筋縄ではいかないんだけど、信頼関係が垣間見えるようなシーンを作ってあげると、ちょっと距離感が縮まったという雰囲気が出るんじゃないかなという部分で、最終的なシーンにつながりました。

――制作の過程で、変更になった要素はありましたでしょうか。

実はカットになった部分があって……。一番最後にホークがアジトに帰っていくシーンがあったんですね。そこは多少今後の伏線、ネタバレになるようなシーンが入っていたので。

――いわゆる"黒幕"の影が少し見えると。

そうですね。もし今後続編がある場合に、現時点では見せるのがまだ早いという意見がありました。自分の中では、ホークのアジトのシーンから始まるので、最後もアジトでおさめたいというような気持ちがあったんですけど、そこは本当に最後まで悩んだところですね。

『LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門』は、2月4日より4週間限定で新宿バルト9ほかにて全国公開される。

原作:モンキー・パンチ (c)TMS