同氏は、導入を検討する企業が考慮すべきポイントをいくつか説明した。
同氏がまず挙げたのが「目的の明確化」だ。業務コストの削減、ガバナンス向上、生産性向上など、対応するソリューションを導入する目的をはっきりさせ、その上で効果の洗い出しが必要になるという。
「要件が緩和されたからシステムを導入しようという安易な考えではなく、経営上の課題は何かを洗い出すことが重要です。ここが曖昧だとシステム導入による効果があったのか、なかったのかがわからないという結果になると思います」(西尾氏)
目的を明確化した上で次に行うのは、対象をどの書類にするのかを決め、業務フローを決めることだという。検討に時間がかかるのは、契約書、領収書などの重要度が高い書類で、「本当に紙をなくしても大丈夫か?」などの検討も必要だという。
「単にスキャニングしてタイムスタンプを押すというだけでなく、事業部門がそれを行うのか、会計部門の人が行うのかによって業務フローは異なってきます。実運用を考え、どういうタイミングで誰が行うのがもっともスムーズにいくのかを検討する必要があります。この点は電子帳簿保存法に限らず、業務をシステム化する際の共通の検討事項だと思います」(西尾氏)
業務フローを決めたら、体制や規則の変更も考慮すべきだという。
「3日以内にタイムスタンプを押すとなれば、体制変更しないと運用が回らないですし、業務部門が一括で1カ月+1週間以内にタイムスタンプを押すにしても、社内規則で2カ月以内に処理を行うと決めていた場合は、社内規則も変更する必要があります。また、社内規則を1カ月以内に行うと変更したとしても、上長の承認も必要になるので、決済者が出張等で不在の場合は誰が代理で行うのかなど、体制も見直さなければなりません」(西尾氏)
その上で同氏は、領収書等の証憑電子化をシステム化する際の4つの運用パターンを例示した。
パターン①は、すべての処理をこれまで通り紙で行い、処理が完了した時点で、本社経理部門等がスキャニングとタイムスタンプ付与を行い、保存する方法だ。処理フロー自体の改善はないが、電子化することで検索や参照の改善は行われるというメリットがあるという。
パターン②は、本社経理部門が会計システムに入力する際にスキャニングとタイムスタンプ付与を行う方法で、パターン①に比べ、承認フローが改善されるという違いがある。また、パターン①とパターン②については、本社経理部門等が集中的にスキャニングとタイムスタンプ付与を行うので、現場への影響が極めて少ないというメリットがあるという。
パターン③は各拠点にいる経理部門の人がスキャニングとタイムスタンプ付与を行う方法で、本社経理は、スキャンされたデジタルデータをもとに会計システムに入力する。
そしてパターン④は、各拠点の経理部門の人がスキャニングとタイムスタンプ付与を行った上で、さらに会計システムの入力も行う方法だ。これは本社経理の負担は少ないが、各拠点の経理担当の負担が大きくなるというデメリットがある。また、パターン③やパターン④は定期検査のタイミングで原本を本社に送付すればよいので、配送が数カ月単位でもよいというメリットがある。
いずれのパターンも、平成28年度改正の目玉であるスマートフォンやデジカメでの入力は未だ例示されていない。この点について西尾氏は、「平成28年度の改正によって、領収書がターゲットになり、出先で経費精算というケースの検討が増えると思います。この点はほとんどの企業がメリットを享受できる点だと思いますが、3日以内にタイムスタンプを付与するという点が課題になると思います。いままで行っていた業務のスタイルを変えるのは大変で、スマートフォンやデジカメ入力をしようとすると現場に十分説得する必要があり、かなりハードルが高くなります。そのため、当面はスキャナ保存を中心に進むのではないかと思います。スマートフォンでの入力は話題性はありますが、ビジネス的には運用も考え、経費精算システムとの連携も含め、どのように対応すべきかを見極めていきたいと思います。一方、電子帳簿保存法の申請をせず、電子データの保存を行いながら紙も保存しておくという方法を採り、効果や課題を検証していく方法もあります。これを採用する企業も多く、それでも検索や参照のメリットを享受できます。企業の状況や目的に合わせて、最適な方法を選択することがポイントになると思います」と語った。
なお、キヤノンマーケティングジャパンは昨年6月、平成28年度のスキャナ保存の要件緩和に対応し、スキャン、登録、検索、保管までのプロセスを最適化して紙文書を電子化する電子ファイリングシステム「Report Shelter」に、タイムスタンプ付与などスキャナ保存のシステム要件に対応する機能を実装した「e文書オプション」の販売を開始している。