オシャレな街歩きスポットとして名高い自由が丘には、目移りするほどに楽しそうなお店が並んでいる。しかしその中で、あえて"歩きつつ食べる食べ歩き"にフォーカスして散策してみた。
自由が丘は、渋谷駅から東急東横線でわずか10分ほどに位置する街。人気がある街とあって休日はたくさんの人でにぎわうが、どことなく散策的でゆったりしたムードが漂っている。街は大きく南口側と正面口側に分かれ、南口側は桜並木の街路があるパリ的な雰囲気、そして正面口側は雑貨や家具、ファッション、スイーツなどのお店が通りという通りに隙間なく詰め込まれている。
自由が丘散策の醍醐味は、そのようなお店を巡ったり、カフェで異国的な時間を楽しんだりすることだろう。しかし今回は、食べ歩きレポートである。ということであくまで食べ歩きに徹するが、通常のぶらぶら歩きの合間にちょこっとつまんでみたいグルメを探してみた。
南口・街路樹の下でパリ的な時間を
自由が丘駅の近辺も、一応、商店街という位置付けである。しかも、日本最大級の組織として活動をしていると言うが、「この商店街は……」などと語っても、誰もそれが自由が丘の話であるとは思えないだろう。それほどにここは、いわゆる商店街とは別物のイメージがある。
しかし南口で、商店街っぽい名前の通りを発見した。「九品仏川(くほんぶつがわ)緑道」である。別名"グリーンストリート"とも呼ばれているのだが、ここはあえて九品仏川緑道と言いたい。
石畳の並木道にベンチが並び、花屋や壁画などに彩られたこの通りは、フランス・パリを彷彿とさせる。だがどことなく、日本的な雰囲気も感じるのだ。それは「パリになりたくてなれなかった」というより、パリと日本をミックスしたような感じだろうか。と言っても、筆者はパリに行ったことがないので、あくまでイメージである。
春になると、この通りは桜の名所になるという。取材に行った1月であってもベンチで読書をする人もいるほどであるから、春や新緑の季節はどんなにくつろぎの空間になるだろうか。この通りで最初の食べ歩きをしたいと思い、探してみた。
……しかしここには、移動しそうでしなそうなバン型のクレープ屋が2軒ほどあるだけだった。クレープでももちろん構わないものの、駅前の「マリクレール通り」に戻ってみると、いくつか面白そうなお店を見つけた。
ぜいたくなさっくりカレーパン
カレーパンは、パン屋の定番である。しかし、カレー屋が作ったカレーパンというのはなかなか見かけないかもしれない。「天馬カレー&カレーパン」では、フットボール型のプクッとしたカレーパンを店頭で販売している。一番人気はビーフカレーパン(250円)とのこと。さっくり揚げたパンに、たっぷりとカレーが入っている。
ビーフの塊はないものの、ビーフ特有のお肉っぽさというか、赤身の柔らかな繊維が感じられる。お店には、常連らしい近所の子どもたちもいた。昔のコロッケ的な感覚なのだろうが、このカレーパンはチビッコのおやつにはぜいたく過ぎのようにも思えた。そのあたり、さすが自由が丘ブランドである。
チョコがとろける絶品クッキー
自由が丘らしくないお店を探そうかと思ったものの、やはりスイーツのお店は押さえておきたい。行列ができているなと思ったら、そこはイギリス生まれのクッキー専門店「Ben's Cookies(ベンズクッキー)」だった。
しかも、1号店とのこと。どんどん焼けて並べられていく様子は見ていても面白い。クッキーの食感はソフトで、混ぜ込んだチョコレートは今にもとろけそうだ。14~15時は準備時間となるため注意しよう。
正面口側は街に迷う感覚で散策を
正面口側は、一見すると何の変哲もない普通の駅前である。ビルが並び、雑多な雰囲気だ。いわゆるオシャレなイメージとは程遠い。しかし、ほんの少し奥へと進んで行けば、通りという通りに何かしら面白いお店を見つけられる。まるでセンスのいい学園祭の街バージョンのような親しみやすさで、テンションも上がってくる。
正面口を出て斜め右方向の一帯がメインの密集地らしい。通りは碁盤の目状になっているため、分かりやすい。イタリア・ベネチアを思わせる、水路のある人気スポット「La Vita(ラ・ヴィータ)」もこの奥にあるが、目的地を決めずとも、街に迷い込んでみるだけで1日過ごせるだろう。
もしも「今日はスイーツ巡りをしたい! 」などの目的があるのであれば、自由が丘駅の正面口から約70m進んだところにある、インフォメーションセンター(目黒区自由が丘1-29-16)に立ち寄って、項目ごとのマップ(1枚20円)を手に入れよう。
ポップコーン感覚のミニマドレーヌ
食べ歩きで必須なのは、食べやすさだろう。「MADELEINE LAPIN(マドレーヌラパン)で、ミニサイズのマドレーヌを見つけた。60gで480円、90gで600円というグラム売りで、小箱に入れてくれる。
小さくてもサクサクフワフワで、意外と食べごたえがある。卵の風味の残るカスタードとバニラの香りがして本格的だ。通常のマドレーヌも手のひらサイズであるのにひとつひとつ飾り付けられていてかわいらしい。
そのほか、マドレーヌとドリンクが付いたデリプレートなどもある。テイクアウトのドリンクは、カウンターやテラスでいただくこともできる。冬でも風のない日なら、テラスで十分くつろげるだろう。
あえて自由が丘で日本茶を
自由が丘というと横文字のイメージが強いが、道すがら、極太の筆で書かれたような「ジャパニィズティー」という文字を発見した。鹿児島に本店を持つ「すすむ屋茶店」である。
お茶屋といっても洗練された雰囲気で、清楚という言葉がよく似合う。茶葉やお茶グッズだけでなく、かき氷やぜんざいなど、峠の茶屋のようなものも販売している。そろそろさっぱりとしたものが欲しいところだったため、「本日の日本茶」(432円)を注文した。
ティーバッグにお湯をそそぐだけでなく、急須で1杯ずつ丁寧に入れてくれる。その急須も朱泥(しゅでい)で作られている逸品である。何度かに渡ってカップに注ぎ入れる、そのしぐさも面白い。この日のお茶は「自由が丘ブレンド」。濃いグリーンが鮮やかで、ほんのり素材の甘みを感じる奥深い味わいである。
インフォメーションセンターで「雑貨屋や飲食店を巡る人が多いですか」と聞いたところ、「そうですね~、あとは街をブラブラ歩くとか」という返答だった。確かに、何か明確に目的を持ってうろつくというよりも、いいもの(モノだけでなくお店も)を見つけられたらいいな、といった緩さで歩くのが自由が丘的散策なのかもしれない。街にはベンチも豊富にある。街歩きだけでなく、一息つきつつの食べ歩きを楽しんでみてはいかがだろうか。
※価格は全て税込
筆者プロフィール: 木口 マリ
執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。