越後最北の城下町・新潟県村上市。城跡には石垣などの遺構が残されているだけだが、城下町には今もなお、武家屋敷に商家にと、曲がりくねった小路には在りし日の面影が残されている。そんな村上と切っても切れない関係にあるのが鮭だ。そしてその鮭、ただの鮭にはあらじ、なのである。
「きらきらうえつ号」の旅もよし
東京駅から新潟駅までは、上越新幹線1本でびゅん。1月のこの季節ともなれば、白銀の世界に「はるばる来たな」という気持ちにさせられるが、そこから、ジョイフルトレイン「きらきらうえつ号」で約50分電車旅を楽しんだら村上駅に到着だ。
きらきらうえつ号は、JR羽越線の新潟駅=酒田駅を定期運行しており、日本海や沿線の風景を見ながら、沿線の地酒や沿線のうまさがぎっしり詰まった「きらきら弁当」(税込1,080円)などの食を楽しめる特別列車。天気が良ければ、日本海に沈む夕日が眺められることもあると言う。
車内には大きな窓のきらきらラウンジが設置されており、沿線の観光スポットや物産を紹介するきらきらプロジェクションが備わったきらきら情報コーナーも設けられている。2017年1月現在、金・土日祝日に1本往復運行している。
村上駅に降り立つと、「歓迎 瀬波温泉 村上駅」と記された建物が目に飛び込んでくる。開湯100年を超える温泉街で、湯量は1,800L/分、泉質はナトリウム-塩化物泉。それぞれの旅館・ホテルは村上駅から車で10分程度でアクセスでき、日本海を望む絶景温泉が楽しめる。日帰り入浴を実施しているところもあり、温泉街には無料で利用できる足湯も4カ所設けられている。新潟の旅の疲れはやはり、新潟の湯に癒やしていただこう。
鮭とともに生き、鮭を慈しむ
冒頭の通り、そんな村上は鮭とも切っても切れない関係だ。実は村上は、鮭の自然ふ化増殖に世界で初めて成功した地とされている。江戸時代、村上藩の武士・青砥武平治(1713~1786年)が人工河川「種川」を完成させ、そこで育った鮭たちが村上藩の財政を潤したという。鮭のふ化場や鮭の生態観測などを知りたい人は、村上市内にある「イヤボヤ会館」を訪れてみるといいだろう。
鮭に生かされて、鮭とともに生き、鮭を慈しむ。そんな心は今の村上に伝わっている。村上には、風土を生かした独特な製法「塩引き鮭」と、鮭を隅から隅まで味わうことで生み出された百種類以上の料理法があるという。この塩引き鮭には、オスの鮭だけが使われる。内臓を取り除いて塩漬けし、塩抜きをした後(塩抜きをしないところもある)、逆さづりにして干すことでアミノ酸発酵が進んで熟成させる。そして、独特の旨味が詰まった塩引き鮭が完成する。
毎年12月には、村上の城下町に「越後村上鮭塩引き街道」が登場する。城下町に連なる各家の軒下に、塩引き鮭が下げられるのだが、これがそれぞれの家の風合いと相まって、風情ある景色となる。また、城下町内にて墨痕鮮やかに「鮭」の暖簾を下げた「きっかわ」では、運が良ければ11月、実際に塩引き鮭の作業をしている様子を無料で見学できるという。いつ見られるかはその日の作業次第なのだが、築140年の町屋の天井に鮭がつり下げられている様子は圧巻だ。
筆者が訪れたのは1月であったが、特別に鮭を塩引きする様子を見学させてもらった。その日は"最強寒波"が新潟を襲った日であったため、新潟の人にとっても特別に寒い日となったはずだ。しかし、この道20年という塩引き鮭の職人は、躊躇(ちゅうちょ)することなく鮭と向き合っていた。
側にはこんもりと盛られた塩の山があり、「どのくらい塩を刷り込むんでしょうか」と質問したところ、「それはもう、鮭に聞いてください」とのこと。鮭一匹一匹に個性があるようで、実際に触れることで塩の量を調整するという。
そして、よく見ると内臓を取り除いているはずなのに、おなかを開ききっていない。これは「止め腹」という切り方で、おなかを全て切る「庄内式」(山形県遊佐町枡川産)とは異なる。全て切った方が作業効率はいいのだが、そこは武士の名残もあってか"切腹"を避けたということもあるそうだ。また、「目をくり抜くこともできません」と言う言葉にも、いかに鮭を大事に扱っているかが伝わる。
ちなみに、きっかわの作業場はびっくりするほど寒い。この日は窓が閉まっていたが、それは寒波による雪のためだったらしく、通常であれば鮭の乾燥のために窓は開け放たれているという。「この家で一番えらいのは鮭です。人間は上着を羽織っていればいいのです」という習わしが、ここ、きっかわにあるらしい。食文化という言葉に収まりきらない鮭への愛情が伝わってくる。なお、店舗奥に広がる作業場と住居スペースは一年を通して見学できるようになっている。
鮭を丸ごと食べるのが村上流
そんな鮭の料理方法が、村上には百種類以上もあるという。鮭のムニエルに、ハラコの醤油漬けはそのままご飯にのせて、白子は鍋だろうか……などと考えていたが、料理方法のみならず、皮、背腸(せわた)、中骨、心臓、胃袋、肝臓、エラ、白子、氷頭(ひず: 頭の軟骨)などと、本当に鮭を余すことなく使い切るそうだ。
村上市内にある割烹「千渡里(ちどり)」にて、その一部をいただいた。1年かけてじっくり乾燥発酵させた塩引き鮭は、日本酒をさっとかけて「酒びたし」に。日本酒の芳醇な香りと甘さが鮭の旨味によく合う。そして、その側には鮭の心臓(どんびこ)が。ここでは煮つけにされていたが、一匹からひとつしかとれない心臓がふたつも並んでいた。貴重な心臓を気軽に食べられるのは、鮭の街・村上だからできることだろう。ハラコはしっかりとした弾力があり、氷頭はコリコリとした食感が楽しい。
村上は鮭の他、黒毛和牛の「村上牛」というブランドも抱えている。日本屈指の酒どころ・新潟には、酒の相棒に事欠かなそうだ。
取材協力: きらきら羽越観光圏