2016年末、業界を驚かすカプセルホテルが横浜駅至近の立地にグランドオープンした。この「グランパーク・イン横浜」は、カプセルホテルの"進化系"として人気を博してきた、「グランパーク・イン北千住」の系列店となる。北千住店は男性専用だが、横浜店では女性専用エリアを設けたことも特徴だ。
2017年はカプセルホテルに注目
例年、年初にホテル評論家としてオファーを受けるテーマが「注目のホテル」。今年で言えば"2017年注目のホテル"ということになる。すなわち、注目の新規開業やリニューアルホテルを紹介せよというオファーである。2017年はズバリ「カプセルホテル」だ。
2016年夏あたりから多彩なスタイルやコンセプトの施設が増加、2017年は新規開業や業態の垣根を越えた施設も増えることが見込まれており、今の宿泊業界では最も活気ある業態のひとつと言える。
数千冊の漫画の側にレストラン
早速、グランパーク・イン横浜を紹介しよう。エントランスから入ってまず驚くのが「ロビー&ライブラリー」。数千冊の漫画をそろえたライブラリーとマッサージチェアがあるリラクゼーションエリアだ。ロビー&ライブラリーに面してレストラン「The Book Cafe」がある。朝はバイキングスタイルの朝食、ランチや夕食なども館内で気軽に楽しめる。
手段としての食堂的スタイルも特徴と言える旧態型施設と比較し、供食スタイルは進化系カプセルホテルの特徴である。グランパーク・イン横浜では、串カツにお好み焼きからおでんと、インバウンドのゲストも喜びそうな多彩なメニューがオシャレに楽しめる。読書しながら食事もできるレストランは、ひとり利用でもうれしいもの。
女性が利用したくなるサービスも
グランパーク・イン横浜は、女性も利用できるカプセルホテルと前述したが、個室を持たない宿泊施設に女性専用エリアを設けることは、清潔感はもちろんデザイン性の高さなども必須だ。導線などを含めハードルは高く、おのずと気遣いあふれる施設になる。
カプセルホテルに限らずホテルは女性目線を大切にするが、女性に支持されるホテルは男性にも快適。グランパーク・イン横浜は、スタイリッシュさを堅持しつつもポップな色遣いや優しいデザインなど、女性はもとよりインバウンド客の利便性をも考慮されている。導線もよく考えられており、使うほどに納得しそうなハイセンスな施設と言えるだろう。貸し出し用のプラネタリウムもあり、カプセル内が銀河広がる大宇宙に大変身する。
ホスピタリティも秀逸。例えばスリッパ。ビニールスリッパがスタンダードなカプセルホテル業界において、グランパーク・イン横浜ではパイル地の使い捨てスリッパを採用する希少なカプセルホテル。清潔感を気にする女性や外国人客には好評のサービスだ。スリッパはシューズロッカーにセットされているのだがそれだけではない。ゲストの体格に応じてフロントスタッフが瞬時に判断、Lサイズのスリッパも用意し手渡す。
3グレードのカプセルはどれもこだわり空間
気になるカプセルスペースは3スタイル。奥行きあるスタンダードな縦型の形態が「デラックス・キャビン(男性・女性)」。サイズは横105cm×奥行き207cm×高さ104cm。最新型のカプセルを装備した"最新のくつろぎ空間"とも言えるだろう。19インチ液晶テレビ、ヘッドホンを完備、VOD(ビデオ・オン・デマンド)も見放題だ。もちろんWi-Fiも完備、電源コンセントをはじめUSBジャックもあるので、ケーブルだけでスマホ充電も可能。肝心の寝心地は高反発マットレスを採用し快眠を追求する。
ワンランク上の「プレミアム・キャビン(男性・女性)」は、出入りが楽な横型のタイプ。サイズは、横207cm×奥行き105cm×高さ104cm。横型だけに枕から向かって正面の壁面スペースが利用できることで、なんと32インチ液晶テレビを完備。カプセルホテルで32インチのテレビとは驚きだ。同タイプの女性エリアでは、東京西川製のマットレス「AiR」が使用されており快眠への評価は高い。
そして、グランパーク・イン横浜最上級クラスが「シアタープレミアム・キャビン(男性のみ)」だ。横型(サイズ: 横207cm×奥行き105cm×高さ104cm)に、デスクとイスが付いた広々スペースのプライベート空間を確保。一般的なカプセルスペースでは確保不可能なバゲッジエリアとしても利用できる。デスクで仕事や読書など、さまざまな用途に利用できそうだ。一見個室のようでもあるが、あくまでも「簡易宿所」カテゴリー。カーテンで仕切られており鍵はかからない。
大浴場にはサウナも完備
カプセルホテルにとって温浴施設は要であるが、グランパーク・イン横浜にはサウナを設けた大浴場を1階に完備。富士山の壁画が印象的なスペースだ。足を伸ばしてくつろげる広いお風呂はやはりうれしいもの。ジェットバスは温浴効果も抜群だろう。
大浴場は男女入れ替え制。男性の入浴時間は18時~翌朝9時まで、女性の入浴時間は15時~17時半までとなる。女性の入浴時間帯のみ施錠されており鍵はフロントで渡される。ナノケア・スチーマー美顔器や最新型のストレートアイロンまで用意されており、女性目線が強く意識されている。2階にはシャワールームがありこちらは24時間利用可能だ。
個室がなくても選びたいホテルに
カプセルホテルは都市部に集中し低廉な宿泊料金が魅力の業態。一方、進化系と言われる施設の中には、旧態型ビジネスホテルのボトム料金クラスで設定する施設も多い。旧態型とは言え、個室のある施設と個室のないハイセンスでオシャレな施設が、同程度の料金という現象も近年の特徴だ。旧態型のカプセルホテルが低廉な料金で支持されている一方で、バリューを追求する進化系カプセルホテルという二極化が進みつつある。
大都市ではホテルの宿泊料金が高騰して久しく、ある程度清潔感やスタイリッシュさを求めると、手の届かない料金帯になるケースも続出している。このような状況下で進化系カプセルホテルは、気がめいってしまいそうな古いビジネスホテルよりは、個室がなくとも清潔感やスタイリッシュさを求める、という利用者層を確実に獲得している。
緊急避難的に利用されるケースも多かったカプセルホテルは、日常生活の一部だったとも言える。一方、国内線LCC就航や高速バス網の拡充など、国内でも低廉簡便に移動できる交通手段が増えており、若者や女性のひとり旅といった新たな旅行者層の需要が喚起されている。そのような中で、リーズナブルな旅を目的とする訪日外国人客も含め、旅のデスティネーション的な存在感をも放つ進化系カプセルホテルの需要は高い。
カプセルホテルをはじめとした簡易宿所施設は、一般のホテルと比較して法律上求められる設備などのハードルは低く、イニシャルコストは低廉で参入が容易と言える。インバウンド需要はさまざまな要因で激減する危険性を内包しているが、参入はもちろん撤退も容易であれば、予期せぬリスクへも柔軟に対応できるだろう。一方で、手段としての宿泊施設と言う側面が強いリアリティーある業態だけに、選ばれる施設になる条件とも言える"プラスα"は重要だ。進化系カプセルホテルに今後も注目したい。
筆者プロフィール: 瀧澤 信秋(たきざわ のぶあき)
ホテル評論家、旅行作家。オールアバウト公式ホテルガイド、ホテル情報専門メディアホテラーズ編集長、日本旅行作家協会正会員。ホテル評論家として宿泊者・利用者の立場から徹底した現場取材によりホテルや旅館を評論し、ホテルや旅に関するエッセイなども多数発表。テレビやラジオへの出演や雑誌などへの寄稿・連載など多数手がけている。2014年は365日365泊、全て異なるホテルを利用するという企画も実践。著書に『365日365ホテル 上』(マガジンハウス)、『ホテルに騙されるな! プロが教える絶対失敗しない選び方』(光文社新書)などがある。
「ホテル評論家 瀧澤信秋 オフィシャルサイト」