脳卒中などの重い脳疾患により入院する患者は、回復期の長く孤独なリハビリ治療を過ごすうちに気分がふさぎがちになり、うつ病を発症することもある。従来よりこうした患者の治療に活用されてきたのはアニマル・セラピーだが、飼育や維持に手間のかかる動物に代わって近年はロボットを活用したロボット・セラピーも導入され、リハビリ効果や自発性向上といった治療効果を認めた研究が相次いで発表されている。
「Pepperが発表された時、そのかわいらしい外見や仕草、子供のように高い声音から、ロボット・セラピーに活用できると直感しました」と語るのは、順天堂大学医学部附属浦安病院で脳神経外科を担当する鈴木隆元医師である。
「脳卒中で入院されている患者さんは手足のまひや失語症が残っているケースが多く、リハビリ治療を受けていただくことになりますが、病室で過ごす長い時間に会話をする相手がおらず、刺激の少ない毎日を送っているのです」
こうした入院患者の話し相手になったり、気分転換のレクリエーションを病院スタッフが提供することは、人員確保やコストの面から現実的には難しい。
病棟に現れたPepperが入院患者に話しかける
「当院に導入されたPepperを試験的に入院病棟へ連れていきました。夕食時間前後の、患者さんが比較的のんびり時間を過ごしている時間帯を選び、事前説明などは行わず、ただPepperをナースセンター前に置いて、患者さんたちの反応を見守りました。初めは恐る恐る様子をうかがっていた患者さんたちは、やがてPepperに近づいていきます。するとPepperが人を認識して話しかけたり、アイコンタクトを試みるなど、何らかの動作を始めます。患者さんたちはすぐPepperに話しかけたり触ってみたりと、自発的にコミュニケーションを始めました」(鈴木医師)
Pepperが浦安病院にやってきたのは2016年初頭のこと。2月に院内で実施されたバレンタインコンサートの案内係としてデビューし、その後は外来患者を出迎える総合案内で館内案内や病院の歴史、病気予防のガイダンスといった接客業務を担当している。Pepper導入を主導した同院 事務部長の川島徹氏は、その経緯を次のように話す。
「Pepperは来院された方が必ず通る総合案内でみなさまをお出迎えしています。当院の外来患者数は1日約2000人で午前中の診察時間に集中しますから、1階ロビー周辺はかなりあわただしい状況です。しかも当院では現在、新病棟を建築中で本来の外来者用入口であるロータリーが使えずご不便をおかけしていますから、Pepperと触れ合っていただくことで少しでも気分を和ませていただければと思っています」(川島氏)