1月20日の米大統領就任式をもって、いよいよトランプ政権が始動する。トランプ大統領が「大統領らしく」振る舞い、「意外に悪くない」と評価されるのか。それとも、過激な選挙公約を強引に実現しようとして、ワシントンに混乱をもたらし、世界を巻き込むのか。これまで想像でしかなかったものが、いよいよ現実となる。
トランプ大統領がどのような政権運営を行うか。当面の政治日程から注目点を挙げておこう。
大統領の就任に先立つ1月3日に新議会が召集されており、一連の閣僚候補の承認公聴会(上院)が10日に始まった。トランプ氏が公約を実現すべく選択した閣僚候補には、政治経験に乏しく、利益相反などの問題が指摘される人物も含まれる。彼らが何を語るのかは傾聴に値するだろう。
議会は上院も下院も共和党が主導権を握っており、よほどのことがない限り閣僚指名が否決されることはないだろう。ただ、承認がスムーズに行われるかどうかで、トランプ政権と議会の距離感がある程度わかるかもしれない。
20日の就任式から間を空けずに、トランプ大統領は議会で所信表明演説(例年の一般教書演説に相当)を行うはずだ。そこでトランプ政権が最優先に取り組む課題が明らかにされよう。
議会での法案審議に時間がかかることもあって、トランプ大統領は就任早々から大統領令(executive order)を発動して、公約実現に向けてスタートダッシュをもくろむかもしれない。例えば、オバマケア(医療制度)を廃止して代替制度を作る前に、オバマケアを骨抜きにするような大統領令が発動される可能性はあるだろう。
2月に入ると、インフラ投資を実行するための2018年度(*1)の予算教書が発表される。所得税や法人税の減税、資産税の廃止なども盛り込まれる可能性が高い。予算教書を受けて、議会で予算審議が開始される。そして、停止中のデットシーリング(債務上限)が3月16日に復活するため、それを引き上げる立法措置が必要になる。さらに、4月28日には、2017年度の暫定予算が失効するので、年度残り(9月末まで)の予算措置が必要になる。
(*1)2017年10月から18年9月までの1年間。
当然ながら、トランプ政権が打ち出す政策は主に法案に反映され(*2)、随時議会で審議されることになる。全く関係ない法案の付帯条項の一つとして成立が目指されるケースもある。
(*2)米国では議員立法が基本であり、政権の意を受けて議員が法案を提出することになる。
大統領就任式から4月末までの100日間は「ハネムーン(蜜月)期間」といわれ、新しい大統領と議会やメディアが良好な関係を作るとされる。トランプ氏は選挙期間中から多くの敵を作ってきたため、「ハネムーン期間」があるかどうかも不透明だが、最初の100日間にトランプ政権に何ができるかは、その後の政権運営を考える上でも重要だ。
そして、トランプ氏が大統領就任後も続けるとするTwitterも、引き続き重要な情報源となりそうだ。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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