IntelはCES 2017において、没入型コンテンツに対する取り組みや、IoTや自動運転時代に対する取り組みに関するアップデートを行なった。

まず、CES 2017開幕前日の1月4日に記者説明会を開催し、VR/AR、そして同社がMerged Reality(マージド・リアリティ)と呼ぶ、仮想現実技術を紹介した。説明会では、250人の報道関係者それぞれに、PCとヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用意し、最新コンテンツの体験を通じてテクノロジの進歩を見ていくという試みを披露した。

記者発表会に登場したIntelのブライアン・クルザニッチCEO

記者席に用意されたゲーミングPCとHMD、そして万一のVR酔いのためか、エチケット袋も

Intelのブライアン・クルザニッチCEOは、「新しいユーザー体験が、テクノロジやイノベーションを加速する。そして、それを支えるのがムーアの法則だ」とし、同社が開発を進めている10nmプロセスを採用した次世代CPU"Cannonlake"(キヤノンレイク)の薄型2-in-1デバイスのリファレンスモデルによる動作デモを披露。ムーアの法則はいまも健在だとアピールする。その一方で、「ハードウェアこそがソフトウェアやコンテンツをリードする」という考えを示し、ハードウェアの進化が、今後も新しいユーザー体験の要になると説明した。

Cannonlakeのリファレンス2-in-1システムを披露するクルザニッチ氏

コンシューマ市場では、ユーザー体験が一番目の選択肢となっており、新しいユーザー体験がテクノロジやイノベーションを加速すると指摘

その一方で、新しいハードウェアや技術が、新しいユーザー体験をもたらすとアピール

新しいビデオのカタチ

その例として、クルザニッチ氏は360度ビデオ再生技術を紹介。Intelが推進する最新の360度ビデオ再生技術は、スタジアムに38台の5Kカメラを設置し、これらの映像をつなぎ合わせることで360度のボリュームメトリックビデオを生成するものだが、1分あたり2TBと、膨大なデータ量を処理する必要がある。

現在、一般ユーザーが消費するデータ量は1日あたり650MB、これが2020年になると1日1.5GBに達するという調査会社の予測を参照しつつ、没入型の次世代コンテンツが普及すれば、データ量は爆発的に増えていくという考えを示した。

スペインサッカーリーグのラ・リーガのテレビ中継で活用中の360°ビデオ再生技術では、スタジアムに38台の5Kカメラを設置し、1分あたり2TBの膨大なデータの360°ビデオを生成

こうした没入体験型コンテンツは、われわれがめったに体験することができない冒険も味あわせてくれる。Intelは、VRが旅行体験を変える一例として、ユタ州モアボ渓谷で行なったスカイダイビングの様子をVRコンテンツとして参加者に体験させた。

VRが旅行体験を変えるとアピール

また、Hype VRが制作したベトナム最大の滝である、バンゾックの滝(Ban Gioc Waterfall)を、VR技術を使い、ユーザーが、あたかものバンゾックの滝を自由に歩き回り、美しい風景を楽しめるコンテンツも紹介した。これは、4Kビデオの映像を1フレームごとボリューメトリックの技法で3D座標にマッピングし、360度ビデオを作製、さらに独自のコーデックで圧縮し、6DoF(Six degrees of freedom:上下、左右および前後方向への動きに対する自由度)のVRコンテンツとするもの。そのデータ量は1フレームあたり3GBに達するという。

360度ボリューメトリックビデオのVRコンテンツでベトナムのバンゾックの滝を自由に歩き回ることもできる

クルザニッチ氏は、こうした、没入型コンテンツを快適に動かすためには、さらなるコンピュートパワーが必要だととして、過去20年以上にわたって、ビデオはつねに平面で、かつ同じ視点からの映像でしかなかったが、ボリューメトリック360度ビデオによって、次の進化がはじまるとアピールした。

スポーツを次のビジネスの柱の一つに

また、クルザニッチ氏は、VRは危険な仕事現場における効率を引き上げるのにも役立つという。例えば、大型ソーラープラントのパネル検査をドローンとVRの技術を組み合わせることで、パネルの発熱による人体への影響や、広大なプラントをカバーするのに必要な人員のコストなどを気にすることなく、安全かつ低予算で検査体制を築くことができるという。

デモとして、2,000エイカー(約800万平方メートル)の敷地一面にソーラーパネルを敷きつめ、250メガワットの発電を可能にするネバダ州モアパ川流域のインディアン保護区に建設されたプラントを、4台のHDカメラで撮影し、映像をつなぎ合わせた360度4K画像をライブストリーミングすることで検査を行なうVRデモを公開した。クルザニッチ氏は、こうした、危険な仕事の一部でVR技術が利用できるようになれば、仕事で人命が失われることも少なくなると、VRの導入を推奨する。

ドローン技術と組み合わせることで、危険な仕事も高精細なVRライブストリームで代替できると説明

このほか、Intelが没入型体験の分野で力を入れているのがスポーツだ。同社は、スペインサッカーリーグのラ・リーガの3つのスタジアムに、360度プレイバックのシステムを構築し、3年間の契約で、その映像をスポーツ中継などに提供、より多くの人々に、次世代ビデオコンテンツの魅力を体験してもらいたい考えだ。

また、独自の360度 VRキャプチャ技術を利用して、NFLやNBAなどのプロスポーツ中継を配信するVOKE社を2016年に買収し、Sports Groupを創立。没入型スポーツ体験を新しいビジネスとして展開する意向を示してきた。

Intelは、昨年VRコンテンツ制作技術を持つVokeを買収し、新にSports Groupを創立。スポーツ事業も一つの柱に据える

VokeのVR技術は、スポーツ中継中に表示されるメニューの方向を向くと、視点が変えられるというもの。360度自由に見られるスポーツ中継が複数視点から楽しめることになり、通常はコート全体が見られる視点から試合観戦を楽しみ、好きなチームのチャンスには、ゴール裏から迫力のある映像を楽しむといった、新しいスポーツ中継の楽しみ方ができるようになる。現在、このVokeのVR技術は、SamsungのGalaxy Gearのみの対応だが、2017年内にOculus Riftへの移植も行ない、マルチデバイス対応化を進めていくという。

没入型仮想現実の裾野を広げるProject Alloy

Intelは、デジタル映像だけで実現するVR(Virtual Reality)、現実の風景とデジタルデータを融合した仮想現実のAR(Augmented Reality)に続く未来として、同社がMerged Reality(以下MR)を紹介。これは、センサー技術を生かして、現実と仮想世界をよりシームレスに融合させるもの。コントローラがなくとも、自分の手足でアクションが起こせる仮想現実世界だ。

Intelが考えるMRとは

その新しい没入型仮想現実世界を実現するためのデバイスとして、Intelが開発を進めているのが、「Project Alloy」(プロジェクト・アロイ)だ。Project Alloyは、VRヘッドマウントディスプレイに、Intel第7世代Coreプロセッサと、イメージ処理用のVisionプロセッサ、魚眼レンズと各種センサーを統合したRealSenseモジュールを統合し、バッテリを内蔵することでケーブルなしで没入型仮想現実世界を体験できるヘッドセットとなる。

Project Alloyを披露するクルザニッチ氏

Project Alloyのリファレンスモデル

CESでは、このProject Alloyを使って、実際の部屋の家具や小物をマッピングして、複数のプレイヤーが楽しめるMRゲームのデモを披露。現行のVRやARと違って、多数のプレイヤーでも同じ空間でお互いを認識しながらゲームを楽しめるのも、MRのアドバンテージとなる。

Project Alloyを利用したマルチプレイゲームのデモ

クルザニッチ氏は、このProject Alloyを、より多くのOEMに活用してもらうべく、ハードウェア開発のみならず、コンテンツ開発についても、Intelが全面的にサポートをする意向を表明した。Intelは、Project Alloyをオープンなハードウェアプラットフォームとして、OEMベンダーに提供、2017年第4四半期には、複数の製品が市場に出回る見通しだ。

また、前述のHypeVRについても、Project Alloy対応を進めていることを明らかにし、最先端の没入型コンテンツ市場で同社のアドバンテージを発揮していきたい考えを示した。

IntelがOEMを通じて2017年第4四半期に市場投入を計画しているMR対応ヘッドセットのProject Alloy

5Gで、自動車市場を狙うIntel

また、IntelはCES 2017開幕に合わせて、次世代移動体通信規格5Gモデムのサンプル出荷を年内に開始すると発表した。5Gモデムに関しては、Qualcommが2016年10月に24GHz帯をサポートする5Gモデム「Snapdragon X50 5G」を発表し、年内のサンプル出荷開始を予告しているが、Intelは「Qualcommのソリューションは、あくまでも米Verizonや特定キャリア向けの製品であり、われわれの製品こそが、全世界の5G網をサポートできる世界初の製品である」(アイシャ・エバンス、Intel Communication and Devices Group担当副社長)とアピール。2018年にもサービスが開始される5G時代に向けて、積極策に打って出たカタチだ。

Intel 5GモデムのGoldridge (出典 Intel Copyright : Walden Kirsch/Intel Corporation)

Intelが発表したのは、日本でも採用が予定されているミリ波と呼ばれる28GHz帯と、6GHz以下の周波数をサポートする開発コードネーム"Goldridge"(ゴールドリッジ)と、同製品と組み合わされる6GHz以下の帯域(3.3~4.2GHz)とミリ波(27~29.5GHz)をサポートするRFIC(Radio Frequency Integrated Circuit :無線周波数集積回路)トランシーバーの"Monumental Summit"(モニュメンタルサミット)という2つのチップだ。すでにサンプル出荷を開始している28GHz帯用RFICの"Segula Peak"(セギュラ・ピーク)を組み合わせれば、デュアルバンド対応も果たすことが可能だとしている。

Intel初の5Gモデムとなる"Goldridge"の概要

5G RFICトランシーバーの構成例

28GHz帯は、米国、日本、韓国が主な市場となり、3.3~4.2GHzの6GHz以下の帯域は中国およびヨーロッパが主な市場となる。Goldridgeは5G専用モデムチップとなるため、LTE(4G)接続にも対応させるためには、同社のXMM7360LTEモデムと組み合わせる必要がある。しかし、Intelがこの5Gモデムでターゲットとするのはスマートフォン市場より、2020年に500億以上のデバイスがインターネットに接続されると見られるIoT市場や、自動車市場だ。

5Gの自動社向け活用

Intelはクラウドからスマートデバイスまで、幅広い分野での5G活用を視野に入れる

具体的には、5Gの用途として、より信頼性に優れ低遅延性が求められる自動運転やヘルスケア、ドローンから、没入型コンテンツ向けデバイスや今日の移動体通信活用まで、幅広いジャンルをターゲットにする

特に、自動車市場については、CES 2017において"Intel GO"と呼ぶ自動運転向けプラットフォームも発表し、5Gモデムと組み合わせてクラウドサーバーと接続する移動体通信網を構築するIntel GO Automotive 5G Platformと、クラウドサーバーと接続した自動運転のAI学習などを司るIntel GO In-Vehicle Development Platform、そしてソフトウェア開発キットのIntel Go Automotive SDKを発表した。

Intelブースに展示されたBMW 7シリーズをベースとした自動運転のテスト車両

Intel GO In-Vehicle Development Platform(出典 Intel)

その中核となる車載コンピュータのIntel GO In-Vehicle Development Platformには、次世代AtomプロセッサやXeonプロセッサとArria 10 FPGAを組み合わせたものなど、用途に応じて性能の異なる2モデルが用意される。IntelブースではBMWグループとMobileye technologiesとの協業による自動運転テスト車輌も公開された。Intelとしては、5Gモデムを武器に、自動運転市場で先行するNVIDIAを追う考えだ。