関東バスと両備ホールディングスは1月18日、業界初の全11室扉付き完全個室型の豪華夜行高速乗合バス「DREAM SLEEPER東京大阪号」を東京=大阪間で運行。両社は新幹線よりも高い価格ながら付加価値の高いサービスを提供することで、価格競争に陥った高速バス業界に"新時代の乗り物"を目指している。
移動そのものを楽しめる乗り物
同バスは池袋駅と大阪・なんば(OCAT)/門真車庫間をつなぐ、上下線各1日1本に導入。下りは池袋22:50発=なんば06:40着/両備バス門真車庫07:30着、上りは両備バス門真車庫21:50発/なんば22:40発=池袋06:40着。池袋=なんば間の乗車時間は7時間50分~8時間となる。
この路線は全席個室による特別車両で運行するため、運賃の他に座席料金(1万1,000円)が必要となる。発券時には運賃と座席料金を合算した料金で発売する。合算した片道料金は大人2万円・小児1万5,500円となり、2月28日までは運行記念割引として、片道料金大人1万8,000円・小児1万4,500円で利用できる。
なお、東京=大阪(新大阪)間で新幹線を使った場合、片道1万3,620円(「のぞみ」の指定席だと、通常片道1万4,450円)で時間は2時間30分程度となる。「新幹線を使った方が安くて早いのでは」という声もあるが、同サービスは時間を有効活用するとともに、移動そのものを楽しめるような乗ることが目的になることを目指し、既存モデルを改良して開発された。バスの製造メーカーは三菱ふそうトラック・バスで、全長11.99m/全幅2.49m/全高3.52mとなる。
"DREAM SLEEPER"というネーミングの通り、最高の眠りと上質なリラクセーションをコンセプトにしている。両備ホールディングス代表取締役副社長の松田敏之氏は、「バスの形状はこの20年変わっていません。高速バスは規制緩和を経て、価格競争に陥ってしまい、度重なる事故でイメージを下げてしまっています。ホテル感覚でくつろげるこのバスが、高速バス業界の発展、イメージの向上、そして、次世代の担い手が集まってくれるきっかけになってくれることを願っています」とコメントしている。
ムアツクッションでゼログラビティ姿勢
では実際、約8時間の間に提供されるサービスはどのようなものなのだろうか。まず、大きな荷物を預けて車内に乗り込むと、ウエルカムアロマが出迎えてくれる。花や木など植物からとれる100%天然製油を使ったもので、2種類の香りからその日によってチョイスされる。なお、床は全面カーペットとなっているため、乗車前に靴からスリッパに履き替えが必要となる。このカーペットには消臭機能が備わっており、ふわふわのスリッパはそのままプレゼントされる。
ブラック&メタルとブラウングレイン(木目)のコントラストのインテリアは、上質でホテルのようなリラクセーション空間をイメージ。各居室を扉とパーテーションで仕切り、1席1席がプライベート空間となっている。なお、扉には鍵はついておらず、走行中の安全確認のため各居室は運転席のモニターで確認しているが、プライベート保護の観点より、座った状態ではモニターに映らないようになっている。
一番のこだわりは座席にある。座席のクッションには、枕・背面・座面・フットレストの全てに「ムアツクッション」を採用。昭和西川が宇宙ロケットの突端の形状からインスピレーションを得て開発したもので、実際に座ると包まれていることを実感できる。座席の角度はボタンで調整でき、NASAの理論に着想を得た浮遊感を感じながら"深眠"できる「ゼログラビティ姿勢」にも、ボタンひとつで早変えが可能。いつでも眠る環境は整っている。
くつろぎを高めるこだわりのアイテム
アメニティーはスリッパのほか、ブランケット(貸し出し)やヘッドフォン(貸し出し、カバー付き)、iPhone/Android用USBケーブル(貸し出し)、ミネラルウォーター、スリープマスク、耳栓、歯ブラシセット、ウェットタオルを用意。各座席にはAC100コンセントとUSB充電コンセントを装備しているので、パソコンや携帯電話の充電も可能だ(最大消費電力は75Wまで)。また車内では、キャリアを選ばず接続時間無制限で7カ国語に対応した無料Wi-Fiを用意。そして、各座席には1台、イオン発生機プラズマクラスターが備えられているのもポイントである。
頭上にはバッグを収納できる棚が備え付けられており、折りたためるテーブルはノートパソコンを使うにも便利な大きさを確保。居室内にはダウンライトと間接照明(前壁上方向)の2つの照明があり、用途にあわせて自由に調整が可能だ。また、音楽でも快眠に誘えるよう、「ねむりのおんがく」(スワベック・コバレフスキ)などの快眠&リラックス効果を狙った4つのBGMも用意している。
各居室のほか、温水洗浄機能と水浄化機能が備わったトイレや、独立型のパウダールームも設置。パウダールームには、揺れる車内でも安心して使えるよう収納式の椅子があり、鏡の両端にはLED照明を備えることで明るく使いやすさを追求した。
「高速バスの価値から大きな転換」
初便となる1月18日はすでに予約が埋まっているが、以降の便に関しては1月11日現在、まだ予約も可能とのこと。座席があれば当日決算でも利用は可能。払戻手数料は乗車日の12日前までは100円、乗車日の11~9日前までは2,200円、乗車日の8~2日前までは3,300円、乗車日の前日~出発時刻までは5,500円、発車時刻以降は全額となる。
両備ホールディングス代表取締役会長の小嶋光信氏は、「東京線を展開する上で、一番大事なことはパートナーでした。よきパートナーを見つけることがわれわれの思いを遂げられる大事なところでしたが、関東バスの内藤社長に勇気ある決断をしていただけたと思います。今までの高速バスの価値から大きな転換が必要になります」とコメントしている。
現状、展開は東京=大阪のみであり、今後の展開は未定となっている。快適性・居住性はもちろんだが、サービス上で最も欠くことができない安全性に関しても、衝突軽減装置や車両逸脱装置の設置、3点式のベルト、しっかりとした安全訓練を受けた乗務員の2人体制など、徹底した環境を整えている。この「DREAM SLEEPER東京大阪号」が今後、どのように高速バス業界を変えていくか注目したい。