2017年1月6日に米労働省が発表した12月雇用統計の主な結果は、(1)非農業部門雇用者数15.6万人増、(2)失業率4.7%、(3)平均時給26.00ドル(前月比0.4%増、前年比2.9%増)という内容であった。

(1)12月の非農業部門雇用者数は、市場予想(17.5万人増)に届かず、前月の修正値20.4万人増から伸びが鈍化した。3カ月平均の増加幅でも前月の18.2万人から16.5万人に減速した。なお、2016年は通年で225.9万人の雇用が創出されたが、前年の274.4万人を50万人近く下回っており、今年に入り雇用の拡大ペースが鈍った事がわかる。

(2)12月失業率は市場予想どおりに前月から0.1ポイント上昇した。もっとも、前月の4.6%は2007年8月以来の低水準であった事や、労働参率が62.8%に上昇した(労働力人口の増加がうかがえる)事から、悪化したとの印象は薄い。なお、広義の失業率である不完全雇用率(U6失業率)は、前月からさらに0.1ポイント改善して2008年4月以来の低水準となる9.2%に低下している。

米非農業部門雇用者数と失業率

(3)12月平均時給は、前月比、前年比ともに市場予想(0.3%増、2.8%増)を上回る伸びを見せた。前月は予想外の減少(前月比0.1%減)となっただけに、注目が集まっていたが、増加基調に変化はない事が確認できた。なお、前年比2.9%の伸び率は、2009年6月以来、7年半ぶりの高さであった。

米国平均時給

この米12月雇用統計に対して市場は、ドル高・債券安(長期金利上昇)・株高というポジティブな反応を示した。非農業部門雇用者数の減速については、失業率が「完全雇用」に近いと考えられる水準まで低下する中にあって悪材料視される事はなかった。失業者が減少する中では雇用者数が伸びないのは当然との受け止め方が主流のようだ。そうした中で平均時給が予想以上に伸びた点は、人手不足による賃金上昇の兆候と見る事もできる。トランプ次期米大統領の経済政策への期待感と相まって米国景気は堅調を維持していると言って良いだろう。市場は今のところ、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げは6月以降(短期金利先物市場の織り込み度合いより)と見ているが、もし次回1月雇用統計で平均時給の伸びが加速すれば、3月利上げ観測が急浮上する可能性もありそうだ。

執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)

株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya