面積が小さいためか爪のトラブルは軽視しがちだが、足の爪は歩行に重要な役割を果たし、手の爪は物をつまむといったごく日常の所作に不可欠な存在だ。一方で、手足の先端で神経が集中している爪は痛みを感じやすく、トラブルを放置しておくと思わぬ害を被るケースもありうる。
大事なパーツでしかも痛みやすい存在の爪を、私たちはどのように守っていけばよいのだろうか。本稿では形成外科医の佐野仁美先生にうかがった、身近に起きやすい爪トラブルの予防・対策について紹介する。
巻き爪と陥入爪は深爪をせず、適度に歩いて予防
巻き爪とは爪が異常に内側へ湾曲している状態。その爪の両端が皮膚に食い込んでしまうと陥入爪(かんにゅうそう)となる。足の爪に起きやすいこの2つのトラブルは多くの場合、同時に起こる。その原因と対策を整理しよう。
■適度に歩いて、爪に圧力をかける
爪は自然と内側に湾曲する性質があるため、歩行で下から圧力をかけると平らな爪の維持につながる。一般的に子供より大人の方が脚の外側に体重をかけて歩く傾向があるそうだが、そうなると足の親指にかかる力が減り、巻き爪や陥入爪になりやすくなる。しっかり親指を地につけるイメージで歩くように。
■爪の先端は指の先端と同じくらいに
爪先の白い部分を全部切ってしまうのは切り過ぎ。指の先端の皮膚に食い込んで、陥入爪になりやすくなる。爪の長さは、先端が指の先端と同じくらいか、ほんの少し長いくらいが適当。さらに爪の両端を丸くせず、直角になるように切り、最後に角がひっかからない程度になだらかに整えるのがベストだ。
■靴はぴったりのサイズを選ぶ
きつい靴はもちろんのこと、大きめの靴も避けるようにしたい。靴の中で足が動いてしまい、足先が靴の先端に当たって爪にダメージを与えたり、変形の原因になったりするためだ。
また、足裏や指にかかる力のバランスがくずれ、正しい歩行の妨げにもなる。踵や足の甲がフィットし、指先に余裕がある靴を選ぶようにしたい。
グリーンネイルの原因と対策
爪のトラブルで最近よく聞くのが「グリーンネイル(緑膿菌感染)」。爪が緑色になることから、この名で呼ばれている。ジェルネイルの流行がグリーンネイルが知られるようになったきっかけとされている。
爪に塗布したジェルなどが時間がたって浮いてきた結果、爪との間に緑膿菌が侵入して感染することが原因で発症する。水分が付着したまま長時間放置するとなりやすいため、水仕事が多い人によく見られる。予防と対策は以下の通り。
■ジェルネイルを施したら、適度にメンテナンスを
ジェルが浮いてきたら、ジェルネイルを施したネイルサロンでメンテナンスしよう。そのまま放置しておくと、ジェルと爪の間に水分がたまり、緑膿菌が侵入しやすくなる。「ジェルが浮いてきたから」と自分で勝手にはがすのも絶対NG。返って、爪そのものに大きなダメージを与えてしまう。
■時には爪を休ませる
美しく彩られたネイルは素敵だが、時には休ませることも大事。「グリーンネイル」は緑色が薄くても、緑膿菌が活発に活動している場合がある。何も塗っていない素の状態にして爪の健康状態を確認し、オイルなどで保湿することをお勧めする。
ブーツを履く冬になるとぐんと増える爪白癬
「爪白癬」とはあまり聞き慣れない言葉かもしれないが、「爪の水虫」を意味する。足が蒸れて皮膚が水虫になり、それが爪にまで感染してしまうことが主な原因となる。
ブーツを履く冬は女性の爪白癬が増える。完治するまでに時間がかかり、再発率が高いのが特徴だ。水虫のイメージは決してよくないだけに、以下の方法でしっかりと対策を行うように。
■同じ靴を毎日履かず、3~4足をローテーションで
足は私たちが考えている以上に汗をかいている。その湿った状態が白癬菌を増殖させる。足を清潔にするのはもちろん、汗を吸収した靴はよく乾燥させるとよい。一日履いた靴は、日光に当てたり乾燥剤を入れたりするのが効果的で、少なくとも毎日同じ靴をはくのは避けよう。3~4足の靴を用意し、日替わりで履くのを心がけたい。
■自己診断はNG
水虫に気づいて病院で治療し、せっかく治ったのに再発……というシチュエーションは、残念ながらよくある。白癬菌は想像以上にしぶとく、一見治ったかに思えても、実はまだ皮膚や爪で生き続けて再び活動するのを待っている。
症状が無くなったように見えても自己判断で薬を止めず、医師の指示に従うことが完治への一番の近道だ。
「たかが爪」と軽視せず、異常を感じたら悪化する前に医師の診断を受けるように。爪の色に変化が見られたら皮膚科を、変形しているようなら形成外科の受診をするように。爪の健康が体の健康に欠かせないことを覚えておきたい。